2014年4月22日火曜日

「緊急シンポジウム ウクライナ危機はなぜ? 世界は変わるのか?」私的まとめ

立正大学で開催された「緊急シンポジウム ウクライナ危機はなぜ? 世界は変わるのか?」に行ってまいりました。

途中から入ったのと、何度かトラブルに見舞われたので、うまく聞き取れなかった部分もありますが、私的まとめをツイートし、togetterでまとめましたので御覧ください。


togetter「緊急シンポジウム ウクライナ危機はなぜ? 世界は変わるのか?」私的まとめ


発表者の中で何度か「ロシアの東方シフト」と呼ばれる話が出てきております。
凄まじく大雑把に言うと、これまでヨーロッパの方に向いていたロシアのフロントが、アジア極東の方に向いてきますよという話で、実際にプーチンが発言もしています。
これらに関しては、ドミトリー・トレーニン「ロシア新戦略――ユーラシアの大変動を読み解く」という書籍が邦訳されていますので、興味のある向きはこちらを参考にされるのが良いかと思います。


【参考になりそうな書籍】





2014年4月19日土曜日

第2回護衛艦カレーナンバーワングランプリ閉幕 優勝は潜水艦部隊


4月19日に行われた第2回護衛艦カレーナンバーワングランプリは、開場前から数千人が行列し、用意したカレー8000食分が午前中に売り切れ(行列打ち切り)になるなどの盛況を見せました。

護衛艦カレーの行列

艦艇14隻、部隊1つの強豪の中から、栄えある第2回グランプリに選ばれたのは、開催地横須賀を定係港とする横須賀潜水艦部隊でした。

海中に長期間潜む潜水艦は、外を見る事も外気を吸うことも出来ないため、乗員のストレス回復に寄与するように食事はかなり工夫されていると 伝えられますが、今回はその食事へのこだわりが強みとして生かされたのかもしれません。実際に作ったのはローテーションで地上部隊の方のようでしたが、実 際に艦内で作られているカレーを元に前日から仕込みを行ったカレーとのことです。



グランプリ投票結果

第1位:横須賀潜水艦部隊   (濃厚味わいカレー)
第2位:護衛艦ちょうかい    (ちょうかい特製シーフードカレー)
第3位:護衛艦くらま       (内閣総理大臣喫食カレー)
横須賀市長賞:護衛艦こんごう (チキンカレー) 

今回は予想を超える盛況だったため、カレーを逃した方が大勢おられると思います。どうしてもカレーを食べたい方は、5月10日(土)、11日(日)に横須賀の三笠公園で開催される「よこすかカレーフェスティバル2014」に足を運んではいかがでしょうか。「よこすかカレーフェスティバル2014」には護衛艦カレーは無いものの、地元横須賀の海軍カレーの名店が集まります。

また、どうしても護衛艦のカレーに拘りたい方は、7月1日(火)に広島で「海上自衛隊カレーフェスタ」というイベントも予定されています。まだ詳細は調整中のようですが、こちらもチェックされてみてはいかがでしょうか。


護衛艦カレーナンバーワングランプリ、用意したカレー8000食、午前中に完売

昨日、「海上自衛隊ナンバー1のカレーを決める、第2回護衛艦カレーナンバー1グランプリ開催」でお伝えした、本日横須賀で行われる護衛艦カレーナンバーワングランプリですが、9時の開場の段階で数千人規模の行列が出来ており、15時まで開催される予定が、午前中に用意されたカレー全てが完売となりました。

行列が並ぶ横須賀地方総監部逸見岸壁(撮影者様より転載の許可を頂きました)

JR横須賀線近くの会場から、京急本線横須賀中央駅付近まで1キロ近い行列が延び、Twitterでは行列の凄さを伝えるツイート、諦めて付近で食事しようとしても店も行列というツイートで溢れています。カレーは当初6000食とアナウンスされていたものの、実際は8000食用意さたそうですが、それでも予想を超える盛況に対応できなかったようです。
カレー完売に続き、来場者多数のため、会場では護衛艦の一般公開も締め切りになっているとのことです。

