2014年7月29日火曜日

マレーシア航空機撃墜事件と大韓航空機撃墜事件の共通点

マレーシア航空機の撃墜事件から2週間近く経ちますが、回収されたブラックボックスの解析結果が発表されました。

【モスクワ時事】ウクライナ国家安全保障・国防会議報道官は28日、東部ドネツク州で撃墜されたマレーシア航空機の飛行状況などを記録したブラックボックスを英国で解析した結果、地対空ミサイルが命中したことを示すデータが得られたと明らかにした。


ウクライナ政府の発表であり、最も犠牲者が出したオランダ政府は発表は時期尚早として不快感を示している等、信頼性は今ひとつではあるものの、マレーシア航空機の撃墜を裏付けるデータが揃いつつあるようです。

今回の事件は、紛争に無関係の民間機が撃墜された事で世界中に衝撃が走り、マレーシア航空機を撃墜したと思われる親ロ派武装勢力と、それを支援していると見られているロシアへの非難が強くなっています。民間機の撃墜が国際情勢に大きな変化を与えた事になりますが、過去にも同じような事件があり、日本も大きな役割を果たしていました。



マレーシア航空機撃墜事件と大韓航空機撃墜事件の共通点


冷戦真っ只中の1983年9月1日、ニューヨーク発ソウル行きの大韓航空機007便がソ連の領空を侵犯し、戦闘機に撃墜される事件が発生しました。機体は宗谷海峡付近に墜落し、乗客乗員269名は全員死亡という大惨事になりました。この事件は国際情勢に大きな影響を及ぼした事など、様々な点で今回のマレーシア航空機との共通点が見い出せます。

宗谷岬にある大韓航空機007便の慰霊碑(shirokazan撮影)

民間機のルートと撃墜


大韓航空機撃墜事件の直接の原因は、大韓航空機がソ連の領空を侵犯していた事です。何故このような危険な行為を大韓航空機が行ったのかは撃墜当初から謎とされ、大きな論争を呼びました。

マレーシア航空機の事件も同様に、戦闘で軍用機が撃墜されているウクライナ東部地域の上空を、何故マレーシア航空機が飛行していたかが謎とされました。マレーシアのリオウ運輸相は「ICAO(国際民間航空組織)や IATA(国際航空運輸協会)が承認する安全なルート」と語り、飛行が禁止されていない空域である事を強調しましたが、カンタス航空やアシアナ航空は飛行ルートから外す等の自社規定を行っていた事が報じられています(この経緯は末永恵「経営危機のマレーシア航空を2度襲った悲劇」に詳しい)。マレーシア航空機のルート選定過程で、そのような判断がなされていたのかが、今後注目されるのではないでしょうか。



傍受されていた通話


マレーシア航空機撃墜の後、ウクライナ保安庁は親ロ派武装勢力とロシア当局者の通話を傍受していた事を明らかにし、その内容を英語字幕付きでYouTubeに公開しました。(下動画)



撃墜直後の親ロ派武装勢力の生々しい会話が、英語字幕付きで多くの人に周知されたことで、親露派武装勢力とロシアの立場をますます悪いものにしました。

これとよく似た事が大韓航空機撃墜事件でもありました。大韓航空機撃墜時のソ連防空軍の通話を自衛隊が傍受したテープがアメリカに渡り、国連で公開されたのです。(下動画)



この傍受された通話は、アメリカによって英語・ロシア語字幕が付けられたビデオに編集され、国連安全保障理事会で流されました。当初は撃墜を否定していたソ連も、傍受テープの公開を受けて撃墜を認める事になりました。この公開手法は、マレーシア航空機撃墜事件におけるウクライナ政府の対応に影響を与えたのかもしれません。

この傍受テープは、当時の中曽根総理大臣・後藤田官房長官の決断でアメリカに渡ったとされていますが、具体的にどう受け渡されたのかは未だに明らかにされ ていません。また、秘密にされる事の多い自衛隊の通信傍受活動の一端が、明らかになった数少ない事例でもありました。しかし、テープ公開により通話が傍受 されている事を知ったソ連軍は通信を見直し、以後の自衛隊の傍受活動が困難になったとも伝えられています。ウクライナもそのようなリスクを敢えて冒したのでしょうか。ひょっとしたら、アメリカが傍受したものが、手の内を明かすリスクを抑える為にウクライナに渡って、ウクライナ名義で公開されたのかもしれません。


消えたブラックボックス


今回の事件では、マレーシア航空機のフライトレコーダー・ボイスレコーダー(いわゆるブラックボックス)が当初明らかでなく、その行方が注目されていましたが、大韓航空機撃墜事件でも同様にその行方に注目されていました。

傍受テープを公開された事で撃墜を認めたソ連は、大韓航空機007便はスパイ機であり、撃墜は正当なものと主張しました。その為、コックピットの会話を記録したブラックボックスが証拠になると思われましたが、日本とアメリカが懸命に捜索したもののブラックボックスは発見されませんでした。

ソ連崩壊後に公開された情報では、事件の後にブラックボックスはソ連により秘密裏に回収されており、分析も行われていました。その結果、大韓航空機007便がスパイ機であるという証拠をソ連は発見出来ませんでしたが、ソ連の主張に不利な証拠になるため、ソ連崩壊までブラックボックス回収の事実が明らかになる事はありませんでした。
米ソ(米ロ)関係の悪化

昨年末からのウクライナ問題で悪化していた米ロ関係ですが、今回の撃墜事件を受けてアメリカやEU諸国、日本はロシアへの経済制裁を強めており、ますますロシアとの関係は険悪なものになっており、「新冷戦」という言葉を使う識者もいます。

大韓航空機撃墜事件でも、アメリカのレーガン政権は事件を虐殺であると非難し、西ドイツ(当時)にミサイルを展開させるなど、ソ連への対決姿勢を強めていきました。この米ソ関係の緊張状態は、ソ連でペレストロイカといった開放政策が本格化するまで続くことになります。

このように様々な類似点が見られる両事件ですが、大韓航空機撃墜事件のような経緯を辿らずに、事件の解明と和解の方向を見出す事が出来れば良いのですが……。



【関連書籍】








2014年7月26日土曜日

2つの「避難」を巡る朝日の記事への違和感

とても違和感というか、モヤモヤとしたものを抱かざるを得ないニュースがあった。
気になったのはdot.asahi.comに掲載された、AERAの以下の記事のこの部分。

ただ、憲法改正に前のめりな安倍晋三首相の「妄想狂的なところ」に怖さを感じ、第2次安倍政権が発足した後、5歳の長男にも英語教育をほどこし始めた。いざというときの海外避難に備えて外貨預金をし、家族全員のパスポートも常備している。

閣議決定後、夫婦の会話は娘の中学受験の話から、集団的自衛権に変わった。政治に関する本を読み始め、少子化や高齢化についても考えをめぐらせる。

「特定秘密保護法も集団的自衛権も、来るものが来たなという感じ。自分の家だけで海外に逃げていいのか。ほかのお母さんたちがどんな思いなのかを知りたい」


集団的自衛権について、朝日等の反対メディアの論調は論理の飛躍や感情論を前に出しすぎていて、正直気味が悪いと思っていたけど、ここまで来るとさすがにドン引きである。

「危険からの避難」は万人に認められた権利であるが、実際の避難に際しては避難コストが問題になる。避難コストは金銭的な面だけでなく、それまでの居住地で築いてきた有形無形の資産――例えば土地や住宅、職や教育、人間関係といったモノ――を全て放棄することになり、言わば難民になる事を選択したようなものだ。そう簡単に避難は決断出来るものではない。

しかし、この記事中の母親達は真剣に国外避難を考えている。安部首相を「妄想狂的」と記事中の母親は述べているが、現状の集団的自衛権行使容認を戦争に直結し、生活を根本から破壊する国外避難を選択肢に入れる方こそ「妄想狂的」だと思う。娘の中学受験の話を放ったらかして、集団的自衛権の話ばかりしているのは明らかにおかしいだろう。

繰り返すが、避難コストは馬鹿にならない。フィクションの話だが、映画「インデペンデンス・デイ」の小説版では、宇宙人の母船が東京上空に来たにも関わらず、普段通りの生活と社会を維持しようとしていた東京の住民はほとんど避難せず、宇宙人の世界同時攻撃で東京は世界都市の中でも甚大な人的被害を被ったという描写がなされる。このように決定的破滅の予兆があっても、多くの人は避難を決断出来ない事は、先の東日本大震災と原子力発電事故でも、被災者以外の避難者がほとんど出ていない事が証明しているだろう。

しかし、危機の最中の情報が錯綜した状況が過ぎ、危険の恐れが無いと分かった今もなお続く行き過ぎた避難に対しては、冷静な目が向けられて然るべきだろう。そして、朝日新聞は過去にそういう記事を書いている。

「日本が終わる」。東京電力福島第一原発の事故後、そんな恐怖に襲われ、妻と子ども、弟夫婦の5人で九州に逃れた。原発がない場所を求め、縁もゆかりもない沖縄へ。ようやくマスクを外すことができた。

放射能は「他のリスクと根本的に違う」と語る。「目に見えないし、情報も玉石混交で、わからないことが多い。だから怖い」

「安心して買い物できる環境を」と7月に食品の放射線測定会社を設立したが、まだ軌道に乗らず、貯金を切り崩す生活が続く。

弟の丹さん(33)も会社を辞めて一緒に沖縄に来た。「僕は東京で被曝(ひばく)したので、10年もすれば病気になる」と真剣に話す。

(中略)

