2014年6月27日金曜日

可哀想でも……いらぬお世話の誤認保護

先日、ツイッターのタイムラインに可愛い仔タヌキの写真が流れてきました。その愛くるしさに心安らいだのもつかの間、写真を撮影した人の発言を遡ってみると、住宅地で1頭でいた仔タヌキを「保護」したとのことで、一気に暗澹たる気分になりました。本人は純粋に善意で「保護」したつもりなのでしょうが、これは「誤認保護」の恐れが濃厚です。

春の出産期を過ぎた現在、野生鳥獣は子育てのハイシーズンにあたります。このシーズンに相次ぐのが、人間による幼獣の「誤認保護」です。まだ幼い鳥獣が一匹でいるのを見かた人が、親とはぐれたと思い込み「保護」してしまうケースが跡を絶たず、京都市動物園では2013年の5~6月だけで、5頭のニホンジカの幼獣が持ち込まれたそうです。では、何故これらの「保護」は「誤認保護」と呼ばれるのでしょうか。それは動物の子育ての習性にあります。

シカやカモシカ、ウサギ等の動物は、母親が食事に出かけている間、幼獣を草陰に隠していく習性があり、この間幼獣は草陰で母親の帰りを待っています。母親はちゃんと隠した場所を記憶していますので、いずれ幼獣の元に戻ってきます。ところが、幼獣が1頭でいる所を人間に見られた場合、人間が親とはぐれた幼獣だと誤認してしまい、そのまま幼獣を「保護」してしまう事があります。こうなってしまうと、親子は二度と会う事は叶いません。これらの「誤認保護」を、人間による「誘拐」と厳しく批判する専門家もいます。

幼獣が1頭しても、迂闊に保護は禁物(Roberto Ferrari撮影

一度人の手に慣れてしまった幼獣は二度と親と会えないばかりか、自然に返ることも出来ずに動物園に引き取られ、その飼育費用は動物園・行政が負担する事になります。本人は良かれと思って「保護」したとしても、動物にとっても、他人にとっても、ただの迷惑以外の何物でもない行為になります。

また、最近の野生鳥獣は都市化が進んでおり、人間の生活圏に近い所で子育てを行っているのも多くいて、住宅地の側溝等を移動や子育ての場としています。住宅地で仔タヌキ等の幼獣を見かけたとしても、可哀想だからと「保護」せず、そのまま立ち去るのがその動物のためです。

本来、行政の許可無く野生鳥獣を捕獲することは、法令により固く禁じられています(狩猟除く)。目的が野生動物の保護であっても、許可を得ずに保護飼養を続けた場合、鳥獣保護法違反に問われる可能性があります。それにも関わらず、ネット上では許可を取らずに野生鳥獣を飼養していると思しき人を散見しますが、これは違法行為ですので真似してはいけません。

以上を踏まえた上でも、それでも保護が必要と思われる場合は、各都道府県の野生鳥獣保護窓口(担当課は都道府県により異なります)に連絡を取り、対応を仰いでから行動して下さい。「地獄への道は善意で舗装されている」の格言のように、貴方の善意が動物の親子を引き裂いているのかもしれないのですから。


【関連】



2014年6月19日木曜日

ユーロサトリを「武器展示会」と呼んで、武器輸出三原則改正による出展とするのは印象操作でね?

16日からフランスのパリで開催されているセキュリティ分野の国際展示会「EUROSATORY2014(ユーロサトリ)」に日本ブースが設置され、多くの日本企業が出展している事が報道されておりますね。

ところで、このユーロサトリについて報道各社はどのように報道しているでしょうか。まずはユーロサトリを各社はどう呼んでいるかについて、比べてみましょう。


【パリ=三井美奈】パリ郊外で16日開幕した世界最大規模の陸上兵器・防衛装備品の展示会「ユーロサトリ」に、初めて日本ブースが設けられた。



パリで16日に始まった陸上兵器の国際展示会「ユーロサトリ」に、日本が初めてブースを設け、防衛産業を担う13社が参加している。



【パリ宮川裕章】世界最大規模の陸上兵器展示会「ユーロサトリ」が16日、パリ郊外で開幕し、日本企業13社が出展した。



世界最大規模の防衛装備品やセキュリティー製品の国際展示会「ユーロサトリ」が16日、パリ郊外で開幕した。



十六日からパリで開かれる世界最大規模の武器の国際展示会に参加する日本企業の詳細が本紙の調べで明らかになった。



【パリ共同】兵器や防衛装備品、災害対策設備などの国際展示会「ユーロサトリ」が16日、パリ郊外で開幕、日本の12社が出品した。



フランスのパリ近郊で、各国の武器や警察向けの装備などを集めた世界最大規模の見本市が始まり、この春の武器輸出三原則の見直しを受け、日本の防衛産業が初めて参加しました。