【開催情報サイト】

第2回護衛艦カレーナンバー1グランプリinよこすか チラシPDF(※アクセス過多のためか繋がりにくいです)
海上自衛隊横須賀地方隊



2014年4月18日金曜日

南スーダン国連PKO宿営地攻撃と、迫るPKO撤収

昨年末、クーデター未遂事件を発端とした南スーダンの騒乱で、国連南スーダン派遣団(UNMISS)に派遣されていた自衛隊部隊が、現地に展開する韓国軍の要請で銃弾1万発を提供した事が大きく報じられました(当時の状況については、拙稿「南スーダンで進展している虐殺の危機」参照)。しかし、今年に入ってからはウクライナ情勢の方に関心が移ったのか、南スーダンの問題はあまり報じられなくなりました。


南スーダン地図。自衛隊は南部の首都ジュマ付近に駐留(防衛省資料より)

しかしながら、南スーダンでは締結されたはずの停戦協定を反故する形で戦闘は継続中で、騒乱から現在までに100万人の難民が発生しています。17日には、昨年実弾提供を受けた韓国軍も駐留するジョングレイ州の州都ボルで、国連PKOの宿営地が民兵の襲撃を受け、兵士や避難民に死傷者が出る事態になっています。


 【ナイロビ共同】南スーダン東部ジョングレイ州の州都ボルで17日、国連平和維持活動(PKO)基地が武装集団に襲撃され、ロイター通信などによると、基地に保護されていた避難民ら48人が死亡、多数が負傷した。PKO隊員2人もけがを負った。


警備にあたっていた韓国軍、インド軍兵士も応戦し、銃撃戦が発生したとも伝えられ、国連の潘基文事務総長は攻撃を強く非難しています。南スーダン情勢は、悪い方向で1つの区切りを迎えたのかもしれません。

南スーダンとして独立する以前の内戦では、住民間の暴力が深刻だったという特徴があり、現在も住民に対する虐殺が政府・反政府勢力双方で行われています。国際的な人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチは、政府・反政府双方の部隊が略奪・破壊・民族に基づく超法規的処刑等の戦争犯罪を行っていると非難しており、ボルの周辺でも犠牲者を埋葬する穴が無数に掘られています。(下は南スーダン政府・反政府勢力双方による戦争犯罪が行われていると非難するヒューマン・ライツ・ウォッチの動画)





今現在進行している問題の厄介な所は、南スーダン政府が国連PKOをも目の敵にしている事です。ボルの国連宿営地には5,000人の避難民が暴力を恐れ避難していますが、南スーダン政府は国連宿営地に反政府勢力が匿われていると度々非難しており、宿営地周囲では国連PKO撤退やヒルデ・ジョンソンUNMISS代表の国外退去を求める数千人規模のデモ活動も行われています。3月には国連において、南スーダンの現副大統領が西側諸国を「植民地主義」と批判するなど、南スーダン政府と国際社会との断絶が大きくなっております。今回の国連宿営地襲撃を行った民兵の背後関係は明らかではありませんが、政府、反政府側どちらも黒幕である可能性もあります。

4月現在、UNMISSには自衛隊の施設部隊およそ400名が派遣されており、首都ジュバ付近でインフラ整備、騒乱発生以後は難民支援を行っております。UNMISSの活動期限は2014年7月までとなっており、自衛隊は準備期間も含めて10月末までに撤収する計画です。状況の進展によっては延長される可能性もありますが、前述のように国連と南スーダン政府の関係が悪化している中、南スーダン政府がUNMISSの駐留延長に同意する可能性は低く、自衛隊のPKO派遣の根拠となるPKO協力法では当事国政府の同意が前提条件のため、そのまま撤収する事になると思われます。

問題は、仮にUNMISS撤収までに事態が安定に向かわない場合、撤収によりUNMISS保護下の難民は虐殺される危険がある点です。撤収が確定した場合、保護を求める難民が怒りから暴徒と化し、撤収するUNMISSを攻撃する可能性もあります。ユーゴスラビア内戦では、撤退しようとするオランダ軍の装甲車に留まってくれるよう要求したボシュニャク人が、要求が拒否されると手榴弾を投げてオランダ軍兵士1人が死亡した事例があります。自衛隊が展開している首都ジュバは比較的情勢が安定しているとされ、撤収時のトラブルは少ないかもしれません。しかし、各地のUNMISS部隊は施設内に大量の難民を保護しており、撤収後の難民保護の体制構築が撤収に向けた課題となります。