政府やメディアには強い不信感がある。一時は信頼していた学者も「東京はもう安全」と言うのを聞いて信じるのをやめたという。

自分の確信を裏付ける情報だけを探しているのでは。そう問うと、谷中さんは声を震わせた。「真実は私の体の中にあります」




この朝日記事は客観的に物事を伝えつつ、自分だけの真実を追求するあまり避難による生活破壊を厭わない人々について、読者に「この人達おかしい」と異常性を感じさせる構成になっている。この記事はかなり的を得た所があり、実際にこの記事中で紹介されている人物の一人は侮辱容疑で告訴され、今年5月に起訴猶予処分(被疑事実は明白であるが、起訴は見合わせる処分)を受けており、今も「私のツイッターはコントロールされている」と被害妄想を主張しており普通ではない。

そして、この記事と先のAERA記事を読み比べてみよう。原発避難者と集団的自衛権避難者の行動様式は大変良く似ているが、記事の書き方次第で意識高い人にも異常者にも描き分ける事が出来ると分かるはずだ。

原発避難者と集団的自衛権避難者は重なる所が多い。政府や学識者を信じず、「政府やマスコミが隠そうとする真実」を追い求め、根拠が薄弱な情報でも自分の確信を裏付けるものを信じ、内輪だけのグループで内輪だけで通じる会話を介して先鋭化し、自身の主張を出版し続けている。これら共通点は先の朝日記事で書かれている事をなぞっただけに過ぎないが、集団的自衛権行使容認で国外避難を考える人達にも当てはまる。

集団的自衛権行使を巡る議論で問題はあっただろうし、懸念される対米追従で逆に国益を害する可能性もあるだろう。しかし、集団的自衛権行使容認を戦争に直結するかのような飛躍は正常だろうか。戦争禁止の規定がある憲法を持つ国は日本だけで無いし、それらの国も国連憲章で認められた集団的自衛権を保持している(そもそも日本も権利は持っている)。集団的自衛権行使容認を戦争に直結させ、国外避難の準備を始める(そもそもどこに避難するのだろう?)のは、データ的裏付けに乏しい原発避難者とどう違うのだろうか。

むしろ、事実として原発はメルトダウンしており、データ的裏付けは無くとも被害を心配するのは無理からぬ事かもしれない。逆に、発生してもいない戦争から、自身の生活を破壊する国外避難を検討するのは異常に尽きるだろう。にも関わらず、朝日は前者を明らかに異常と感じさせる記事を書く一方で、後者を肯定的に報じている。これはあまりに無節操だろう。

娘の進学問題を話さずに集団的自衛権の話ばかりする親も、避難リスクと被曝リスクを天秤にかける事無く子供の為だと避難する親も、共通するのは家族への関心の低さだ。本人は子供の為と言いつつも、実は自分の事しか見ていない。一方は持ち上げて、一方には冷淡な朝日も、自身の政治的主張に利用できるかそうでないかの尺度で考えてはいまいか。



【関連書籍】

インデペンデンス・デイ (徳間文庫)

個人的に好きなインディペンデンス・デイ小説版。基本ラインは映画に沿ってますが、映画で描かれていない部分が結構おもろいのです。


長有紀枝「入門 人間の安全保障 - 恐怖と欠乏からの自由を求めて (中公新書)」

「避難する権利」とはなんぞや? という方へ。「恐怖」と「欠乏」からの避難が「人間の安全保障」の基本理念なんだけども、本記事は原発避難では実態に基づかない恐怖から避難をするあまり、欠乏に自ら突っ込んでいる人が多いよね、という話でもある。



2014年7月23日水曜日

迎撃成功率9割。イスラエルのミサイル防衛システム「アイアンドーム」とは?

先日の拙稿、「ガザ侵攻、イスラエル・ハマス双方の事情と国民の選択」でも触れましたが、8日に始まったガザ地区へのイスラエル軍によるガザ地区への軍事作戦”Operation Protective Edge”以降、イスラム原理主義組織ハマスがイスラエルに向けて1000発以上のロケットを発射したにも関わらず、22日現在でイスラエルの民間人死者は1名という軽微な被害に留まっています(1名であっても、イスラエル現政権は国民から非難されていますが)。これはハマスのロケットの精度が悪い事も一因ですが、イスラエルに近年配備されたミサイル防衛システム「アイアンドーム」によって、人口密集地に落ちるロケットのほとんどが迎撃されている事も大きいのです。



迎撃成功率約90%。「アイアンドーム」

アイアンドームは2011年に実戦配備が始まった防空システムで、長距離ロケット弾、迫撃砲弾といった射程4km~70kmの兵器を着弾前に迎撃する事が可能です。アメリカからの資金援助を受け、イスラエル国防軍とラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ社(イスラエル)により2007年から開発が進められてきました。

アイアンドームから発射されるタミールミサイル(イスラエル国防軍サイトより)

アイアンドームは、ハマスのロケット発射を10秒以内にレーダーで探知し、墜落予想地点を計算してから21秒以内にロケットを迎撃するタミールミサイルを発射します。この時、人口密集地に落ちると判断されたロケットに対してのみ迎撃ミサイルは発射され、砂漠等に落ちるロケットは無視されます。発射されたミサイルは目標に接近すると爆発し、破片を目標に浴びせかけ破壊します。

2012年に行われたガザ地区への軍事作戦”Operation Pillar of Defense”では、ハマスは8日間で1506発のロケットを発射しましたが、そのうち421発がアイアンドームにより迎撃され、人口密集地に落ちたのは58発と、被害を与えるロケット計479発に対して、9割近い迎撃成功率を誇っています。(動画はアイアンドームによる迎撃の様子)





2014年7月現在、アイアンドームは5個中隊が配備されており、現在進行中の”Operation Protective Edge”においても、同様に高い迎撃成功率を維持しています。イスラエルの人口密集地をカバーするには、アイアンドーム13個中隊必要だとイスラエル空軍は述べており、今後も調達・配備が続く事になります。

ここで不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。こんなに優れたミサイル防衛システムがあり、イスラエル国民の被害も小さいのなら、なんで何百人ものパレスチナ人が死ぬ事になる軍事行動を始めたのか、と。先日の拙稿では、イスラエル国民が攻撃を望んでいる背景をお伝えしましたが、今回の軍事作戦には他にも理由があります。その理由は、このアイアンドームの限界にも関係しているのです。



アイアンドームで迎撃できない長射程ロケットの拡散

今回のガザ地区地上侵攻に至った問題の1つに、アイアンドームで対応できない、より射程の長いロケットがハマスに渡った事があります。元々、ハマスが持っているロケットの射程は短いものでした。ところが、近年になりイラン・シリア経由で長射程ロケットが流入し、射程45kmの「ファジュル3」、射程75kmの「ファジュル5」と年々長射程化していきます。

今年7月には、射程160kmの”M-302”あるいは「ハイバル1」と呼ばれるロケットが、ガザ地区から発射されました。このM-302は、元々は中国が輸出用に開発したWS-1(衛士1)を原型にしており、イラン・シリアでライセンス生産されたものが、地下トンネル経由でハマスに流れてきたと言われています。M-302の160kmという射程は、ガザからイスラエル国土の大部分を攻撃可能になる事を意味しており、イスラエルにとっては非常に脅威となります。


ガザ地区から半径75km(内円部)、半径160km(外円部)

ところが、アイアンドームにとって、M-302は迎撃を想定していないロケットなのです。冒頭に書きましたように、アイアンドームは「射程4km~70kmの兵器」を迎撃対象としており、より長射程のロケット・弾道弾に対しては、開発中の「ダヴィデズスリング(ダヴィデの投石機)」と呼ばれるミサイル防衛システムの完成・配備を待たなくてはなりません。ダヴィデズスリングは2014年開発完了予定ですから、実戦配備にはまだ時間がかかります。イスラエルが軍事作戦を急いだ背景には、ダヴィデズズリング配備前に長射程ロケットの流入と発射を阻止したい意向があったものと思われます。


3月に密輸が摘発されたM-302(イスラエル国防軍サイトより)

このような長射程ロケット兵器の拡散が、イスラエルによるガザ侵攻の背景の1つとなっていましたが、長射程・高威力の兵器の拡散は世界的な問題になっています。先日のウクライナでのマレーシア機撃墜事件で、親ロシア派組織によるミサイル発射が疑われていることからも、その事が窺われます。近い将来、もっと日常に近い場所で、これらの兵器が使われない保証は無いのかもしれません。



【関連書籍】



2014年7月20日日曜日

「のび太が武装しても自分を守れますか?」の答え

「のび太が武装しても自分を守れるかな?」→「自分も守れるし、他人も守れます」

集団的自衛権の行使容認の閣議決定がなされてから3週間が過ぎようとしていますが、未だに議論は尾を引いて続いております。

そんな中、集団的自衛権について、高校生に教える授業が北海道で開かれたと朝日新聞が伝えております。

川原さんと伊藤さんは、「ドラえもん」を例に話を進めた。米国は「ジャイアン」、日本は「のび太」。安倍晋三首相は集団的自衛権の行使容認で「日本が戦争に巻き込まれる恐れは一層なくなっていく」と胸を張ったが、「のび太が武装して僕は強いといっても、本当に自分を守れるかな」と川原さん。生徒はみな顔を上げ、考えこんだ。


はい、ドラえもんに詳しい方ならもう苦笑していると思いますが、この川原教師と伊藤弁護士、そして「のび太が武装しても自分を守れるかな」という記事を書いた朝日新聞の河崎記者(あるいはデスク)は、ドラえもんを読んだ事も観た事も無いのが丸わかりですね。のび太の数少ない特技があやとりと射撃なのは、ドラえもんの基本設定なんですが……。

