2014年8月29日金曜日

デング熱より危険で身近な感染症が見過ごされている件

デング熱が日本に再上陸したと騒ぎになっていますね。代々木公園の蚊に刺された事による発症疑いが報じられています。

厚生労働省は、国内でデング熱に感染した人が、27日に発表した女性に加え、さらに2人確認されたと発表した。3人は同級生で、東京の代々木公園でデングウイルスを保有する蚊に刺されて感染した可能性があるという。


都では代々木公園を一部立入禁止にし、蚊の駆除を行う模様です。



最も人を殺した生物は?

デング熱のような蚊が媒介する感染症は、世界的な問題になっています。マイクロソフト創業者で慈善活動家のビル・ゲイツ氏は、今年の4月に自身のブログの”The Deadliest Animal in the World”と題した記事の中で、「年間で最も人を殺している生物」のランキングを発表しています。記事によると、2位の人間自身(年間475,000人殺害)を抑え、トップは蚊(年間725,000人殺害)でした。

説明を追加


蚊が最も人を殺しているという話に驚かれるかもしれませんが、蚊が媒介するマラリアによって、年間2億人の発症者と60万人の死者が出ている事実をビル・ゲイツ氏は指摘しています。蚊はマラリアの他にも、日本脳炎、西ナイル熱、そしてデング熱等、数多くの感染症を媒介し、人類を死に至らしめています。このような蚊が媒介する感染症の脅威について、ビル・ゲイツ氏はブログでモスキート・ウィークと題し、集中的に記事を投稿する事で警鈴を鳴らしていました。(下動画:ビル・ゲイツ氏によるモスキートウィーク動画)





では、蚊が媒介するデング熱も恐ろしい病気なのでしょうか。答えは、必ずしもそうとは言えません。



治療すれば致死率は低いデング熱

デング熱は蚊によって媒介されるデングウィルスに感染する事で発症します。国立感染症研究所によれば、1年間に世界で1億人がデング熱を発症しますが、ほとんどの場合、後遺症も無く治癒します。この1億人のデング熱感染者のうち、25万人が適切な治療をしないと死に至るデング出血熱と呼ばれる重症例を起こしますが、致死率は数パーセントから1パーセントほどです。デング熱発症者の400分の1が重症化し、重症者の中の数パーセントが亡くなっていると考えると、致死率は必ずしも高い感染症ではない事が分かります。デング熱が問題になるのは適切な治療を受けられない国で、そのような国は公衆衛生も未発達ですから、蚊による感染症リスクは高いのです。先のゲイツ氏も貧困問題と絡めて、蚊の問題を提起しています。



致死率20%以上の見過ごされている感染症

致死率の高くないデング熱が騒がれている反面、昨年2013年に国内で初の死者が確認されて以降、20名以上の死者を出している感染症の事はあまり知られていません。重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウィルスと呼ばれる感染症がそれで、発症すると発熱と消化器系の症状が見られ、重症化すると死の危険が伴います。国立感染症研究所によれば、2014年7月30日の段階で、国内で85名の感染例が報告され、うち26名が亡くなっており、致死率は20%台とかなり高い感染症です。発症は西日本に集中していますが、それ以外の地域でもSFTSウィルスの遺伝子が検出されたダニが発見されており、日本国内に広くSFTSウィルスに感染したダニが分布していると考えられています。

SFTS症例の発生(感染)地域(国立感染症研究所サイトより

このSFTSも動物によって媒介される病気ですが、媒介するのは蚊ではなくダニの仲間のマダニです。ダニと言っても、住宅のじゅうたん等に潜むダニとは違い、野外に生息するダニで都市部の公園の緑地にも見られます。蚊は幼虫が発生する水溜りを無くせば駆除できますが、ダニは土と植物のある所にはどこにいもいますので駆除が難しいという問題があります。

SFTSに対しては、マダニに噛まれないよう予防するのが第一と厚生労働省は薦めています。野山へ出かける際は、長袖・長ズボン等で肌の露出を抑え、ディートと呼ばれる成分を含む虫除け剤を用いる事で、より効果的にマダニを防げます。そして、もしマダニに噛まれて発熱を起こしたら、医師にマダニに噛まれた事を伝える事も重要です。吸血虫のマダニを無理に取ったり、潰したりすると、マダニの刺し口が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液が皮膚内に逆流してしまう可能性もあるので、可能ならば皮膚医による処置を受けましょう。