読売、朝日、毎日、産経の全国紙に東京新聞、共同通信とNHKの呼称を調べてみると、それぞれ微妙に異なります。

読売:陸上兵器・防衛装備品の展示会
朝日:陸上兵器の国際展示会
毎日:陸上兵器展示会
産経:防衛装備品やセキュリティー製品の国際展示会
東京:兵器や防衛装備品などの国際展示会
共同:兵器や防衛装備品、災害対策設備などの国際展示会
NHK:各国の武器や警察向けの装備などを集めた世界最大規模の見本市 

呼び方を大別すると2グループに分かれ、読売、朝日、毎日、東京が兵器関連の展示会と説明しているのに対し、産経、共同、NHKは兵器に加えて、セキュリティや警察、災害対策設備の展示会である事を書いており、呼び方から受ける印象が大きく異なります。特に、東京新聞は記事からも明らかに否定的な文脈がにじみ出ており、出展は先に行われた武器輸出三原則改正を受けたものだと強調しています。

この東京新聞の報道に対し、ユーロサトリの日本総代理店のクライシスインテリジェンスが事実と異なると抗議しています。


東京新聞(平成26年6月12日付)において、「三原則変更で積極輸出へ 武器国際展示会に13社」と題する記事が掲載されています。
当該報道に関しては、記事の記載内容について
①武器国際展示会
②新原則発表後に各社出展を決めた
この二点において、明らかに事実と異なる点等が認められます。

まず、①武器国際展示会と表記されている件ですが、ユーロサトリはセキュリティー・ディフェンスの展示会であり、武器を主軸にして展示しているわけではありません。特に近年は民間防衛(防犯・防災)や対テロを中心とした展示会となっております。
東京新聞の報道は武器を強調した恣意的なものです。
また、②弊社は今回の新三原則が発表となった2014年4月より以前、2013年11月より本展示会への募集を行っておりました。そのため、
参加企業からのユーロサトリ申し込みに関して、2014年4月以前に出展申し込みをいただいていており、新三原則発表後に申し込まれたわけではありません。このことについて東京新聞社に対し弊社より説明していたにも関わらず今回の報道をされたことに憤りを感じております。


セキュリティー・ディフェンスの展示会なのに「武器」を強調された点、そして新しい武器輸出三原則が発表される前から出展企業を募集しているので新 三原則を受けての出展ではないということです。特に後者については、事前に東京新聞に説明していたにも関わらず、意図的に誤った報道をされたと非難しています。
東京新聞の記事の該当部を見てみると、明らかに武器輸出三原則改正を受けての出展とされています。

従来の武器輸出三原則による禁輸政策の下、国際展示会への出品も控えてきた日本企業だが、政府が武器輸出を原則認めたことで参加を決めた。


しかし、現実には11月から募集されており、改正があろうが無かろうが日本企業は出展していたでしょう。東京新聞以外にも、読売、朝日、毎日、産経、NHKも今回の日本企業の出展が4月の改正を受けたものだとしており、ほとんどの報道機関が誤報を流している事になります。

更に言うなら、毎日、東京、NHKは「日本企業の参加は初」と報じていますがこれも誤報で、過去のユーロサトリには日系企業も多く参加しており、前回の2012年には帝人、パナソニック、富士フィルムといった日本企業の現地法人が参加しています。少なくとも、「武器輸出三原則改正を受けて、日本企業が初めて参加した」という事実はありません。初めて設けられたのは日本ブースで、過去に日本企業が参加していなかった訳ではないのです。

今回の報道はあまりに各社とも杜撰で、一部に至っては自社のカラーを反映して意図的に誤報を流している節があります。せめて、最低限正確な事実を伝えてから、批判するなり賛同するなりをして欲しいものです。


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2014年6月13日金曜日

【レビュー】映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』

まだ公開前ですが、試写で観れる機会があったので観てきました。桜坂洋原作のSFライトノベル「All You Need Is Kill」を原作とした、ハリウッド映画『Edge Of Tomorrow』こと邦題『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。