UNMISSが撤収する場合、残された難民の保護を南スーダン政府にどう約束させるか、そして残される難民を説得できるだけの材料を準備できるかが重要になります。国連から東アフリカ諸国からなるIGAD(政府間開発機構)等の他の国際機関への監視引継ぎ、南スーダン政府に保護を確約させるだけの国際的圧力等、様々な手法で臨む必要があります。当事国の同意が得られなければ撤収するしかない日本政府は、難民を保護すると共に、自衛隊員や各国兵士が安全に撤収できるよう、撤収に向けたスキーム作りに積極的にコミットメントし、出口戦略を固めていく必要があるのではないでしょうか。



【関連書籍】





第2回 護衛艦カレーナンバー1グランプリ開催

明日4月19日(土)、海上自衛隊横須賀地方総監部にて、「第2回 護衛艦カレーナンバー1グランプリ(GC1) inよこすか」が開催されます。

このGC1は昨年に第1回が開催され、海上自衛隊の護衛艦等の部隊が自慢のカレーを競いあい、最強のカレーを決めるグランプリです。長崎県佐世保市で開催された第1回GC1では海上自衛隊の艦艇10隻が集結し、2400人が訪れました。


第1回GC1優勝の護衛艦さわぎり表彰の様子(佐世保地方隊サイトより)

第2回となる今回は神奈川県横須賀市の横須賀地方総監部にて開催されますが、艦隊訓練の日程に併せて14隻の艦艇が日本の各地から集結。また、日本に6隻しかないイージス艦も4隻参加しており(当初の予定では5隻)、ここまで部隊が1つのイベントに集まるのは滅多に無いことです。

海上自衛隊では旧海軍からの伝統で、各艦艇ごとにカレーのレシピが受け継がれています。今回の参加艦艇が出すカレーもオーソドックスなビーフカレーから、豚角煮カレー、スープカレー等、バラエティに富んでおり、イベントではこれらのカレーを1皿500円で味わうことが出来ます。


参加艦艇・カレー一覧


護衛艦
むらさめ:昔懐かし「むらさめ」カレー
はるさめ:Chicken Soup Curry
たかなみ:燃えよ!!スパイシーカレー
おおなみ:おおなみプレミアムカレー
くらま:内閣総理大臣喫食カレー
あまぎり:天霧にくにくカレー
はまぎり:豚角煮と野菜のカレー
はたかぜ:はたかぜ豚カレー
こんごう:チキンカレー
ちょうかい:ちょうかい特製シーフードカレー
あたご:ビーフカレー
あしがら:ビーフカレー

※参加予定だった”きりしま”は参加中止。

補給艦
ときわ: ローストビーフカレー

訓練支援艦
くろべ: 呉代表カレー

潜水艦
横須賀潜水艦部隊: 濃厚味わいカレー

計14隻+部隊

また、GC1と併せて、護衛艦”こんごう”、”あしがら”の一般公開も行われます。'''艦艇の一般公開は事故防止の為、ハイヒール、サンダルでの見学は出来ません'''。護衛艦に乗ってみたい方は、動きやすい靴で来場しましょう。

会場は神奈川県横須賀市の海上自衛隊横須賀地方総監部で、朝9時から15時まで開催されますが、'''カレーがなくなり次第終了'''となります(艦艇の一般公開は入場15時半まで)。会場には駐車場は用意されていないため、'''公共交通機関を利用'''して行きましょう。最寄り駅はJR横須賀線横須賀駅(徒歩5分)か、京浜急行線汐入駅(徒歩15分)になります。

当日の予定がまだ無いカレー好きの方は、足を運んでみるのもいかがでしょうか? カレーが無くなり次第終了となりますので、お早めに!