夏季休暇シーズンも間もなく終わりますが、続く9月の連休でも野外へ出かけられる方も多いかと思います。いくぶん涼しくなったのですから、可能な限り長袖等で予防を心がけましょう。



【関連】

虫除けグッズは数あれど、実績と信頼性でDEET(ディート)に優るものは無いでしょう。ディートは戦後にアメリカ陸軍で開発された虫よけ剤で、蚊からダニ、さらにはヒルまで優れた忌避効果を発揮します。だいたいの蚊よけスプレーはディートが主成分です。

ところが、マダニに対してはある程度ディートが高濃度である事が求めれていて、おおよそディート配合率10%以上の製品がマダニ対応を謳っています。なお、国内では12%が認められた最高濃度です。

マダニ効果を謳っている、国内のディート高濃度製品はこちら。


フマキラー スキンベープミスト 200mL 【HTRC3】

【第2類医薬品】ムヒの虫よけ ムシペールPS 200mL


ムヒのムシペールは国内最高の12%配合なので良いかも。スキンベープミストも10%なのでマダニ効果謳っている。





自分はちょっと心配なので、P&Gがアメリカで売っている25%濃度の防虫スプレ―使っていますが、国内でもディート高濃度製品は買える事は買えます。この3M製の防虫剤はディート34.34%。


軍人テスト済み 強力虫除け12時間 3M ウルトラソン(ULTRATHON)スポンジ付 虫刺されから守る 約42.5g (1.5oz)



ディート不使用のハーブなんちゃら? 私は信用してません。

2014年8月23日土曜日

「10式戦車データ大全」書店委託と、既刊誤字訂正について

先日は暑い中、コミケのドラゴニアブースまでお越し頂き、誠にありがとうございました。

おかげさまで、10式戦車データ大全は用意した300部が全て完売となり、委託既刊・新刊も全て完売致しました。改めてお礼申し上げます。

都合により会場に来れなかった、ブースに来たら完売していたという方が多く、書店委託についてお問い合わせを頂いておりました。そこで検討の結果、300部を増刷して書店委託する運びとなりました。

とらのあな様で委託させて頂く事になり、28日頃に販売開始される予定です。既に下記リンクにて予約が始まっています。


10式戦車データ大全


書店価格はコミケ頒布より100円上がった800円(税抜)となりますが、書店販売版は誤字訂正と表紙のPP加工を行った第2版になります。

誤字訂正につきましては、下記の通りになります。



正誤一覧

p3「テストヘッド」 → 正:「テストベッド」複数箇所

p3「シミュレーションナ」 → 正「シミュレーション」

p4「努めで」 → 正:「努めて」

p13「ベリスコープ」 → 正:「ペリスコープ」複数箇所

p13「されたのは、は」 → 正:「されたのは、」(第2版にも誤字が残っています)

p16「モノシリック」 → 正:「モノリシック」複数箇所(第2版で間違って修正し、全部”モノシリック”になってしまいました…)

p22「動揺に」 → 正:「同様に」




誤字だらけですね…2版にまで残った、あるいは増やしてしまったものもあります……。

電子書籍版につきましては、書籍版がある程度捌けてからやろうと思いますので、今しばらくお待ち下さい。

2014年8月13日水曜日

嫌韓系まとめブログの6割以上が、韓国系ブログサービスを利用し広告収入を得ていた件

以前からギクシャクしていた日韓関係ですが、最近の朝日新聞の慰安婦強制連行証言の検証報道により、より混沌とした情勢になっていますね。

慰安婦問題と言えば、先月もこんな報道がありました。国連人権規約委員会による、日本政府への勧告です。


【ジュネーブ時事】拷問禁止、表現の自由などに関する国連人権規約委員会は24日、日本政府に対し、ヘイトスピーチ(憎悪表現)など、人種や国籍差別を助長する街宣活動を禁じ、犯罪者を処罰するよう勧告した。また、旧日本軍の従軍慰安婦問題についても、「国家責任」を認めるよう明記した。



慰安婦問題と並んで、ヘイトスピーチなどの差別を助長する街宣活動の禁止を日本政府に求めています。ここでも念頭にあるのが、韓国・中国に対するものです。レイバーネットの報告に取り上げられた経緯が書かれていますので、ちょっと見てみましょう。


