2014年6月7日土曜日

【書評】「舞廠造機部の昭和史」が面白い

先月刊行されたばかしの本ですが、岡本孝太郎「舞廠造機部の昭和史」(文芸社)が面白かったです。



この本は、舞鶴海軍工廠造機部(艦艇の機関を担当する部署です)部員の親睦会である、「鶴桜会」の会誌をまとめて出版したもので、平成元年に鶴桜会から出版されていたものの復刊のようです。

海軍工廠は各鎮守府直轄の軍需工場で、舞鶴海軍工廠は舞鶴鎮守府が設立された明治34年(1901年)に舞鶴造船廠としてスタートしたものが、明治36年(1903年)の「海軍工廠条例」で、それまでの造船廠、兵器廠、需品庫を合わせて舞鶴海軍工廠へと改編されました。この条例により、横須賀、呉、佐世保、舞鶴の各鎮守府に海軍工廠が置かれる事になります。

舞鶴鎮守府は4鎮守府のうち最も後発で、海軍軍縮条約時代には要港部に格下げとなり、それに伴い工廠も工作部となるなどの紆余曲折もありましたが、昭和14年に再び鎮守府・工廠に復帰します。

舞鶴海軍工廠の特色として、舞鶴の限られた土地に設立された為、主として駆逐艦の建造を担っていた点です。ほとんどの駆逐艦は舞鶴工廠で1番艦が建造されるなど、駆逐艦の建造で主導的な役割を果たしていました。

さて、本書は「昭和史」と銘打っているものの、中身は明治の設立から終戦の解散までカバーしています。恐らくは最初に出版されたのが平成元年だったので、敢えて「昭和史」というタイトルを付けたのだなと思います。明治から時代を追ってエピソードを紹介しており、会誌に掲載された回想の再録という形態もあってか、話にまとまりが欠けていて、特定の艦や技術について詳細に知りたい方には不向きかもしれません。ですが、技術の試行錯誤や時代の空気の変化を感じさせるエピソードなど、小ネタの宝庫で読み物としても面白いです。

舞鶴工廠の強みだった駆逐艦建造や、機関、溶接技術についてのエピソードが多く収録されています。例えば、高速発揮時の駆逐艦島風では、速すぎて両舷の手摺りが折れないように全て内側に倒し、艦橋から艦尾に張ったロープを乗員が掴んで艦上を移動していた等、艦の要目を見ても知る事の出来ない話が多数あるのが嬉しいですね。

戦艦や空母のような大型艦と違って、あまり注目されてこなかった駆逐艦ですが、艦隊これくしょんブームで各駆逐艦にも注目される中で、駆逐艦専門工廠だった舞鶴工廠の本が復刊されたのは大変良い事だと思います。アマゾンでは品薄のようですが、他のオンライン書店で在庫があるとこもあるので、興味を持たれた方は是非読んでみて下さい。




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