【開催情報サイト】
横須賀市観光情報サイト「ここはヨコスカ」:第2回護衛艦カレーナンバー1グランプリinよこすか](※アクセス過多のためか繋がりにくいです)
第2回護衛艦カレーナンバー1グランプリinよこすか チラシPDF(※アクセス過多のためか繋がりにくいです)
海上自衛隊横須賀地方隊



イベント概要
日時:
2014年4月19日(土) 9:00~15:00※カレーがなくなり次第終了
艦艇の一般公開は、9時~16時(入場は15:30まで)

場所:
海上自衛隊横須賀地方総監部
問い合わせ:
カレーの街よこすか推進委員会事務局(046-822-9672)
海上自衛隊横須賀地方総監部広報係(046-822-3500 内線2208)


【会場のGoogle Maps】




【関連商品】



2014年4月17日木曜日

日本で火花を散らす、米ロのネットバトル

昨年末からのウクライナ問題による米ロ関係の悪化が懸念されている昨今ですが、何故か日本のインターネット上では米ロのネットバトルが勃発しております。バトルと言うより、在日ロシア大使館のTwitterアカウント(の中の人)が1人ヒートアップしています。


在日米国大使館アカウントへ在日ロシア大使館が喧嘩を売る

3月27日の在日米国大使館のTwitterアカウント(@usembassytokyo)に対し、4月17日に在日ロシア大使館のTwitterアカウント(@RusEmbassyJ)が画像とリプライを送りつけています


ロシア大使館アカウントが送りつけた画像は、在ウクライナ米国大使館のサイト内で2013年11月30日に出されたウクライナのデモ(現ウクライナ暫定政権側)に対する前政権側の暴力を米国が非難した声明文で、「Kiev」「Ukraine」等の固有名詞をロシア大使館アカウントが塗りつぶして入力フォーム形式にしたものです。ロシア大使館アカウントが言わんとしているのは、現在ウクライナで進行している現政権側の暴力に米国が抗議していない事を揶揄しており、「今こそ、このフォーム使って現暫定政権に抗議しろ」と煽っているのです。

このロシア大使館アカウントですが、元々在日ロシア大使館の活動を伝える広報アカウントとして機能していたのですが、ウクライナ問題が深刻化する中で行動がアグレッシブになってきており、日米の報道機関のTwitterアカウントに対して抗議や反論リプライを直に寄せています。


ウォール・ストリート・ジャーナル日本版への抗議


ウォール・ストリート・ジャーナル日本版アカウントに対し、ロシアの諺をリプライして皮肉っています。これは、ロシアのラブロフ外務大臣が2月20日の会見で表明した、「ウクライナ情勢に関するロシアの立場」(在日ロシア大使館訳全文)からの引用になります。


CNN.co.jpへの抗議


CNN.co.jpへの抗議も、ラブロフ外務大臣の発言を引用しています。


読売オンラインの国際ニュースアカウントに対して

読売オンラインに対しては、「自動車への放火、警官への火炎瓶の投げつけ、殺人、ウクライナの様々な地方の知事に対する暴行や、軍の武器庫の占拠未遂をやっている過激派について、抗議デモとは言えるんですか。」と非難めいた質問をしています。これはラブロフ外相の発言ではなく、在日ロシア大使館アカウント自身のリプライのようです。


朝日新聞国際報道部と朝日新聞モスクワ支局(当時)の関根和弘記者とのやりとり

また、朝日新聞国際報道部とモスクワ支局員(当時)の関根和弘記者個人にもリプライを送っています。これもまた、ラブロフ外務大臣の発言引用ですが、関根記者からの質問に対しては「的外れの論点です」と返信して以降、やりとりはありません。

報道機関は言うに及ばず、個人のTwitterアカウントに対してもリプライを投げており、政府機関公式のアカウントとしてはかなり「攻め」方針のアカウントと言えますが、不思議なのは、日本以外の在外ロシア大使館のTwitterアカウントでこんな事しているアカウントが確認されていない事です。

ロシア外務省の思惑があって、在日大使館のみSNS上での積極的な活動をさせているのか、大使館職員(あるいは大使)の個人的な方針なのかは定かではありませんが、ロシア外務省・外務大臣の公式声明を引用してリプライを送る事で、政府見解との意見の乖離が無いように気を配っている反面、ウクライナ暫定政権がスイス国旗とノルウェー国旗を間違えた事を「(笑)」とからかう等、かなり大人げない部分も見られ、大使館職員個人の暴走のような気がしてなりません。