All You Need Is Kill (集英社スーパーダッシュ文庫)



公開前なので抑え気味のレビューにしたつもりだけど、原作未読の人にとっては危険な情報も多々あると思うので、ここから先、原作未読の人・少しのネタバレも許さない原作既読の人は読むの非推奨。原作既読だし覚悟あるよという人か、未読だけど別に映画観ないし構わないという人はこっから先スクロールして読んで下さいませ。



この先、一千里






















はじまるよ


【レビュー】映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』


この映画を評価するのは、非常に悩ましいものがあります。結論から先に言ってしまうと、「この映画、邦題も『Edge Of Tomorrow』で良かったんじゃないか」に尽きます。これは皮肉や嫌味ではなく、真にそう思っています。映画の原題が発表された時、『Edge Of Tomorrow』たぁダサいタイトルだ、みたいな意見をたくさん見たし、私もそう思っていたけど、観終わった今となっては『Edge Of Tomorrow』で良かったんじゃ? と思うのです。

日本のライトノベル史上初となるハリウッド映画化。それも、記憶に新しい「ドラゴンボール EVOLUTION」「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」みたいな日本製コンテンツの残念映画化じゃなくて、ちょっと低調気味とは言え第1級のハリウッドスター主演、先端の特撮技術、なにより制作費がジャボジャボかかった大作映画です。これ以上何を望むのか、というくらいの豪華な映像化です。日本出身クリエイターによる快挙と言って良い。

肝心の映画も、強化外骨格を着込んだ兵士はガニ股歩きだったりとか、4発ティルトローターの先行後にCH-47系がやってくるとか、前線基地と化したヒースロー空港とか、細かい所が中々良く出来ています。良い塩梅で未来と現在が混在するロンドンあるいは戦場の雰囲気も上出来で、CG・スタントマンてんこ盛りの迫力の戦闘シーン、そして本作のキモであるループ描写もアニメ版涼宮ハルヒの憂鬱における「エンドレスエイト」の悲劇のようなタルさはなく、適度なテンポで魅せてくれます。そして余韻を残すラスト。うん、面白かった。

そう、一本の映画として観れば、良いんです。良いんですけど、これは『All You Need Is Kill』という映画ではないんです。だって、殺す必要が無いんですから……。その意味で、アメリカでの上映タイトル『Edge Of Tomorrow』は、とても正しかったのかもしれないと本気で思います。

敵は劇中でも原作と同じ「ギタイ」あるいは敵と呼称されているけど、原作の棘皮動物のイメージよりも、マトリックスのセンチネルに近い。あの触手ウネウネした奴。原作とちょっと設定が異なり、ループ能力獲得とその仕組みも違います。この点が最後に響いてくる。ループの仕組みを説明している時点で気付くべきだったんや……。

また、下の予告冒頭でのコーヒーのシーンを見て、原作既読の人が評価する向きがありました。




だが、それは製作の罠だ。このコーヒーのシーン、ぶっちゃけ原作のコーヒー要素と全く関係無い。他にも、予告にもある火の手の上がるロンドンは、原作で脱走したケイジの先にギタイがやってくるのと同じように、トム・クルーズがロンドンに来たせいか? と一瞬思ったけど、それも違った。そんな風に原作既読派おじさんにとっての罠が所々に仕掛けられている。これを意図してやったなら、脚本家はドサドだ……。

何度も書くけど、映画は面白いんです。ループ設定を活かし、ケイジとリタで作戦を練っては失敗し練っては失敗を繰り返し、パターン破りまで行きつく過程とか、観ていて面白い。警備の目を縫って建物へ潜入するシーンも、実際にやるとこうなるのかー、と興味深いとこも多い。でも、タイトル、というか邦題……。これはちょっとマズったんじゃなかろうか。邦題に原作を明示させる以外の意味が備わってない。

この映画は「All You Need Is Kill」の映画版として捉えるより、ループによって最強戦士となっていくアイディアを、ハリウッドマネーで映像化したと考えた方が実態に近い。映画単体として観れば悪くないだけに、ハリウッドに設定だけ持って行かれたようで、非常に悔しい所です。正直、原作未読のほうが後腐れなく楽しめると思います。













あと、最後に。眼鏡っ子は出てきません。眼鏡っ子に相当する役っぽいのはおっさんです。ファックアメリカ。

おわり

2014年6月12日木曜日

【レビュー】Anker Astro Pro(第2世代) 4ポート 15000mAh モバイルバッテリー

AnkerのPower Userプログラムによるモニターで、レビューするなら製品モニターさせてくれる言うのでほいほい釣られてみました。1週間ほど使っての感想です。