ドラえもん全作を通じたのび太の射撃の腕前については、ブログ「遠足新報」「のび太の特技分析・射撃編―「スナイパーのび太」の射撃シーン全リスト」でまとめられています。それによると、のび太は射撃が得意という設定初出は、12巻所収の「けん銃王コンテスト」だそうです。

そして、24巻「ガンファイターのび太」で、のび太は無類の強さを発揮します。この話では射撃ゲームで世界最高記録を出したのび太が、西部開拓時代にいたら有名なガンマンになれるかなと得意になった所、ドラえもんにバカにされたのに怒って、タイムマシンで1880年の西部開拓時代のアメリカに行ってしまいます。ここで街で暴れていたギャング2人を実弾で倒したのび太(倒した後泡吹いて倒れますが)は街の保安官に任命され、街を襲うギャング団と対決することに。


最終的にのび太は、撃たれた相手を眠らせるドリームガンで街を襲ったギャング団30人を全滅させます。このようにのび太は臆病ですが、武装させると滅法強いという設定なのです。今月から全米でドラえもんが放映されているそうですが、イジメられっ子だけど射撃が上手いというのび太の設定は、銃社会アメリカではコロンバイン高校銃乱射事件を彷彿とさせるので、封印されそうな気がします。

このように、川原教師と伊藤弁護士の「のび太が武装しても自分を守れるかな」という問いかけに対しては、「出来ます。自分どころか外国の街を守れます。まさに集団的自衛権ですね」と答えるのがベストアンサーなのがお分かり頂けたと思います。てか、この川原教師と伊藤弁護士は、ドラえもんを知らないどころか、人間としてののび太を馬鹿にし過ぎで、他人を劣っていると見る浅薄な思想の持ち主である事が窺えます。



集団的自衛権行使から核抑止までするドラえもん

このような「ジャイアン=アメリカ」、「のび太=日本」とするドラえもんの例え話は、左派系の人が安全保障問題を語る時に、好んでしております。例えば、民主党(2010年まで社民党)の辻元清美議員も、過去にこんな事言ってます。

中曽根康弘元首相の世代は敗戦コンプレックスだったと思う。首相は米国のような大国を夢見る国家主義的。 日本はジャイアン(米国)にいじめられるのび太か、と言えば(ジャイアンにすり寄る)スネ夫なんです。 私は日本はのび太でいいと思う。 ドラえもんという憲法9条があるんだから。

出典:日経新聞 2002年5月23日

ドラえもんが憲法9条、ですか。では、ここで他にも映画にもなった大長編ドラえもんの話を見て行きましょう。

のび太の宇宙小戦争(リトル・スター・ウォーズ) 」ストーリー

軍部のクーデターにより地球に逃れてきたピリカ星の大統領とのび太・ドラえもん達が出会い、共闘し、最終的に軍部を倒して政権を奪還する。

→軍事的脅威に脅かされた他国の元首を助ける、集団的自衛権の行使

のび太と鉄人兵団」ストーリー

ロボット惑星メカトピアの鉄人兵団による地球侵攻と地球人奴隷化計画を察知したドラえもん・のび太が、現実世界に似せた鏡面世界に鉄人兵団を誘い出して迎え撃つ。

→本土決戦を回避し、周辺地域での戦闘に限定することで被害を極限する明治日本の防衛戦略

のび太とアニマル惑星」ストーリー

犬猫等の動物型知的生命が暮らすアニマル星に、人間型宇宙人が侵攻。平和だったアニマル星に軍事力は無く(警察は麻酔弾しかない)、ドラえもんのひみつ道具で武装して対抗する。

→軍事顧問団の派遣と武器供与による抵抗


わあ凄い。ハリウッド映画かと思うようなストーリーの数々。そう、大長編ドラえもんはキレイ事だけで済まさない、かなりシビアな話が展開するのです。

中でも極めつけは「のび太と雲の王国」。雲を固定化するひみつ道具で、のび太一行は雲上に雲の王国を作ります。ところが偶然、雲上で文明を築いてた天上人の世界を発見し、のび太一行は天上人と交流を持つが、天上人は地球環境を破壊する地上文明を大雨で一掃する「ノア計画」の実行に移ろうとしていた……。

「雲の王国」が凄いのはここから。天上人の計画に気づいたドラえもんは、計画を阻止すべく切り札を用意する。



地上文明破壊を決意した天上人に、ドラえもんはそっちがやるんならこっちも滅ぼすぞと脅しをかけます。核抑止に匹敵する力を見せつける事で、相手を交渉の席に着かせようしているのです。

さらに凄いのは、天上人に捕まっていた地上の密猟者達が、雲の王国を乗っ取ってしまう展開。密猟者達は天上人への報復に雲もどしガスを使い、天上人の領土の1つ(北海道並の大きさ)を破壊する。更なる惨劇を防ぐため、ドラえもんは雲もどしガスのタンクに自ら激突させ、破壊されたタンクから漏れ出したガスにより雲の王国は消滅する。ドラえもんの自己犠牲により、天上世界は救われる。

大量破壊兵器による力の均衡に、その均衡が内部的要因で崩壊して破滅に至ろうとするも、最後は自己犠牲で救われる話を子供向けでやるんですから、藤子・F・不二雄先生は本当に凄い人です……。このように、集団的自衛権の行使から、自己犠牲による世界救済までを描いているドラえもんの作品世界は、少なくとも憲法9条を絶対視する左派系の人の対極にあると思われるのですが、いかがでしょうか。

そもそも、野比家は祝日に国旗掲げるような保守的な家だったりするのですが、左派系の人がなんで度々例えに出すのか、イマイチわかりません。安全保障でドラえもんを持ち出す人達に、原作に対する愛は微塵も感じられず、政治利用のためだけに作品を利用する最低の行為ばかりで、どれだけ醜い事を自分たちがしているのか自覚が無いんでしょうか。あ、自覚や愛もあったらそもそもしないか。



【関連書籍】

ドラえもんは二十歳過ぎてから読むのが面白い(ホント)










ガザ侵攻、イスラエル・ハマス双方の事情と国民の選択

8日に始まったイスラエル軍によるパレスチナ自治政府ガザ地区に対する軍事行動”Operation Protective Edge”は、開始から1週間を過ぎてもなお戦闘は継続しており、これまでにパレスチナ側の死者は200人以上に達しています。


【ガザ市AFP=時事】イスラエル軍は16日未明、新たにパレスチナ自治区ガザに対する空爆を行い、医療関係者によると、3人が死亡した。これで、これまでのパレスチナ人犠牲者数は200人に達した。
時事通信:ガザでの死者200人に=パレスチナ


今回の軍事行動に至った直接のきっかけは、6月に起きたユダヤ系イスラエル人少年3人の誘拐・殺害事件です。イスラエル政府は事件の犯人をガザ地区を支配するイスラム原理主義組織ハマス関係者と断定しており、軍事行動は少年殺害に対する報復を目的にしていました。過去にもイスラエルは自国民の誘拐・殺人に対しては報復を行っており、最近では2006年にレバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラによる兵士誘拐でも、イスラエル軍がレバノンに侵攻する事態となりました。

しかし、イスラエルは小国と言えども、中東で最強の軍事力を持つ国家です。そのイスラエルが殺された少年3人の報復として、200人以上のパレスチナ人を殺害する事に、多くの人が嫌悪感を持たれている事でしょう。日本国内でもイスラエルを非難する論調の報道が多く見られます。その多くは、強大なイスラエルが市民を巻き添えにした空爆を行っている、と。しかし、イスラエルとハマスを内部事情から見ると、両者が共に追い詰められ、袋小路にハマっている現状が見えてきます。


政府より国民が強攻策を望むイスラエル

これまでの空爆に続き、18日にはガザ地区への地上侵攻が始まりました。この地上侵攻の目的として、イスラエル軍はガザ地区から掘られた地下トンネルの制圧を挙げています。ガザ地区はイスラエル軍により、従来から厳しい検問が敷かれており、地下トンネルは生活物資の搬送からテロ攻撃要員の移動等、ガザ地区やハマスにとって重要な役割を果たしています。このような地下トンネルは無数に存在し、ガザ地区からエジプトへ、ガザ地区からイスラエルへと言ったように、ルートも様々です。

ガザ地区に掘られたトンネルの入り口(イスラエル軍広報アカウントより)


イスラエルは以前より、地下トンネルを通じたテロ攻撃に悩まされていました。2006年にも地下トンネルから潜入したハマス戦闘員が、警備にあたっていたイスラエル兵2名を殺害、1名を誘拐する事件が起きています。

また、ガザ地区からは頻繁にロケット攻撃が行われています。ハマスは射程4kmから75kmのロケットを保有しており、軍事行動が始まった7月8日以降、1000発以上のロケット弾がイスラエルに向け発射されています。この攻撃はイスラエルの人口密集地を狙ったもので、イスラエル全国民の約70%にあたる500万人以上がその射程圏内で生活しています。下の映像はイスラエルで開かれた結婚披露宴の最中にロケット攻撃警報が発令されて、参列者が避難する様子を写したものです(後半はロケットを迎撃するアイアンドーム防空システム)。このように、イスラエル国民の相当数は、日常的に脅威にさらされています。