 ヘイトスピーチについて、イスラエルのシャニイ委員が取り上げた。「韓国人を殺せ」などと叫ぶデモが全国で350件も報告され、広範に起きていることが委員会の場でも確認された。:


シャニイ委員が指摘するように、近年の嫌韓国・中国のデモ活動が行われているのは事実です。今年1月に公安調査庁が出した「内外情勢の回顧と展望」においても、右派グループのヘイトスピーチについて触れています。


排外主義的主張を掲げ,インターネットで活動参加を呼び掛ける右派系グループは,領土・歴史認識問題など韓国や中国との諸問題を捉え,在日公館に対する抗議活動を実施したほか,「国交断絶」を訴える集会やデモ行進を行った。
特に,「反韓国」を掲げた活動では,東京や大阪のいわゆる「コリアンタウン」周辺で「韓国人を日本海にたたき込め」などと訴え,デモ行進を繰り返し実施した。こうした中,同グループの訴えを「ヘイトスピーチ」(憎悪表現)と非難する勢力(「対抗勢力」,下記のコラム参照)との間で小競り合いが頻発し,暴行事件も発生した(5〜6月,東京)



嫌韓デモ(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)

これら排外主義を掲げる右派グループについて、公安調査庁はインターネットで参加呼びかけが行われていると指摘しています。確かに、近年の嫌韓・嫌中ムードの高まりは、ネットの存在抜きには語れないでしょう。「韓国」、「中国」といった単語で検索をかけると、ネガティブな予測検索結果やサイトばかりが出てきます。ここで大きな役割を果たしているのが、いわゆる「まとめブログ」です。

まとめブログについては、ご存知の方も多いと思います。メディアの報道等を引用し、それについての反応を2ちゃんねる等のネット上から転載してまとめているブログの事です。まとめブログは著作権無視、恣意的な編集、扇動的な内容等、数多くの問題が指摘されていますが、有名どころになると月間アクセス数(PV)が1億を超えており、そのPVから莫大な広告収入を得ている運営者もいると言われています。

このように莫大なPVを持つまとめサイトの影響力は、少なからぬ物があると見るべきでしょう。そして、大手まとめブログでも、嫌韓ネタはよく出てきます。韓国のどーしようもないネタは、読者の溜飲を下げるコンテンツとして価値が認められているようで、嫌韓専門を謳うまとめブログもあるくらいです。海外から見て、ヘイトスピーチが隆盛していると思われても仕方ないかもしれません。

ところで、扇動的な内容で人を集めるまとめブログで利益を得ている人は誰でしょうか。もちろん、第一はブログ運営者がいますが、ブログサービスを提供しているサービスプロバイダやポータルサイト運営企業にも広告収入等が入ります。企業側がブログ運営者に対し、特別なアフィリエイトプログラムを提供する事もあるなど、両者は極めて密接な関係にあると言えるでしょう。言わば商業ヘイトスピーチの共犯です。

では、嫌韓ブログはどうでしょうか。ブログ運営者のみならず、企業も嫌韓・ヘイトスピーチで儲けている事になります。そこで、嫌韓ポータルサイト「嫌韓ちゃんねる」に登録されている66の嫌韓ブログを調査し、まとめサイト形式で扇動的な内容の44のブログについて、どの企業がブログサービスを提供しているのかを調べてみました。その結果が下の円グラフです。

嫌韓ブログが利用するブログサービス

嫌韓ブログ44のうち、3分の2近い28がlivedoorブログを利用していました。(一覧については、リンク参照)。ランキング変動と入れ替わりがあるため、現在のランキング内にいるブログと若干異なりますが、あっても大勢にほぼ影響はありません。

livedoorと言えば、堀江貴文氏が経営していた企業だと記憶している方も多いと思います。しかし、堀江氏の逮捕後にlivedoorは解体が進み、現在は企業としてのlivedoorは消滅しています。現在のlivedoorはブランドとして各種サービスで使われていますが、そのブランドを保持しているのは、あのLINEです。そう、韓国のインターネットサービス会社ネイバーの日本法人のLINEです。

韓国に対するヘイトスピーチを扇動するまとめブログの相当数が、韓国系企業のサービス上で嫌韓を煽り、その利益をブログ運営者と韓国系企業で分け合うという、大変グロテスクな光景が広がっています。嫌韓を煽る活動を韓国企業が支援しているんですから、煽っておいて世話になるブログ運営者にも、LINEにも恥という概念が存在しないようです。