これまでモバイルバッテリーは、半日程度の外出ではPanasonic モバイルバッテリー 5,400mAh QE-QL201-K、1日中外の場合はcheero Power Plus 10400mAh DANBOARD Versionと使い分けてきました。

大きさは300ページの厚みの文庫サイズを想像して頂ければ分かりやすいと思います。 cheero Power Plusダンボーモデルは厚みがあったために収容場所に困るシーンもありましたが、文庫サイズで薄いAnker Astro Pro(第2世代)の方が持ち運びに便利な面がありました。ただし、薄い分、絶対的な占有面積はAnkerの方があります。

1日の外出で容量に不満を感じる事はありませんでした。iPhoneならば、2日は充電可能でしょう。 cheero Power Plusダンボーでは2.1A出力対応ポートは1つでしたが、こちらは2ポート合計4.5Aまで出力できるのも良いです。


良い点

  • このサイズでUSBからマルチポートまで出力端子を備えている。別途変換コネクタを用意すれば、様々な機器へ充電可能。
  • 合計出力が高く、iPhoneとiPadを同時に高速充電可能。
  • USB出力はPowerIQ搭載。
  • バッテリーセルのメーカーを明らかにしない製品が多い中、Samsung製のセルとチップを使っている事を明記していて安心できる。


悪い点

  •  2014年6月12日現在、アマゾンの本製品ページは「Anker Astro Pro(第2世代) 4ポート 15000mAh ~」と記載されていますが、本製品に出力は4ポートありません! USB出力が2つ、マルチ出力ポートが1つで、もう1つは入力ポートです。入力ポートま で入れて4ポートとするのは、誤解を招く書き方だと思います。(※追記:指摘後、3ポートに訂正されました)
  • バッテリー残量がパーセンテージ表示されるが、正確性が少々怪しい。
  • 本体への充電がマルチ入力ポートのみ。QE-QL201-Kやcheero Power PlusはマイクロUSBポートで充電するので充電器を共通化できたが、この製品だと専用の充電器が必要となるので、出先での充電を行う場合は荷物が嵩張る。


大容量かつバッテリーメーカーが明らかな点が本機の魅力だと思います。安いけど怪しい中華バッテリーは怖いけど、日本製バッテリーで大容量は高い……と悩む方にちょうど良い製品ではないでしょうか。




2014年6月7日土曜日

【書評】「舞廠造機部の昭和史」が面白い

先月刊行されたばかしの本ですが、岡本孝太郎「舞廠造機部の昭和史」(文芸社)が面白かったです。



この本は、舞鶴海軍工廠造機部(艦艇の機関を担当する部署です)部員の親睦会である、「鶴桜会」の会誌をまとめて出版したもので、平成元年に鶴桜会から出版されていたものの復刊のようです。

海軍工廠は各鎮守府直轄の軍需工場で、舞鶴海軍工廠は舞鶴鎮守府が設立された明治34年(1901年)に舞鶴造船廠としてスタートしたものが、明治36年(1903年)の「海軍工廠条例」で、それまでの造船廠、兵器廠、需品庫を合わせて舞鶴海軍工廠へと改編されました。この条例により、横須賀、呉、佐世保、舞鶴の各鎮守府に海軍工廠が置かれる事になります。

舞鶴鎮守府は4鎮守府のうち最も後発で、海軍軍縮条約時代には要港部に格下げとなり、それに伴い工廠も工作部となるなどの紆余曲折もありましたが、昭和14年に再び鎮守府・工廠に復帰します。

舞鶴海軍工廠の特色として、舞鶴の限られた土地に設立された為、主として駆逐艦の建造を担っていた点です。ほとんどの駆逐艦は舞鶴工廠で1番艦が建造されるなど、駆逐艦の建造で主導的な役割を果たしていました。

さて、本書は「昭和史」と銘打っているものの、中身は明治の設立から終戦の解散までカバーしています。恐らくは最初に出版されたのが平成元年だったので、敢えて「昭和史」というタイトルを付けたのだなと思います。明治から時代を追ってエピソードを紹介しており、会誌に掲載された回想の再録という形態もあってか、話にまとまりが欠けていて、特定の艦や技術について詳細に知りたい方には不向きかもしれません。ですが、技術の試行錯誤や時代の空気の変化を感じさせるエピソードなど、小ネタの宝庫で読み物としても面白いです。