このように日常的に脅威に晒される環境が、イスラエル国民にどのような影響をもたらしているのでしょうか。世界的な軍事史学者として知られる、イスラエルのマーティン・ファン・クレフェルト氏の言葉にその答えがあります。先日来日したクレフェルト氏は、講演の中で脅威にさらされるイスラエルについて、「政府より国民の方が極端な措置を要求し、報復を求めている。2006年にレバノンを攻撃しなかったら、恐らく政権は倒れていたと思います」と、国内事情を吐露しています(※当該講演要旨)。実際に今回の軍事行動においても、ハマスと一時停戦した直後にハマスのロケット弾攻撃でイスラエル民間人に1人の死者が出たため、イスラエルのネタニヤフ首相に対して、国内から強い批判の声が上がっていると報道されています。イスラエルの強硬な姿勢も、国民の強い支持を受けた結果の行動なのです。



トンネル封鎖で切羽詰まるハマス

イスラエル軍の目標はトンネルの制圧ですが、そのトンネルを掘っている側のハマスにとって、トンネルは非常に大きな意味を持っています。昨年成立したエジプトの新政権は、エジプトに繋がる全てのトンネルを封鎖しました。ガザ―エジプト間のトンネルは主要な物資輸送ルートであり。朝日新聞によればこのトンネル封鎖によって、トンネル密輸に従事していた労働者約5000人のうち7割が失業し、産経新聞もハマス幹部の言葉として、月に220億円の損失が出ている事を報じています。150万人のガザ地区住民の生活を支えるトンネル密輸は、ガザ地区・ハマスにとっての一大ビジネスとなっており、これを潰された事でハマスは密輸による収益を絶たれると共に、ガザ地区住民からの信頼を失ったとニューズウィークは報じています

イスラエルとハマスの紛争は、エジプトが仲介して停戦を結ぶ事が多々ありましたが、今回はエジプトの停戦案をハマスは蹴っています。ハマスにとり、トンネルを封鎖したエジプト新政権の仲裁を受けるのは腹立たしい事だったのかもしれません。



イスラエルが突きつける国民の選択

さて、今回の紛争でイスラエルの死傷者と比べ、パレスチナ側の方が格段に被害が大きいのは間違いありません。200名以上の死者を出しているパレスチナに対し、イスラエルは1,000発以上のロケット攻撃を受けたにも関わらず、攻撃のほとんどをミサイル防衛システムで迎撃しており、19日現在のイスラエルの民間人の死者は1人と、規模の割に軽微な被害に留まっています。

この被害の差から、圧倒的なイスラエルと弱者のパレスチナという構図で報道するメディアが多く見られます。今回のイスラエルの軍事行動を非難するのは簡単です。しかし、頻繁に市街地にロケット弾を撃ち込まれ、子供が誘拐されるような環境にある国の住民が、穏当な手段を望むでしょうか。イスラエル国防軍の広報アカウントでは、”Operation Protective Edge”が始まって以降、頻繁にある一文を載せた画像を掲載しています。


イスラエル国防軍の広報アカウントによる画像。「貴方ならどうする?


ロケット弾攻撃に晒されるパリを背景に「貴方ならどうする?」と問いかけています。このような立場に日本が置かれた場合、国民はどうするでしょうか。北朝鮮のミサイルが日本列島を飛び越えた事で一気にミサイル防衛推進に至った国民世論や、原理的に有り得ないゼロリスクを要求する人々が絶えない原発問題や環境問題等を踏まえると、少しでも生活への脅威があるのならば、日本国民もイスラエル国民と同じ選択をすると思います。誰だって、他人の命より自分の命の方がずっと大事なのですから。


国民の70%がハマスのロケット射程圏にある事を、各国で当てはめた画像

少年3人の誘拐殺人事件の後、イスラエルの極右勢力によって、パレスチナ人少年が拉致・殺害される事件も発生しています。イスラエルとパレスチナ(ハマス含む)の対立は、報復に次ぐ報復という悪循環にハマっており、これから抜け出すのは容易ではないと思われます。どちらか一方を非難するのではなく、イスラエル政権・ハマス双方にとって、怒れる国民・住民に対して逃げ道となるような「顔が立つ」オプションを国際社会が提示することで、双方を交渉のテーブルに着かせる事が重要になってくるのではないでしょうか。


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2014年7月14日月曜日

沖縄タイムスのおかしな「元自衛官」インタビュー記事

集団的自衛権の行使容認が閣議決定されてから2週間が経とうとしていますが、集団的自衛権を巡る報道は未だ冷める気配がありません。

そんな中、沖縄タイムスの元自衛官へのインタビュー記事、「集団的自衛権で辞職 元自衛官インタビュー」がTwitter上で話題になっているのを見かけました。さてどうしたと記事本文に目を通すと、記事のあまりの荒唐無稽さに驚きました。本当に実在する自衛官にインタビューされたのでしょうか。詳しく見て行きましょう。

この記事は7月14日付けで沖縄タイムスの公式サイトに掲載されました。記事は集団的自衛権の行使容認により、自衛隊が「軍隊」となることを危惧して、3月に退職した元自衛官へ集団的自衛権についての考えをインタビューしたものです。

命は惜しい―。政府が集団的自衛権の行使を容認するために、憲法解釈を変える閣議決定をしてから約2週間。海外での武力行使が現実になろうとしています。自衛隊が「軍隊」化することを危惧し、3月に辞職した20代の元自衛官に、集団的自衛権について、どう考えているのか、聞きました。


この冒頭は分かります。自衛隊は日本でも最大級の組織で、様々な考えを持った人が勤務しています。個人の信条として、軍隊化を忌避する人がいても不思議ではありません。しかし、個人の信条はともかく、自衛隊での経験を話しだすと、途端に疑問符が付きます。

安倍政権になってから、内容が大幅に変わりました。人を標的とする訓練が始まりました。これまでは、相手を捕獲することが基本でしたが、もう今までと違います。軍隊としか思えません。


この元自衛官が自衛隊のどの部署にいたのか、この記事では明らかではありませんが、人を標的としないで、捕獲する事を基本とする軍隊(ここでは敢えてそう書きます)とは一体何でしょうか。銃ならまだしも、ずっと以前から行われていた戦車砲やミサイルを撃つと言った訓練が、捕獲を前提にしている訳がありません。本当にこの元自衛官の言っている事が本当なら、むしろ以前の方が問題だと言わざるを得ません。爆弾落としてから相手を捕獲に行くと、真面目に言う組織があったらあまりに悪趣味だと思います。

他にもこの元「自衛官」の発言におかしな所は多々ありますが、沖縄タイムスがインタビューを恣意的に使っている節があります。集団的自衛権行使容認の閣議決定は7月に行われました。しかし、記事中にはこうあります。

―なぜ自衛官を辞めたんですか。

今回の集団的自衛権容認の閣議決定で、海外の「戦闘」に加わることが認められるようになります。自衛隊は、人を殺すことを想定していなかったのでまだ、「仕事」としてやれましたが、今後はそうはいきません。昇任試験も合格したばかりで、自衛官を続ける道もありましたが、戦争に加わって命を落とすかもしれません。命は大事です。


この自衛官は今年の3月に辞めたにも関わらず、記事タイトルは「集団的自衛権で辞職」になっており、辞職理由に集団的自衛権の行使容認を紐付けるには時間的に無理です。集団的自衛権行使容認の動きを懸念して辞職したならば、3月辞職でも分かりますが、「なぜ自衛官を辞めたんですか」の質問の後に、「今回の集団的自衛権容認の閣議決定で~」と返すのはあまりに不自然です。元「自衛官」の素性が怪しいか、記者がインタビューを相当曲解をしたと解釈するのが妥当でしょう。

集団的自衛権行使容認を懸念するのも分かりますし、安倍内閣を批判するのもいいでしょう。ただ、目的の為に手段を選ばない報道をするのはどうなんでしょうか。



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2014年7月12日土曜日

マーチン・ファン・クレフェルト講演会要旨。質疑応答編

先日に続き、イスラエルの軍事史学者、クレフェルト講演会のレポです。今回は質疑応答ですが、講演にも負けない密度です。質問者の名前については、肩書が研究者・ジャーナリスト等の方は実名で、そうでない方は肩書やイニシャル等で表記しております。


質問者:石井孝明(ジャーナリスト)
Q.エネルギー価格はイランの核とイスラエルの発言により動揺している。和解に向かっているとの報道があるが、今後の推移を予想して頂けないか。

A.イランの核兵器の問題を含めた湾岸地方の情勢は、石油価格を決定する一部でしか無いし、常に決定する要因でもない。いずれにしても世界各地でシェールガスの発見により、湾岸の重要性も低くなっていると思う。
将来、核を持ったイランとイスラエルは共存できると信じている。これは核を持ったソ連とアメリカが共存できたのと同じである。
核兵器のいいところはなんでしょうか? 核兵器は使われなければそれでいいし、使われた後は何も心配する必要はない。


質問者:石井孝明(ジャーナリスト)
Q.イスラエルに現在敵はいない状況だが、非対称戦争で緊張をどう維持しているのか。我が国では拉致問題等、北朝鮮の脅威があったが、緊張を維持できていない。

A.北朝鮮は国家であり、中央集権化が進んでいる。確かに色々嫌なこともあるでしょうが、機雷や地雷、爆弾を仕掛けたり、コマンド部隊を送って来る事もありません。他方、イスラエルは非正規部隊と対峙し、大きな損害を受けております。
イスラエルは世論を喚起する必要がなく、日常的に脅威に晒されている。政府より国民の方が極端な措置を要求し、報復を求めることがあります。2006年に政府がレバノンを攻撃しなかったら、恐らく政権は倒れていたと思います。
現在でも非正規戦闘員の問題は大きな問題として残っています。しかし、なんとかコントロールできたし、今後もそうできると思います。
問題は地中海から湾岸に至るまでがアフガニスタンのようになってしまった場合です。これまでのようなやり方を続けていられるか、先ほど言ったようにもっと恐ろしい事をしなければならないのかもしれません(講演でのモーシェ・ダヤンの引用参照)。
私としては、これまでの伝統的なやり方で収める事ができると思います。


質問者:T
Q.軍事的に対抗するには、モサドのような強力な諜報機関が必要だと思う。日本では諜報機関が無いというか、実力がない。強力な諜報機関を短期間で作るのにお知恵を拝借したい。

A.私はインテリジェンスについて答える資格はないと思う。インテリジェンスについては、喋る人は何も知らないし、知っている人は喋らない。 



質問者:化学メーカー勤務
Q.トルコとサウジアラビアへの言及がなかったが、イスラエルにとってこの2国の重要性は低いのか?