ところが、やっぱり自覚しているブログ運営者もいるようで、韓国資本で嫌韓ブログやっている事を目立たないようにしたいブログ運営者もいるようです。先ほどの44の嫌韓ブログの中には、URLを独自ドメインやlivedoor以外のドメインを使う事で、URLに”livedoor”が含まれないようにしているブログも多く存在していました。

嫌韓ブログのlivedoorドメイン使用率

全体の4分の3がlivedoorだと一見して判らないURLを使っていました。HTMLソースを見たりすればlivedoorだと分かるんですが、そこまでする人もあまりいないでしょう。

何故、韓国系企業が自社サービスで自国へのヘイトスピーチ・誹謗中傷を行わせるばかりか、それにより利益まで得ているのでしょうか。もちろん、利益という面も大きいと思いますが、気になるネット記事がありました。


実は、2009年以降、韓国政府内では大統領直属の「国家ブランド委員会」という組織を設立して、例えば地図を「日本海」ではなく「東海」と世界地図を表記するようにロビイングするなどの、国際社会での韓国の相対的な地位向上を目指している。そしてアプリに気をとられないで、LINE社の日本国内での煽動的なサイト運営は結果として「韓国を侮辱する下品な日本人」のイメージを作り出している。そして韓国に対する日本のイメージを相対的におとしめるという意味では、韓国政府の意に沿ったものとなっている。
エコーニュース:通話アプリのLINE社 HPにない「ゴースト韓国系役員」が登記簿で発覚 親会社ネイバーのCEOは韓国政府・元司法官僚


LINEの親会社である韓国ネイバーの第2位株主は韓国政府系ファンドで、CEOは元地方裁判所判事。国家保安法により反国家活動が厳しく制限されている韓国では「親日的」なサイトですらアクセス遮断対象となるのに、韓国系企業で行われる韓国への侮辱は野放しという不自然さについて上記記事では指摘しています。その上で、ネット上のヘイトスピーチが日本の国際的地位を毀損している事実と、韓国系企業がネット上のヘイトスピーチを助長している活動は、韓国政府の意に沿った形になっている事を示唆しています。

もちろん、これは傍証からの憶測に過ぎず、確固たるものではありません。しかし、結果的にヘイトスピーチが日本の国際的地位を毀損し、その助長に韓国系企業が関わっているという構図は確かにあります。

しかしながら、ここで韓国けしからん、みたいな結論に導く事に意味は無いと思います。ヘイトスピーチを行っているのは紛れも無く日本人で、それは煽られたとしても自発的な行動である事に変わりありません。ここで韓国の意図通りに踊らされたと主張しても、韓国の掌でいいように踊らされたと泣き言を喚いているようなもので、実に情けなくありませんか? 理由がなんであれ、自分の行動は自分しか責任を持てません。

そして、そのLINEについても、先月16日に東京証券取引所への上場を申請し、今秋には上場すると言われています。しかし、上場企業になろうという会社が、こんな扇動的で法的にも危ういサービスばかり展開して、PV荒稼ぎして儲けてますと有価証券報告書に書くんでしょうか。

嫌韓ブログ運営者も、LINEも、自分らがしている事を考えて見た方がいいのでは。






※この記事が、同じくLINE系列のブロゴスに転載されるかどうか、wktkして見守っております。

※念のため書いておくけど、除外した22のブログの半数以上もlivedoorでした。まとめブログではないので、アメーバが若干目立つくらい。


【関連書籍】





2014年8月8日金曜日

「元艦長に聞く、潜水艦の世界」講演要旨

7月19日、神保町の書泉グランデで、「中国の海上権力 海軍・商船隊・造船~その戦略と発展状況」の出版を記念して、著者の山内敏秀氏の講演会が開かれました。

山内氏は海上自衛隊入隊以降、潜水艦畑を歩まれてきた方で、潜水艦についての著書も出されていますが、今回は中国の海上権力についての本を出版されました。その出版記念で、著書の内容とはいささか異なりますが、御自身が艦長まで経験された潜水艦について語って頂くという企画です。

潜水艦の情報は限られているだけに、またとない機会だと行ってきました。潜水艦の運用から、最近話題のオーストラリアとの潜水艦協業、あるいは中国海軍の潜水艦という話もあり、中々耳にしない情報なだけにこちらにレポを残したいと思います。