舞鶴工廠の強みだった駆逐艦建造や、機関、溶接技術についてのエピソードが多く収録されています。例えば、高速発揮時の駆逐艦島風では、速すぎて両舷の手摺りが折れないように全て内側に倒し、艦橋から艦尾に張ったロープを乗員が掴んで艦上を移動していた等、艦の要目を見ても知る事の出来ない話が多数あるのが嬉しいですね。

戦艦や空母のような大型艦と違って、あまり注目されてこなかった駆逐艦ですが、艦隊これくしょんブームで各駆逐艦にも注目される中で、駆逐艦専門工廠だった舞鶴工廠の本が復刊されたのは大変良い事だと思います。アマゾンでは品薄のようですが、他のオンライン書店で在庫があるとこもあるので、興味を持たれた方は是非読んでみて下さい。




【関連リンク】


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2014年6月6日金曜日

イギリス軍事博物館巡りの旅 バロー・イン・ファーネス編

コスフォードに続き、今回はバロー・イン・ファーネスの紹介に移りたいと思います。

バロー・イン・ファーネスはアイルランド海に面した港町で、イギリスでも有数の景勝地である湖水地方の南にあります。



ロンドンからは鉄道の場合、ランカスター経由で片道4時間以上はかかるので、訪れる際は現地か、片道1時間のランカスターに宿泊される方が良いと思います。湖水地方に泊まる手も考えましたが、微妙にバローからの鉄道の便はよろしくありません。バローから湖水地方までのバスも出ていますが、運行状況がよく分からなかった為、今回はパスしました。

今回のイギリス旅行で、一番ロンドンから離れた場所がここバローです。

バロー・イン・ファーネス 中心部

バロー・イン・ファーネスは産業革命期に急拡大した街で、イギリスの重工メーカーだったヴィッカースの造船所がありました。そして、日本の戦艦三笠や金剛もこの街で建造されました。そういう意味で、日本とも関係のある街です。


バロー・イン・ファーネス 中心部その2
バローはそれほど大きくありませんが、大変良く整備されている綺麗な街です。ヴィッカースが消滅した後も、世界屈指の防衛航空宇宙企業BAEシステムズの造船所が置かれ、イギリス海軍の原子力潜水艦は現在ここで建造されており、イギリスの安全保障上、重要な街でもあります。


BAEシステムズ敷地の注意書き

企業城下町として栄えたバローは、今もなお街に資金が投下されているようで、町並みも奇麗なものです。


街の中心にあるBAE造船所

BAEシステムズの造船所は街の中心部にあり、その巨大な外観は街の色々な場所から目にすることになります。

バローを訪れたのは5月15日でしたが、17日にはアステュート級原子力潜水艦2番艦アートフルの進水式がありました。これ事前に知ってれば見れたのに……。進水の様子はBAEシステムズがYouTubeに公開しており、映像からは造船所内部も見ることが出来ます。





このバローには、街と造船所の歴史を展示しているドックミュージアムがあります。小さな博物館ですが、色々と見るべきものがありますのでご紹介します。

ドックとドックミュージアム

ドックミュージアムはバロー・イン・ファーネス駅から歩いて15分ほどの所にあり、BAE造船所の裏手にあります。

ドックミュージアム

建物が建っているのは、かつてのヴィッカースの造船ドック跡地で、ドックの上に博物館を建てています。


建造リスト

BAEシステムズと博物館が道路挟んで向かい合わせとなっている側に、このドックで建造された艦艇の名前を刻んだ碑があります。


三笠、金剛等の日本艦の名前も

碑には戦艦三笠や金剛の名前も記されており、他にも著名な艦艇がズラリと並んでいます。


ドック跡

現在のドックは海と繋がっていますが、博物館の部分で堰き止められており、博物館地階がドックの最下部となっています。


ドック最下部の取水口?