A.重要性が低いのではなく、講演の時間が足りなかっただけだ。
サウジアラビアとは長年非公式な形で、一種の同盟関係にある。イランというシーア派勢力をお互い恐れているからだ。他のペルシャ湾岸国にもそれは言える。長年湾岸諸国にいるイスラエル軍士官は、カウンターインテリジェンスやテロとの戦いのための技術支援をしている人もいる。多少問題が無いわけではないが、湾岸諸国との関係はうまくいっている。
トルコの状況は異なる。長年、対シリアという意味で重要な国だ。2008年にメルケル氏がドイツ首相に再選したことで(※dragoner注:2009年の間違い?)、トルコはEU加盟は無理だと理解した。これがトルコとイスラエルの亀裂の始まりとなり、彼らはアラブ世界への復帰を考え始めた。
これによって、問題が生じた。トルコからガザ地区への支援船問題等が起き、この件について関係修復はなってないが、全体としてはうまくコントロールされていると思う。
しかし、イラクは現在崩壊しようとしている、テロリストの巣窟になろうとしている。トルコがどう対応するか見守っていく必要があると思う。 



質問者:今村浩(早稲田大学教員)
Q.アメリカ政治学を研究しており、アメリカ政治におけるイスラエル・ロビーの影響力の大きさを意識している。核兵器を持つイランとの共存を楽観している理由について、詳しくお聞きしたい。イスラエルはアメリカに対して、イランの核兵器保有を容認するように働きかけることはあるか。

A.インテリジェンスの話で言ったように、知っていない者は喋るし、知っている者は喋らない。
核兵器問題について、イスラエルとアメリカの関係は50年ある。ケネディ大統領の頃、アメリカはNPTにコミットしていたので、イスラエルの核開発を望んでいなかった。ジョンソン政権はNPTへの関心がそれほどでもなく、エシュコル・イスラエル首相と取引をした。その取引の内容は、我々は核実験をしない、アメリカは知らないことにする、ということだった。
この取引は今日に至るまで続いており、成功していると言って良い。イスラエル周辺国で核兵器開発に乗り出した国はない。


質問者:M
A.アメリカの力が衰えており、太平洋に興味を向けている。イスラエルとしても考え方を変える必要ができているのか。

A.仰る通りで、そのことは私も心配している。81年あるいは91年までは、世界の超大国アメリカがイスラエルを支援し、もう一方は敵を支援していた。現在では極となるのは、アメリカ、EU、中国、インド、ロシア、それに日本を加えていいかもしれません。差はあるが、今後多極化する世界になると、小国イスラエルはいろんなマルチの場に入っていく必要がある。最近のネタニヤフ首相の日本訪問もあり、軍事技術協力の話もあったと聞きます。これはイスラエルの地位の正常化プロセスといえる。


質問者:東京工業大学大学院生
Q.イスラエルの国防で重要なものはなにか。

A.非常に良い質問だと思うが難しい。お互いに絡み合ういくつかの問題が指摘できる。
かつてイスラエルには機甲師団が10個あったが、現在は数個である。700機の戦闘機があったが、今では350機程度である。国防予算は1992年以降3/4に減っている。色んな意味でより普通の国になっている。
その一方で軍そのものも変わっている。インテリジェンス、ハイテク、海洋能力・シーパワーを重視しており、イスラエルの抑止力で大きな役割を果たしているのが巡航ミサイルであり潜水艦である。また、無人機、ロボティクス、サイバー戦と言った技術分野に急いで移行しようとしています。このようなイスラエルの軍事の方向性は、他の軍と同じと言っていいと思います。
未だに徴兵制が残っているのは大きな違いだ。先進国で徴兵制が残っている国は少ないと思います。しかし、その徴兵制も変化している。イスラエルの若者の50%はアラブ人とオーソドックス(dragoner注:ユダヤ教の戒律を厳格に守る一派。中でも超オーソドックスと呼ばれる一派の若者はアラブ系イスラエル人と同じく、徴兵は免除される)と言われる人々であり、彼らは大家族である傾向があります。ユダヤ人だけでなく、国民全体をみてみると、徴兵制の持つ意味は小さくなっています。


質問者:dragoner
Q.現在進行形の話だが、クルド人の独立について、イスラエルが認めるべきだという話をしている。イスラエルは、クルディスタンの成立はプラスと考えているのか。

A.クルド人とイスラエルは何十年に渡るつながりがある。イラクと戦うクルド人には出来るだけの支援がなされた。その理由については不要と思います。
クルド人の国家ができた場合、イラン、イラク、シリア、トルコで問題になるかもしれません。イスラエルとしてはそれを支援すべきか、イスラエルから湾岸に至る軍事的混乱に繋がるかは分かりません。
しかし、イスラエルとして何かが出来るという訳ではないと思います。イスラエルに支援できるものは無いでしょう。


質問者:青山学院大学学部生
Q.イラクの内戦が中東全体に波及するという話だが、もしそうなるとアメリカやロシアによる介入は生じるか?

A.仰る通りだと思うが、これについて答える知識はない。もちろん友好国や敵とも協力して、イスラエルとして行動すると思うが、これについて申し上げることはできない。


質問者:中谷(戦略研究学会)
Q.ミサイルについて仰っていたが、イスラエルにおけるミサイル防衛の役割についてお聞きしたい。

A.率直に言えば、ミサイル迎撃システムについては不満をもっている。長距離のものは古いもので、91年の湾岸戦争での通常兵器に対する例にあった通り、核兵器に対しても使い物にならないと思います。
ただ、対短距離ミサイル用システムについては技術的に優れているし、成果も上げているので評価したい。日本が買いたいなら、売ってもいいと思う(笑)。


質問者:Y(会計事務所勤務)
Q.日本の戦略的対立では中国がある。中国へのイメージや考えについてお聞かせいただきたい。

A.イスラエルにとり中国は交渉しなければならないパワーの一つであり、アメリカの地位低下もあり、中国との関係改善は避けて通れない。
中国と日本の関係は悪化してほしくないし、我々としては日中両国に輸出出来るようになるように望みます。


質問者:M
Q.先ほどの発言で、海軍に力をいれると仰っていたが、イスラエルに海から脅威を与える国が思いつかない。それでも海軍力を増強する意味はなにか

A.イスラエルの歴史をみても海軍の規模は小さく、重要性も小さかった。しかし、イスラエルは小さい国であり、核攻撃に対する抑止力を陸に置くことが出来ない。そこで、抑止力の一部を海上に移す事になった。現在は核抑止力の一部を海に置いている(dragoner注:核兵器搭載巡航ミサイル潜水艦を示唆している)。


質問者:K
Q.イスラエルは軍隊は強いが、戦略は場当たり的な物を感じる。イスラエルの戦略や対外政策について、どう思われているか。

A.確かに場当たりといえるかもしれない。最近まで領土無くしてイスラエルは強い存在たり得たろうか、と問うことができると思います。
私が来日の準備をしている6週間前、イスラエルは植民地から撤退するだろう。アラブは弱体化しているので、それが出来るだろうと思っていました。しかし現在、ヨルダンが崩壊するかもしれない、湾岸から地中海までテロリストの巣窟になろうとしているので、そのようなことを言う自信はなくなりました。


質問者:藤村(戦略研究学会)
Q.シリア、イラクが混沌とし、第二のアフガニスタンのようになると言われているが、かつてのサウジ義勇兵の動きはあるのか。そして、そのような義勇兵がサウジにどう影響するのか?

A.サウジがシリアのスンニ派を支援してきたので、サウジの取った政策が今の状況を産んだので、サウジに責任はあると思う。中東全体が戦場のような状況になって、国境も曖昧になってきて、どこでも戦っている。
その中でイスラエルは安定した島であるとネタニヤフ氏は言っている。かつてダヤンが言ったように、そうでなければ、我々は恐ろしい事をしなければならないかもしれない。


質問者:I(メーカー勤務)
Q.宇宙空間・サイバー空間の利用が注目されているが、今後も重要になってくると思うか? また、この他にも重要になってくるものはないか?