【講演要旨】

潜水艦乗りが共通して持つ感性は何か。それは音に敏感な事。(dragoner注:音の話ばかりですす。これ重要)


P-3C導入時のエピソード

P-3Cが導入されて間もない頃の訓練で、敵役の潜水艦1隻が4回くらい訓練で撃沈判定を受けた。
あまりに悔しかったので、P-3C乗員を飲み屋で酔い潰して聞き出した所、原因が判明した。
無音潜航にも種類があって、それ以前も無音潜航。哨戒無音先行等があったが、P-3Cの一件以後は「特別無音潜航別報」(なんでもかんでも停止)という無音潜航を作った。



同じモーターでも違う音がする

同じメーカーが作った、同じモーターでも駆動音が違う。音の違いで艦が分かってしまう。特別無音潜航別報が発令されたらなんでもかんでも止める。
潜水艦で特別無音潜航すると、食事係まで連絡がいく。無音潜航する間に食べる量の食材を出して、あとは倉庫・冷蔵庫・冷凍庫を密封する。



特別無音潜航で開けっ放しになるドア

艦内の床には無音シートが敷き詰められている。そして、艦内の部屋のドアは開けっ放しにして、動かない様にロックする事で開け閉めの音を出さないようにする。乗員の私物なども皆固定する。

スイムダイブ(出港後、一番最初のダイブ。「スリム」かもしれない)で急速に潜航し、一番深いところまで入る。水圧により船体の軋む音が聴こえるが、水圧により船体が弾性変形している音なので、聴くと安心する。急速に潜航するので船体が大きく傾くが、私物でコーヒー缶を持ち込んだ隊員がいて、固定不足で転がり、ガランゴロンと船内中に響いた。


音でどこまで分かるか

マンガでシャーシャーというスクリュー音の擬音があるが、あれは意外と正確。1分間に何回音を聞くかで、商船か軍艦かを推測できる。3枚スクリューの商船の場合、1分間に聴こえた音の数を3で割ると軸の回転数になる。

ソナー員によれば、この船はプロペラの先が欠けている、この船はエンジンの調子が悪い、という事まで分かる。



「マダイが愛を囁いている」

海には魚鳴音(ぎょめいおん)が多い。魚の無き声のことで、海ではいろんな魚が鳴いている。ソナー員がある時こう報告した事がある。「マダイが愛を囁いている」。

魚は敵がいる時の鳴き声、エサがいる時の鳴き声で違う声を出している。
「カーペンターフィッシュ」と潜水艦乗りに呼ばれる魚鳴音があるが、何の魚なのか判らない。カーペンター(大工)なのは、大工がカナヅチを叩いているような音から。アメリカの潜水艦乗りに聞いても、「あれはカーペンターフィッシュだ」という答えだった。



トランジェントノイズ

音の分析にはある程度の長さの時間が必要だった。1分間の中に音が入ってくれないと分析できないので、突発的な音の分析手法に悩んでいたが、ある分析手法を考えて解決した。

この時期(7月)の対馬海峡でよく聴く音があり、正体が判らないのでDATに録音して分析した。
正体はハゼの仲間が浮袋をふくらませて、メスをおびき寄せる音だった。

昔、娘が小学校の夏休みの宿題をやっていないというので、家の近くの音を条件を変えてDATに録音し、それを馴染みの業者に解析させてもらった。そこで、ドップラーノイズからサイレンを鳴らしているこの救急車は時速何キロで走っているか、等を分析した宿題を書かせて提出させた。
先生のコメントがクラスで唯一無かった。



中国の潜水艦の音

本に中国の潜水艦のことも書いた。
中国の潜水艦も止まる時は静かになる。走っている時は闇夜に金太鼓鳴らしているくらいの音。
漢級が領海に進入した事件があったが、あれは漢級が母港を出港した時点で日米は分かっている。

2009年にアメリカの音響観測艦インペッカブルに中国船が接近して妨害した事件があったが、あれはインペッカブルによる中国の晋級弾道ミサイル潜水艦の音紋調査だった。
晋級の音は隠し切れないので、中国船が近くで騒いで周囲雑音を作り出す事で音紋調査を妨害していた。