ドックミュージアムはバローの歴史や、ここで建造された艦艇を紹介しています。


バローの成り立ち

一次大戦後のリストラっぷりが泣ける

日本関連では、戦艦三笠や金剛を建造した事が紹介されており、展示物もいくつかあります。


金剛の昼食メニュー

上の写真は1912年の金剛の進水式のプログラムです。左奥にあるのは、1911年にバロー・イン・ファーネスを訪れた東郷平八郎に供された昼食メニューです。


金剛の進水

金剛進水時の写真と絵葉書です。この写真は、ドックミュージアム公式サイト内にある、The Vickers Photographic Archiveでも見る事ができます。


金剛の模型

そして驚いたことに、金剛の模型がミュージアム内に展示されていました。三笠も無いのに、金剛がです。英国軍艦も数隻しか置いてないのに、ちょっと驚きました。建造当時は最強クラスの巡洋戦艦でしたが、このドックでもそれだけ重要な艦になるのでしょうか。


後ろから

立派な模型です。


模型のネームプレート

模型のネームプレートを見ると、ん? 艦種がBattlecruiser(巡洋戦艦)じゃなくて、Armoured Cruiser(装甲巡洋艦)になってね?

見なかった事にしよう……。

※1911年の段階で議会から「装甲巡洋艦4隻」と認可されており、 建造時の類別では装甲巡洋艦で正しいと教えて頂きました。


金剛解説

そして、せっかく金剛の模型があるので、

新旧金剛ツーショット

新旧金剛ツーショット。

そして、何事もなかったかのように、その他の展示へ……。

ノルデンフェルト式潜水艦

うわ、ノルデンフェルト式潜水艦ですよ。トルコに輸出されたこれも、ここバローで建造されたそうです。


BAE造船所 VSEL時代の模型

実物の写真を載せてますが、こちらはVickers Shipbuilding and Engineering時代の造船所の模型です。今と同じ建物ですね。変わっているのはVSELがBAEになっているだけ。


快晴のドック

ミュージアムを出て、近くのファミレスで昼を食べたら、朝方は小雨振ってた天気も晴れていました。気持ちのよい雨上がりですので、街をぶらつくことにしました。


ウォルニー島

ミュージアム前のA590道をそのまま西に進むと、バロー・イン・ファーネスの西にあるウォルニー島への橋を渡って行けます。このウォルニー島には、その名も"ヴィッカーズ タウン”と呼ばれる住宅地があります。




橋を渡り、ヴィッカーズタウンの住宅地を15分ほど歩きます。

ヴィッカーズ タウン

すると目的地に着きました。

ミカサ ストリート

戦艦三笠の名前から付けられた、ミカサストリートです。


ミカサストリート

とは言うものの、Wikipediaにある通り、本当にただの通りです。特に何か説明しているものはありませんし、単なる住宅地の道路以外の何者でもありません。

私は散歩ついでだったので良いのですが、なにか期待していると肩透かし喰らいます。ドックミュージアムからは徒歩20分ほどですが、よほどの物好き以外オススメしません。バスは頻繁に通っているので、利用されるのも手かと思います。

ウォルニー島から戻り、バローを散策します。

BAEシステムズ 建物

BAEシステムズ 新部品倉庫

街は企業城下町だけあり、至る所にBAEシステムズの建物があります。あまりぱちぱち写真撮ってもマズそうですが。

BAEの警備車両

そして、BAEの警備車両のハイラックスが走っています。企業傭兵!と思ったものの、スウェーデンの警備会社セキュリタスのマークがある。


BAE造船所前

そしてバローをほぼ一周する形でBAE造船所の前まで来る。この水面はデヴォンシャードックで、あのBAE造船所建物もデボンシャー・ドック・ホールと呼ばれている。このデボンシャードックと橋を挟んで隣接するブックルークドックは、三笠や金剛の艤装を施した場所らしい。

あと2日遅ければ、ここで進水式見れたんだよなあ……。

橋を渡りきろうとしたところ、下でなにか動くものがいる。

橋の下
カモメとウサギ

ウサギ

あ、ウサギだ。それも野生の(多分)。原子力潜水艦作っている工場のすぐ脇で、ウサギが寝っ転がってます。よく見たら、1匹や2匹どころじゃなく、えらい数います。なんだこれ。

イギリスでは、ウサギを十分に殺傷できる腕があるという条件付きでパチンコ猟が合法と聞いていたけど、イギリスの猟期ってあったっけか……としばし考える。

なんでこんなとこにいるんや……と思いつつ駅へと向かい、ランカスター行きの始発電車に乗って、バロー旅行は終了。

バロー~ランカスター間は、湖水地方が近い事もあってか、海と湿地の風景が素晴らしく、飽きのこない車窓でした。今度来る時は、湖水地方含めてじっくり回りたいものです。

ダックスフォード帝国戦争博物館へ続く




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