A.前回書いた本の中で(dragoner注「エア・パワーの時代」の事?)、それらについて章を設けるくらいには重要だと思っている。しかし、例えばシリア・イラク・アフガニスタンの戦争、全ての戦争を見ても、宇宙・サイバー戦争が大きな役割を占めている戦争は無いのかもしれない。組織立った国家対国家の戦争に我々は囚われていて、組織と国家との間の戦争という観点から十分に考えていないのではないか。軽視するつもりはないが、現実に起きている戦争で、これらが重要な役割を果たしているものは無いと思います。






以上で質疑応答、及び講演は終了です。

核武装したイランとイスラエルの共存は可能との見解を示す等、リアリズムの代表的論者と知られるクレフェルトの持論は刺激的で、今また悪化している中東情勢についてもその見識の鋭さを示しています。そのリアリストが6週間前までは楽観的に見ていた中東情勢が、「湾岸から地中海までテロリストの巣窟となる」危機と見ている事に、現在の中東情勢の深刻さと、イスラエルが事態をどう認識しているのかの理解になりそうです。

氏の言う「恐ろしい事」をイスラエルがする時が来ない事を願って。


【関連書籍】

前回の終わりにクレフェルトの主要訳書について紹介しましたが、友人から「「戦争文化論」重要だろ」と指摘が来ましたのでご紹介……しようにも、読んでないのでどうにも紹介できないでおります……。各所の書評を参考にすれば、何故人は戦争に魅入られるのかという本質に対し、戦争と文化の関係性を軸としたアプローチで迫る大作ということです。私もとっとと読みます……。

戦争文化論(上)

戦争文化論(下)








2014年7月6日日曜日

時代と共に変わってきた集団的自衛権の憲法解釈

これまで憲法解釈上認められてこなかった集団的自衛権の行使が、解釈の変更により認められるようになった事は、各種報道でご存知の方が大半と思います。

この解釈変更について報道各社は様々に報じていますが、「歴史的な転換」、「憲法の柱」等、解釈変更の重大性、歴史性を強調する論調が目立ちます。特に目立つのは、憲法9条では個別的自衛権のみが認められており、これが憲法の平和主義の根本だ、とする論調です。
 安倍内閣は1日夕の臨時閣議で、他国への攻撃に自衛隊が反撃する集団的自衛権の行使を認めるために、憲法解釈を変える閣議決定をした。歴代内閣は長年、憲法9条の解釈で集団的自衛権の行使を禁じてきた。安倍晋三首相は、その積み重ねを崩し、憲法の柱である平和主義を根本から覆す解釈改憲を行った。

 戦争放棄をうたった憲法9条と自衛権の関係をめぐる政府の解釈は、これまでも日本の安全保障環境の変化に伴って変遷してきた。限定的とはいえ、集団的自衛権の行使を可能にする今回の閣議決定は、個別的自衛権の行使を認めた1954年以来の大転換となる。

しかし、集団的自衛権を認めないとする解釈は、日本国憲法施行の後になって成立しており、解釈も時代により異なっていた事は、あまり報じられていないようです。集団的自衛権を、どのように政府は解釈していたのでしょうか。その変遷の過程を見て行きましょう。(※以降の引用部における強調部は全て筆者による)



「解釈に自信が無かった」集団的自衛権の始まり

集団的自衛権について、国会で最初に答弁が行われたのは、1947年12月21日の衆議院外務委員会の席上の事でした。当時の西村外務省條約局長の発言の中に出てきています。
ただ一つ新しい現象といたしましては、国際連合憲章の今申し上げました第五十條か五十一條かに、国家の單独の固有の自衞権という観念のほかに、集団的の自衞権というものを認めておりまして、そういう文字を使つております。この集団的自衞権というものが国際法上認められるかどうかと、いうことは、今日国際法の学者の方々の間に非常に議論が多い点でございまして、私ども実はその條文の解釈にはまつたく自信を持つておりません。

出典:西村熊雄 外務省條約局長の答弁(第七回国会 衆議院外務委員会議事録第一号)
この時点で、集団的自衛権については国際法学者でも議論があり、政府としても解釈が存在しなかった事が窺えます。念の為に書いておきますが、この答弁の前年に日本国憲法は公布されていおり、集団的自衛権についての憲法解釈は存在していませんでした。

翌年の同委員会において、中曽根康弘議員からの質問に際し、西村局長はこうも答えています。
中曽根康弘議員「そこでお聞きいたしたいと思うのでありますが、この集団的自衛権の問題です。それは国家の基本権として、国家が成立するからには当然認められる権利なんですか。」

西村局長「もちろんそう考えております。」

出典:第七回国会 衆議院外務委員会議事録第七号
少なくとも、この時点では集団的自衛権そのものについては議論があるものの、独立国家の基本権として認められる権利であろうとの見解です。これら最初期の国会答弁で確かなのは、集団的自衛権は独立国の権利として存在するが、独立国としての日本(当時は連合軍占領下)に認められるものかは曖昧なままであるばかりか、集団的自衛権そのものの解釈も怪しい状況でした。

朝鮮戦争の最中の1951年、国会答弁で初めて集団的自衛権についての解釈が登場します。西村條約局長の2月21日の答弁を見てみましょう。
集団的自衛権というものは一つの武力攻撃が発生する、そのことによつてひとしくそれに対して固有の自衛権を発動し得る立場にある国々が、共同して対抗措置を講ずることを認めた規定であると解釈すべきものであろうと思うのであります。

出典:西村局長(第十回国会 衆議院外務委員会議事録第六号)
ここで初めて、集団的自衛権についての解釈が出てきます。ですが、日本国憲法との関係は未だ明らかでありません。ようやくこの年の11月7日になって、日本国憲法における集団的自衛権の解釈が登場します。
日本は独立国でございますから、集団的自衛権も個別的自衛権も完全に持つわけでございます、持つております。併し憲法第九條によりまして、日本は自発的にその自衛権を行使する最も有効な手段でありまする軍備は一切持たないということにしております。又交戦者の立場にも一切立たないということにしております。ですから、我々はこの憲法を堅持する限りは御懸念のようなことは断じてやつてはいけないし、又他国が日本に対してこれを要請することもあり得ないと信ずる次第でございます。

出典:西村局長(第十二回国会 参議院平和条約及び日米安全保障条約特別委員会会議録十二号)
ここに至り、日本は集団的自衛権を持つが憲法上行使できないという、違憲解釈の原型が示されました。日本国憲法公布から5年を経て、初めて解釈が示されました。この基本に沿った違憲解釈は1972年に決算委員会資料、さらに1981年の答弁書(答弁書本文)の2文書に記された事によって確立されたとされています。

このように、集団的自衛権の違憲解釈は憲法よりずっと後に確立したもので、最初から憲法で禁止されていたとは見做されてませんでした。



禁じられていなかった集団的自衛権の行使

ところが問題はまだ残ります。どこまでを集団的自衛権と看做すのかという点です。1960年、林修三法制局(現・内閣法制局)長官はこのような答弁をしています。
たとえば現在の安保条約におきまして、米国に対して施設区域を提供いたしております。あるいは米国と他の国、米国が他の国の侵略を受けた場合に、これに対してあるいは経済的な援助を与えるというようなこと、こういうことを集団的自衛権というような言葉で理解すれば、こういうものを私は日本の憲法は否定しておるものとは考えません。

出典:林修三法制局長官(第三十四回国会 参院予算委員会会議録第二十三号)
ここで林長官は、経済的援助や基地の提供等は憲法も否定していないという見解を述べています。現実に1991年の湾岸戦争は、クウェートを侵略したイラクに対する集団的自衛権集団安全保障の行使の典型例ですが、日本は多国籍軍に対して経済的な支援を行っています。

また、現在の複雑な国際環境においては、個別的自衛権と集団的自衛権を厳密に分けるのが難しいという問題もあります。この問題について、日米安保条約・在日米軍が憲法9条に反し違憲であると争われた砂川事件の1959年最高裁判決の中で、田中耕太郎最高裁長官は補足意見としてこのように述べています。
今日はもはや厳格な意味での自衛の観念は存在せず、自衛はすなわち「他衛」、他衛はすなわち自衛という関係があるのみである。従つて自国の防衛にしろ、他国の防衛への協力にしろ、各国はこれについて義務を負担しているものと認められるのである。

この判決の中で、田中最高裁長官は自衛の概念について、他衛も自衛も同様の物であるとした上で、それが各国の義務であるとしています。この解釈に立てば、集団的自衛権の行使は否定されておらず、もちろん違憲ではありません。

このように1959年の最高裁長官、1960年の法制局長官は、集団的自衛権の行使を部分的に認めていました。しかし、1960年代以降は国会での駆け引きの結果、先の2文書に見られるような内閣法制局による違憲解釈が取られるようになりました。

本来、憲法解釈について、単なる行政府の一機関である内閣法制局による判断が、総理大臣、果てや最高裁判所長官の判断に優越するなんて事はありませんし、現在の内閣法制局長官は変更解釈の変更は可能としています。憲法解釈そのものを「憲政の破壊」とする一部報道こそ、憲法とその解釈確立と変遷を無視した、憲法を蔑ろにする行為であると言えます。



憲法9条と国際協同体に対する義務は矛盾しない

最後に。世界で集団的自衛権の概念を初めて明示した国連憲章ですが、その第43条に国際平和が脅かされる事態に際して「すべての国際連合加盟国は、安全保障理事会の要請に基き且つ一つ又は二つ以上の特別協定に従って、国際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する」と、国連加盟国による兵力供出を義務付けています。これはまさに集団的自衛権そのものですが、かつての集団的自衛権行使を認めない解釈では、この国連憲章の義務の履行は出来ません。これは集団安全保障として機能する建前ですが、現実的には大国の拒否権により国連安保理で否決される可能性が高い為、地域機構による安全保障を可能とする概念として、集団的自衛権が誕生しました。そして、アメリカの集団的自衛権に依存した安全保障が、日米安保条約です。