商級の攻撃型潜水艦が配備された頃、横浜のノースドッグに短い期間で33回、米海軍の音響観測艦が来た事があったが、ある日突然全艦いなくなった。

夏級の音は160dbもある。鉄道橋の下で100dbなのだから、これはものすごい音。



海上自衛隊の潜水艦の低騒音化

海自でも潜水艦の雑音低減対策をしている。ハード的な低減法は幾何級数的に費用がかかってしまい、あるレベルを超えると1db減らすだけでとんでもない費用がかかる。
音を海中に伝播しないようにするということは、船体と海の間を切ってしまう事だ。

音の研究について、少なくとも2000年前後は自動車業界が一番進んでいた。協力を求めようとしたが、トヨタは敷居が高いので見せてくれない。ゴーンが来る前の日産はおおらかで、同じ横須賀同士という事で見せてくれて、音の収集・分析ノウハウを頂いた。

潜水艦の音の出処を調査したところ、通風器を固定するボルトが長すぎて船体にあたり、通風器が回転するとボルトを伝って音が艦体から水中に出ていた。これは建造した造船所に行って、修繕工事をさせた。

今の海自の潜水艦はフローティングデッキ(音的に宙に浮いてしまった、船体と切り離された構造)を採用しており音は小さい。今はいかに海中に雑音を放射しないかが焦点。

水上艦も含め、ある一定の期間を過ぎるとどういう音が出ているかを検査する。1000ヘルツ以下の音が遠くまで伝播するので、調べられている。



潜水艦と二酸化炭素

大気中の二酸化炭素濃度はいくつでしょうか。1973年に私が習った時は200ppm(0.02%)でした。今は400ppmにまで二酸化炭素が増えているのを実測で感じる。

ハッチを閉めて、艦内気圧を高める、密閉を確認。
そこで二酸化炭素濃度が1%出ると、頭の動きがボーっとしてくる。濃度が増えると人体に影響。
艦内気圧も上がっているので、高気圧化における血中高炭酸ガス濃度という現象が起きる。

海上自衛隊の検知管は3%以上の濃度を検知出来ない。測ったらずっと3%ということもあったが、3%ということにしておいた。
二酸化炭素濃度3%という空間では、すぐタバコの火が消える。タバコをゆるやかに吸えない環境。

水酸化リチウム(炭酸ガス吸収剤)を床にマットを引いて、その上に撒く。細かい粉塵が出て、咳き込む事もあった。
後に電動の炭酸ガス吸着装置が装備され、搭載したフネに乗っていたが、使った経験は一回も無かった。吸着装置を回すために電気を使うため、電気の無駄と使わなかった。



潜水艦とタバコ

潜水艦乗りはタバコを吸う人が多い。76年頃、フネでパイプが流行った。乗員の3分の2も吸っていて、艦長もマッカーサーばりのコーンパイプ持っていた。ハッチをくぐった瞬間、煙で前が見えなかった事もある。

艦内が禁煙になることもある。その時は潜水艦がシュノーケルを出して換気を始めようとする瞬間までタバコ加えた人がいた。

シュノーケルを出すと、艦内の弁を全て閉め、ディーゼル・エンジンを回すと艦内の空気が全部ディーゼルに吸われていき、それから弁を開けると新鮮な空気が入ってくる、これを5回繰り返すと艦内の空気が入れ替わり、タバコが吸える。



潜水艦のトイレ

艦内に排泄物を貯めておくサニタリータンクは2つあり、潜行中はタンクに高圧空気を注入して海中に排出する。その排出後、サニタリータンクに入れた高圧空気は、再び艦内に戻ってくる。
潜水艦乗りは変な匂いがすると言われるが、いくら洗っても服に染み付いている。
トイレでトイレ内の圧力が低いと、タンクから逆流する事がある。


潜水艦と健康

潜水艦乗りは耳抜きが重要。これがうまくいかず、鼓膜が破れた幹部がいた。
風邪をひくと大変なことになる。耳ぬき出来ない。

虫歯も辛い。艦内の気圧が低下すると、虫歯穴が痛みだしてくる。
呉には潜水艦に理解ある歯医者がいた。歯の治療は何回も通院しなければいけないが、航海に出る潜水艦乗りはそれが難しい。予約が一杯でも優先してすぐに治療してくれた。とにかく虫歯の穴に詰めものして、帰ってから詰め直すなどしてくれた。