今回の解釈変更により、集団的自衛権の行使が可能となりましたが、国連の集団安全保障に基づく派兵についてはどうでしょうか。
このような憲法9条解釈と国連憲章43条の国際協同体に対する義務の相剋について、砂川事件判決文にこのように記されています。
憲法九条の平和主義の精神は、憲法前文の理念と相まつて不動である。それは侵略戦争と国際紛争解決のための武力行使を永久に放棄する。しかしこれによつてわが国が平和と安全のための国際協同体に対する義務を当然免除されたものと誤解してはならない。我々として、憲法前文に反省的に述べられているところの、自国本位の立場を去つて普遍的な政治道徳に従う立場をとらないかぎり、すなわち国際的次元に立脚して考えないかぎり、憲法九条を矛盾なく正しく解釈することはできないのである。

半世紀以上前の文章ですが、まるで現在を見通したかのような内容です。国際的な視野に立ってこそ、憲法9条は矛盾なく解釈する事が可能であり、国際協同体の義務履行と憲法9条は矛盾しない事が謳われています。

ここまで見てきた事から、憲法解釈は時代とともに変わってきた事、過去に集団的自衛権の行使を認めた解釈が存在した事がお分かり頂けたと思います。今回の憲法解釈の変更は、半世紀前に示された国際協調への回帰とも言えるでしょう。

しかし、理想の実現も大事ではありますが、理想の実現に大きな代償を支払わされる時が来るかもしれず、代償を払っても実現できる保証はありません。今回の憲法解釈変更を巡る議論は観念的なものが目立ち、賛成・反対双方で現実的なシチュエーションとリスクについて徹底的な議論がなされたとは思えません。そもそも、憲法前文に掲げる日本の理想とは何か、どのように実現していくのかという根本的な疑問について、今まで真剣な議論がなされた事があるでしょうか。それ以前に、憲法前文を知っている方がどれだけいるでしょうか。

これを機会に、日本国民が目指す理想とは何か、考えてみてもいいかもしれません。

※2014/07/06 22:10訂正:国連憲章51条に基づく集団的自衛権と集団安全保障について混同が見られるとのご指摘を受け、当該部を訂正致しました。赤字部分が追記となります。

【参考資料、及び理解の助けとなるサイト】

鈴木尊紘「憲法第9条と集団的自衛権 ―国会答弁から集団的自衛権解釈の変遷を見る―」(国立国会図書館)

国会図書館政治議会課憲法室の鈴木氏による、集団的自衛権を巡る国会答弁の変遷過程についての分析。解釈の変化について、時代毎に政府答弁から抽出し、時勢によりどのような議論がなされたかを明らかにしています。


苅部直 「「右傾化」のまぼろし――現代日本にみる国際主義と排外主義」(nippon.com)

東京大学法学部の苅部教授による「右傾化現象」についての考察。集団的自衛権行使容認は右傾化ではなく、戦後の憲法思想史においては集団的自衛権は日本国憲法の国際協調主義に合致するとの「積極的」意見が存在した事を提示。むしろ、右傾化への懸念を、粗野なナショナリズムを抑えた論議に繋げるよう提言しています。


細谷雄一「集団的自衛権をめぐる戦後政治」 IIPS Quarterly 第5巻第2号(2014年4月)

細谷雄一「集団的自衛権の行使容認に関する閣議決定」(細谷雄一の研究室から)

慶応大学法学部の細谷教授による論考とブログ記事。論考では佐藤政権時の転換により、その後の憲法解釈が拘束されるていく変遷過程を示し、その解釈の変更の必要性が何故必要かを論じています。ブログ記事では、各種の報道や国際的反応を踏まえた上で、これまでの解釈の問題点について分かりやすくまとめられています。


森本敏「武器輸出三原則はどうして見直されたのか?」

本稿では言及しませんでしたが、集団的自衛権の行使容認については、武器輸出三原則の変更も密接に関連しています。その背景について、元防衛大臣で拓殖大学大学院の森本教授が、防衛当局者の座談会をまとめるという形で明らかにしています。







2014年7月3日木曜日

マーチン・ファン・クレフェルト講演会要旨。クレフェルト、イスラエルの戦略を語る

イスラエルの軍事史学者、マーチン・ファン・クレフェルトが来日しておりますが、2日には戦略研究学会主催で講演会が開かれました。クラウゼビッツの批判者であり、通説に真っ向から立ち向かう(そして正論でもある)事で知られるクレフェルト。母国イスラエルの戦略について語りましたが、とても興味深いものでしたので、要旨をご報告したいと思います。


はじめに

イスラエルの最大の敵はイランではないかという声があると思います。
地図を見るとイランとイスラエルは非常に距離が離れている。

1948年の第一次中東戦争では、エジプトはエルサレムの南数キロのところまで迫っていました。
この時、後の首相アリエル・シャロンは22歳で中隊長。イラク軍と戦っていた。
エジプト陸軍によってイスラエル南部は孤立させられていた。

イギリスの信託統治下にあるので、常備軍を持つ事は許されなかったイスラエルは、速成の部隊で戦った。
アラブ軍と抵抗するためにイスラエルにあったのは10個歩兵旅団だけだった。
重火器と言えるものはほとんど無かった。
第一次中東戦争はイスラエルの歴史の中でもっとも犠牲者がでて、国民の1%に及ぶ死者が出た。

現在、この小さな国がどこと比べても遥かに強力な軍を持つに至った。
弾道ミサイル、巡航ミサイル、戦闘爆撃機、巡航ミサイル発射可能潜水艦といった今日、最も強力と言える装備もっている。
エジプト軍がエルサレム南部数キロに迫っていた1948年と比べ、こんなにも変わっている。
今日は、国ごとにイスラエルの安全保障に及ぼす関係について話したい。


エジプト

エジプトはイスラエルにとって最も重要で、最も強力な隣国である。
1948年から73年まで、両国は何度も戦争を行った。
この35年間は和平を結んでいる。イスラエルの最も強力で最も危険な敵はいなくなったのだ。

この10年、エジプト軍の戦力は大きく低下した。
特に装備などが旧式化し、ロシアからの装備購入といった話がここ最近出てくる。
軍はメンテナンスや兵站、技術といった様々な面でアメリカに依存している。

エジプト世論ではイスラエルとの関係は悪いが、国家・軍のレベルでは関係良好である。
なぜなら、ハマス、イスラム運動、独立を目指すベドウィンといった共通の敵を持っているからだ。
これらの共通の敵にたいし、イスラエルとエジプトの協同の成果は大きい。
イスラエルがシナイ半島を超えて追跡することもある。
アラブ諸国軍はイスラエルを相手にするとうまくいかないが、自国民に対しての戦いでは強い。
これまでの例からも、自国民に対して戦う事になると、アラブ諸国の軍はその限界を知らない。

イスラエルからの支援もあり、シナイ半島における活動はまあまあ成功している。
今の状況が続く事を祈っている。



レバノン

1948年以降、レバノン・イスラエル国境は長年平和だった。
例えば小学校の遠足などで北部に連れて行き、ここが国境だよと教えてから、国境から少し北に入る事が出来たくらい平和だった。

しかし、1967年の第三次中東戦争により、PLOがレバノンに拠点を移してから状況は変わった。
2000年頃まで、レバノンからのテロ攻撃が一週間続かなかった時期がなかったくらいだ。
32年間に渡り、ロケットや急襲、地雷、待ちぶせ等によるレバノンからのテロ攻撃が続いていた。

このような状況に終止符をうつべく、1982年のベギン政権・シャロン国防相はレバノンに侵攻した。
その目的はキリスト教勢力を支援し、親イスラエルの穏健な政権を立てる事だった。
御存知の通り、この目論見は失敗し、イスラエルは2000年に軍をレバノンから撤退させた。

2000年から一時的にはテロは減少し、3,4ヶ月間は静かな状況が期待できるまでになった。
当時のヒズボラの狙いは、イスラエル兵士を捉えて、収監されてるヒズボラ幹部と交換することだった。
8年前の2006年にこうしたことがエスカレートし、兵士に誘拐殺害が多発し、また戦争になった(レバノン侵攻(2006年))。

それ以来、イスラエル・レバノン国境はほぼ平穏になっている。
その理由としてはヒズボラが教訓を学んだ事もあるし、現在はシリアの紛争に囚われている事もあるだろう。



シリア

イスラエル・シリア国境は、1974年以降は平穏だった。
アサド政権は父も息子(現在)の時代も、レバノンにおいてはトラブルがあったが、ゴラン高原は平穏だった。
いずれにしても、エジプト無しにはシリア単独ではイスラエルの戦力に敵わない。

シリアは酷い状況になって、一説によれば2011年から15万人が内戦で命を落としたと言われる。
シリアの軍事力に関しては存在しないと言っていいかもしれない。
イスラエルがシリアに爆撃しても、地上で行動を起こしても、シリアはイスラエルに対してなんら反応しないことからも、そう言えるだろう。




イラク

イラクは他の敵国とは状況と違い、一番近い所でヨルダン川から600kmある。
イスラエルとは国境を接していない点で、他の国とは大きく異る。

こうした理由から、イスラエルはイラクへは極端になれる。
すなわち、イスラエルと戦火を交えても、領土を失う心配がない。

イスラエルとイラクで和平を結んだ事はない。厳密に言うと今も戦争状態にあると言える。
しかし、距離が離れていても、イラクはイスラエルとアラブの戦争にいつも関わっていた。

1948年にはイラク軍はテルアビブまで30キロメートルまで迫り、1967年にはヨルダン川西岸まで到達し、1973年にはシリア軍の支援として軍団を派遣してきた。
論者によって評価が異なるが、1973年に派遣されたイラクの軍団はあっというまに打ち負かされたとも言われるし、逆にイラク軍のおかげでイスラエル国防軍によるダマスカス占領に至らなかったとも言われる。