脱出訓練

脱出訓練では、潜水艦内の乗員を救う。
1939年の潜水艦スコーラスの沈没事故では、初めてサルベージ(船体引き揚げ)によらない、レスキューチャンバーによる救出が行われた。これは沈没した潜水艦にチャンバーを密着させ、ハッチから救出する仕組み。

もう一つの救出法(脱出法)はスタンキーフード。乗員がスタンキーフードを被って脱出する。今は江田島に施設があるが、昔はハワイの100フィート水槽で行っていた。
スタンキーフードが破れてしまった時は、生身の人間が上がっていく。息を吐き続けながら、吐いた泡より遅いスピードで浮いていかなければならない。(dragoner注:そうしないと水圧の変化により、肺が破裂する)
100フィート水槽には、巨大なセクシーな女性のピンナップが描かれている。水槽から上がると教官がいて、「どうだった?」と聞かれる。そこで「なにが?」と聞くと、もう一回潜らされ、親指を立てると合格になる。



潜水艦と食事

3自衛隊で、陸だけ食事は当番制を取っている。イベントで行く機会があっても、陸で食べていけない。
行くなら海。私は陸で言う「温食」という言葉を知らなかった。海は必ず温かい食事を出す。海はメシにうるさい。
ご飯を必ず胚芽米にする艦長がいた。肉も霜降りは駄目、赤みだけのステーキだった。

なにがなんでもパン派の艦長もいて、パンをカビさせないため、アルコールを噴霧し密閉保存していた。

調理を専門にする隊員はすごい努力をしている。雪印などで常温90日もつロングライフ牛乳があるが、あれはもともと潜水艦用に開発されたものだった。
同じようなものにロングライフ豆腐があったが、日本で売れず、アメリカで売れた。

潜水時、赤の蛍光灯下では、何を食べても味がわからない。



艦長になっていいこと

艦長になる、と自分の都合で艦橋に降りたり出たりする事が出来た。
しかし、艦長は寝れない。艦長は潜水艦でたった1人の1段ベットだけど、それでも寝れない。
水上艦と違い、潜水艦では艦長が戦術単位の指揮官。今は衛星電話があるので、直接司令部から命令がくる。昔は電報を受信出来なかった事にすることもあった。


【質疑応答】

質問:帝国海軍の潜水艦には軍医が乗艦していたが、海上自衛隊ではどうなのか?


医者はいないが、看護長はいる。看護長が薬事法違反だが、薬を出している。
薬事法違反になるので麻酔は使えなかったので、指を裂傷した人を4人で押さえつけて縫った事がある。
ただし、アメリカでの訓練等の長期航海に出る時は、医官が臨時勤務で乗艦する。
冬場には風疹で困る事があった。艦内に感染症持ち込まれるとすぐに広まる。
酷い時は半分がインフルエンザでやられた。風疹で副長がヘリで運ばれた事もある。



質問:オーストラリアへの潜水艦輸出が最近言われているが、どういった所を魅力に感じているのか。


海上自衛隊の潜水艦より静かな潜水艦は原則ない。
外に伝搬する通路を全て切ってある。
また、ヨーロッパの潜水艦は北大西洋の冷たい海で活動しているが、日本の潜水艦は寒い所から温かい所まで活動している。南の海でシュノーケルで外気を入れると、室温が42、3度、湿度100%。コンピュータがダウンしたこともあった。今は改善している。


質問:先ほど喫煙の話がありましたが、大戦中の米潜水艦は艦内の水素濃度が1%を超えると禁煙になったというが、海上自衛隊ではあったのか。


保守管理で月1で均等充電というのをやる。バッテリーを空っぽにして、一気に充電する。
この間は水素が出るので禁煙だが、停泊時にやるので乗員は外に出ている。
通常の航海で水素が出るような充電はしない。



質問:原子力潜水艦を持つべきだと思いますか。


潜水艦である程度秘匿性を保ちつつ推進出来るのは15ノット以下。
原子力潜水艦は機関を止めても、高温高圧蒸気のパイプの音は決して消す事が出来ず、通常潜に比べ静音性に劣る。
フォークランド紛争でイギリス海軍が費やしたリソースの大部分は、アルゼンチン海軍の通常動力潜水艦を警戒した膨大な対潜努力。このロスが測りきれない効果を持つ。