1973年以降は原油価格の高騰を背景に、イラクは中東でも最大規模の軍隊を作った。
1970年代、イスラエル国内で東側国境・東部前線が話題になった。シリア・イラク・イランと連合を組んで、イスラエルの敵になるのではないかと恐れられた。
もちろんそういうことにはならなかった。イラクは80年代になって、イランに目を向けるようになった。

その後の第一次湾岸戦争でイラクはイスラエルを攻撃したが、攻撃は象徴的なものに過ぎず、重量で10トンほどの爆撃だった。
1944年45年にアメリカが日本に落とした何万トンもの爆弾と比べると、いかに規模が小さいかが分かる。
イラクがイスラエルを攻撃した政治的理由は、アラブ世界の分断だが、それはイスラエルが参戦しなかった事で失敗した。
軍事的に言うと、攻撃の意義は全くなかった。
もし、フセインが化学兵器をイスラエルに対して使っていたなら、事態は異なったろうが、実際には化学兵器の使用は無かった。

1992年以降、イラクはイスラエルの脅威となる軍事的能力を保有することはなかった。
そして、アメリカの第二次湾岸戦争により、かつての能力は完全に喪失した。



イラン

この10年ほどでニュースになってきた国である。
ネタニヤフ・シャロン両首相は、イランの核兵器について、様々な発言をしてきた。
私としては、イランが核兵器保有の意思はないと語った時、真実を語っているように見えた。
つまり、私の考えとしてはイランが求めているのは核兵器の保有でなく、必要な時に短時間で作る能力ではないか。
繰り返すが、私の意見としては、イランは核兵器ではなく、必要なときに作れるインフラ・能力ではないか。
なぜなら、イランが求める理由はイスラエルを恐れているのではなく、アメリカであり、それは当然の理由であると思う。
1980年以降のアメリカは世界各地に侵攻し、次のアメリカの大統領がどこに侵攻するか分からないからだ。
ミロシェビッチ、カダフィ、フセインと言った人々を見れば分かるが、アメリカに対抗できる力を持ってなかった人々だ。
アメリカに抵抗するには、核兵器とその運搬手段が必要となる。

イスラエルに対するテロ攻撃をイランが支援しているのは事実である。
しかしながら、全ては比較の問題であり、こうしたテロ支援は、深刻なものではない。

イランの核保有を恐れているのは、イスラエルではなく、サウジアラビアなどの湾岸諸国であると言える。
湾岸諸国とちがい、イスラエルにはイランの核を抑止するものが備わっており、そのことをイランはよく知っている。
個人的には核を持ったイランとイスラエルは共存できると思う。
核保有したイランがもたらすインパクトは、膠着状況に過ぎない。

イラン・イラク戦争の後、イランの方から殉教者となり72人の乙女たちと暮らしたいという願望は見られない。
(※dragoner注:「72名の乙女」とは、イスラムの聖戦(ジハード)において、ジハードの戦死者は天国で72名の乙女とキャッキャウフフできるとされている。つまり、イランは聖戦を起こす気はない、という事)
私は68になるが、「72人の処女」という話を聞く度に、これは約束なのか、口で言われているだけなのか気になっている。

いずれにしてもイランとの共存は可能と思っている。
では、なぜネタニヤフはイランの事を言い、世界に発信しているのか。
答えとしては、ネタニヤフ氏が言っている事を信じるしかない。
戦争の後、誰しも自分の意見を持つようになった。
ただ、私は違う理屈を持っている。パレスチナにおけるシオニズムは百年を超える歴史を持つようになった。
このシオニズムの百年は、イスラエル人は世界に対し我々は小さく弱い国で、邪悪で強大なアラブ人に攻撃されていると訴えてきました。
我々に助けを、資金を、武器を。そうでないと我々はもっと恐ろしい事をせざるをえない。
確か、1955年にモーシェ・ダヤン氏が言った言葉だと思うが、我々は狂犬のように振る舞わなければならないといった。

これだけ世界中から支援を受けた国は、イスラエルをおいて他にないだろう。
人によっては、これまで世界から3000億ドルの支援をもらったという人もいます。
この世界のゲームにおけるチャンピオンは、シモン・ペレス氏、現在のイスラエル国家元首だ。

こんなにゲームがうまくいったのだから、それを辞める必要はないじゃないか。
しかし、オルメルト首相があるとき私に漏らしたが、これがイスラエルをおかしくしてしまったと。
だが、ネタニヤフ氏はそれを恐れていはいない。



組織

それでは、これまで国家を扱ってきたが、組織を見ていく。

21年前、私のもっとも知られる著書である「The Transformation of War(邦題:「戦争の変遷」)」という本が出た。
その本の中で、国家間の戦争はほとんど終わり、国家と非国家同士の戦争となるだろうと書いた。
その本が出版されたのは1991年で、出版したその日にイラクはクウェートに侵攻した。
私は運が悪かったと思う。(笑)

その時は、大規模な陸上軍が、第2次大戦以降最大の規模で動いていた時期であった。
私は、これは現在の姿だが、未来の姿ではないとその時に言っていた。
ですから、みなに私はおかしいと思われていた。(笑)

1994年、夜の12時半、シャワーを浴びていると電話が鳴った。
着るものも着ずに電話に出た所、相手は 「ビル・クリントンです。その本はどこで買えますか」と質問してきた。
恐らく、その時クリントン夫人とはお互い一緒に寝たくなかったのだと思う。
モニカ・ルインスキーと寝る前に、一緒に裸で寝るなら誰かと思い、私を選んだのだろう。(笑)

その後、国家間の戦争は非常に少なくなった。
あったとしてもイラクの状況くらいで、国家と組織が戦う状況になった。
現在も世界のあちこちで戦争は起きているが、国家と国家の戦争は一つもない。
そして、こういう国家と非国家組織との戦争は、シリアやイラクと起きている。
これについて話して、終わりにしたい。

3年前にシリアで内線が始まった時、アサド政権が早く崩壊して、自由民主的な政権が確立してほしいとイスラエルでも期待が高まった。
しかし、私はそういう考えは常に間違っていたと思う。

ご存知の通り、ジハード主義者はアサドを倒す事はできず、イラクはブッシュ大統領によって、国として体をなさないようになっていた。
このジハード主義者、ISISなどがイラクで勝てると思わない。
ヒズボッラーと比べ組織も小さく、数千人しかいない。イラクを席巻できるとは思わない。
彼らはカリフ制の国を実現できなかったなら、シリアからクウェートに至る広大な地域を、戦場あるいは被災地としてしまうのではないか。
そして、今現在、すでにそうなってしまっているのではないか。

もしそういうことになれば、それはイスラエルに重大な意味を持つ来よになる。
ヨルダンの不安定化やヨルダン王家が倒れる事になれば、それは大きな影響をもたらす。

この40年、イスラエルはテロとの戦いについて、それほどうまくいかなかった事は無いと考えている。
最近の少年3人の誘拐事件等、テロリストを完璧に押さえてはいないが、なんとかコントロールしており、生活できるまでにはなっている。

しかし、ヨルダンが、シリア・イラクまで含め不安定化し、アフガニスタン的状況になると重大なことになる。
1970年代以降、イスラエルにとってヨルダンの安定は大きな存在だった。

しかし、シャロン氏を含め、イスラエルでもヨルダンを守る事は間違いだったと考える人も多い。
ヨルダンの今の王家を守るのではなく、イスラエルは機会をみて王家を倒し、パレスチナをそこに作れば良いという考えがある。
シャロン氏も今は違うが、かつてこういう考えをもっていた。
しかし、私はこういう考えは悲劇をもたらすと思う。イスラエルの国民の多くも同じ考えだと思う。

しかし、ヨルダンの不安定化を望むジハード主義者、もしかしたら望んでいるかもしれないパレスチナ人らにより、実際に王家の打倒と不安定化が起こりうるかもしれない。


~講演終わり。質疑応答へ~

次は質疑応答編です。



【関連書籍】


クレフェルトの著作は多数あり、邦訳されているのもいくつかあります。

補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO)

クレフェルト自身は「戦争の変遷」を自身の代表作と考えているようですが、日本においては「補給戦」の方が知られているかもしれません。戦争における補給・兵站についてのクレフェルトの論考で、「名将ロンメル」への批判など、クレフェルトの通説への反論が光ります。


戦争の変遷

そのクレフェルト自身が、最も知られている著作だと語ったのが、"The Transformation of War"の邦訳版「戦争の変遷」です。歴史的に戦争の形態がどのような変遷を遂げたかを概観し、20世紀に見られた国家間の戦争から、国家対非国家、非国家対非国家の戦争に変わっていくのではないかと予想しており、出版したその日に湾岸戦争という悲劇はあったものの、今現在の状況を的確に予見したと言えます。将来戦の様相だけでなく、過去の戦争に対する知見の深さも窺え、読み応えがあります。


エア・パワーの時代

日本におけるクレフェルト訳本の最新刊は「エア・パワーの時代」です。本書は戦略爆撃や近接航空攻撃に否定的で、またエア・パワーの勢力が2次大戦以降は年代と共に低下していると指摘し、さらに高騰する機体価格に警鐘を鳴らし、極めて高価だが極めて少数という組み合わせは軍事的退化の兆候とまで書いております。ド直球の正論は多くを敵に回しますが、クレフェルトはずっと止まりません。スゴイ!。