質問:潜水艦の増勢の方針についてどう思われますか。


元潜水艦乗りにも喜んでいる人がいるが、喜べない。潜水艦要員養成の事を考えていない。
潜水艦16隻は重要海峡に3ローテーションで貼り付ける為という理由付けがされているが、今回の増勢でもそうなのか。

防大60年の歴史で、潜水艦適性があるのを優先してとったのは私がいた防大14期のみ。
潜水艦教育訓練隊の物理的なマスが飽和している。物理的な能力拡充無しに潜水艦拡充が決まっている。



質問:中国の潜水艦について


中国の潜水艦は海底のドロ巻き上げながら高速で動いている。
黄海の水深4,50メートルのところを、海底から10メートルで高速で突っ走っているので、潜水艦が通ると、海底のドロを巻き上げ黄色い帯が出て空から分かる。

潜水艦に関しては中国海軍のやっていることが分からない。何の脈絡もない。
中国では「上に政策あり、下に対策あり」という言葉があるが、上のベストチームがやったものは素晴らしいが、下の造船所に降りると同じ潜水艦でも悪くなるという事があるのではないか。
しかしながら、要員養成は間違いなく中国の方が日本よりちゃんとやっている。

また、中国PKOやリビアからの自国民避難など、これまで独立して動いていた中国海軍が、外交部や交通運輸部、商務部と連携をとるようになった事は注目される。




以上で講演は終了です。

潜水艦は注目されているが秘密が多い分野なだけに、実際に指揮を執られていた方の生の声は非常に貴重で、教育リソースが不足している状況で潜水艦を増勢する事への憂慮等は知る方だからこそ出た声で、これは広く知られて欲しく思います。

また、中国についても様々言及して頂きました。中国の海上権力の本の出版記念だから、ある意味本筋ですが……。中国海軍の軍備整備で潜水艦が脈絡無いというのは同感で、近年顕著な空母や駆逐艦、フリゲート艦の整備と比べて、中国の潜水艦の整備方針は異質です。ちょっとよくわかんない。

中国軍についての本についてもご紹介頂き、「中国の海上権力」共著者の浅野亮同志社大学教授の「中国の軍隊」も薦められておりました。両方とも入手して、サイン頂きました……。



関連書籍】

「中国の海上権力 海軍・商船隊・造船~その戦略と発展状況」

「中国の軍隊」






2014年8月6日水曜日

【告知だ】コミックマーケット86 1日目に出展しますだよ【予定な】

どうも、dragonerです。2年前の夏に出したっきり、放置プレイしていた10式戦車本を8月15日のコミケで出します。

なんとかギリで入稿でき、印刷所との調整も大丈夫だったので、輸送等でトラブルが無い限りは出ますよー。というわけで表紙やサンプルはこちら。



10式戦車の本と言いつつ、実は3分の2くらいは10式戦車のテストタイプである将来車両装置や、研究で求められた「将来戦車」についてです。そいつらで研究されていた以外の部分が10式戦車にあった場合、10式戦車にて言及しています。



10式戦車本というより、防衛省やメーカーが「将来戦車」をどう考えていて、それが10式戦車でどう実現して、どこが実現しなかったか、という本です。最終比較表を載せたかったのですが、デカすぎたのでいずれWeb上でなんとかします。


特に10式戦車の戦車ネットワーク、情報共有機能について、市販のどの本よりも詳細に書いたとは自負しております。その他、ボツになった技術等、これでしか読めんものも数多くありまふ。

2年前はペラいコピー誌だったのに対して、今回は40ページ超のオフセット本です。300部刷ってますが、売れ残りやしないかと戦々恐々してます。

なお、お問い合わせを頂いている書店委託ですが、当日の売れ行きをみて検討します。なお、売れ行きに関わらず、イニシャルコストがかからない電子版は出す予定です。



【出展詳細】

イベント:コミックマーケット86
日時:2014年8月15日(金)
場所:東京ビッグサイト 西く 32a
サークル:ドラゴニア

頒布価格:700enn

コミケWebカタログ内サークルページ:https://webcatalog-free.circle.ms/Circle/11312362/


なお、私も寄稿させて頂いた、サークル熊猫屋様の艦これ合同小説アンソロジー既刊の「戦争は艦娘の顔をしていない・改」。そして、夏コミ新刊の「艦娘のいちばん長い日」を委託頒布しています。こちらもお買い求め頂ければ嬉しいです。