ウクライナ問題は単純にどちらが悪いと片付けられる性質のものではなく、冷戦後に旧ソ連勢力圏で親米政権や独立国を強引に作ってきた欧米に対し、ロシアが同様にクリミアを独立・編入させたら欧米メディアがロシアを一方的に非難している事に、ロシアはダブルスタンダードであると不満を募らせています。在日ロシア大使館アカウントが、ロシアの立場から見て道理に適った主張もしており、それが欧米政府・メディアの偽善性を暴いているのも分かります。ですが、なぜ日本でだけ、こんな事になっているのでしょうか。ロシア政府或いは大使館職員は、何らかの効果があると確信しての行為のようですが、正直な所引いている日本人もいるように思えます。

さて、喧嘩リプライを直に投げられた米国大使館アカウントですが、これを書いている4月17日17時現在、反応を見せていません。米国大使館アカウントは元々、1週間に1日程度しか呟いておらず、4月12日以降呟いていないままなので平常運転なのかもしれませんが、19日頃にどういう反応をするのか注目しております。


【ロシア政治外交関連の本たち】







2014年4月16日水曜日

インターネットの根幹「DNS」に根本的欠陥が見つかる

今月に入り、インターネット上の通信の暗号化を行うOpenSSLの脆弱性が存在し、ユーザーIDやパスワード等の暗号化されている情報が外部から見えてしまう「ハートブリード」問題が明らかになりました。


このハートブリードだけでも大問題ですが、今度はインターネットの仕組みの根幹に重大な欠陥があると判明しました。

インターネットでの国別コード、「.jp」ドメインを管理する日本レジストリサービス(JPRS)は15日、DNSサーバへの攻撃の危険性が高まっているとして、DNSサーバの設定を確認するように緊急呼びかけを行いました。


このJPRSの発表に対し、この欠陥を発見した中京大学の鈴木常彦教授、前野年紀氏は「危険性をよく理解して対策をとるにあたって十分な情報が含まれているとはいえません」を懸念し、下記のブログ記事等でこの問題の危険性を訴えています。


この問題はインターネットの根幹に関わるものですが、どんな問題を孕んでいるのでしょうか。それを理解するために、まずはDNSの仕組みから見て行きましょう。



DNSの仕組みとDNSキャッシュサーバ

DNSとはインターネットの根幹に関わる仕組みで、目的 のサーバにアクセスする為の重要な役割を持ちます。簡単に説明すると、"http://www.example.jp"というURLのサイトを見たい場 合、それを管理するサーバのインターネット上の住所(IPアドレス)が必要になります。そこで、DNSサーバに上記URLのラベル(ドメイン)に相当す る"www.example.jp"を管理するサーバのIPアドレスを問い合わせ、DNSサーバは持っているリストと照合してIPアドレスを教えるか、リ ストに無かった場合は別のDNSサーバに問い合せてIPアドレスを入手して教えます。普段、ブラウザでインターネットを閲覧していてもほとんど意識する事 の無いDNSですが、目的のサーバに辿り着く為には無くてはならない存在です。

インターネットに接続するサーバは膨大な数に上り、そのIPアドレスやドメインも日々変わっており、中央で一括してリストを管理する事は現 実的ではありません。その為、DNSはインターネット上に分散された階層構造をしており、上位のDNSサーバに問い合わせが集中しないよう、下位のDNS サーバが過去の問い合わせ結果を一定期間保存(キャッシュ)し、他のDNSサーバに再度問い合わせをしないような仕組みになっています。このように問い合 わせ結果をキャッシュするサーバをDNSキャッシュサーバと呼び、今回問題になっているのはこのDNSキャッシュサーバを攻撃する、DNSキャッシュポイ ズニングと呼ばれる攻撃手法です。



キャッシュが改竄されると、悪意のあるサイトに誘導される恐れ

DNSキャッシュポイズニングと は、攻撃者がDNSキャッシュサーバからの問い合わせに対して偽のIPアドレスを通知し、"www.example.jp"ドメインのサイトに行こうとし た利用者を、誤ったリストによって悪意のあるサーバに誘導しようとする攻撃の事です。本物そっくりな偽サイトに誘導されてしまった場合、気付かずにログイ ンIDやパスワードを入力してしまうと、攻撃者にIDとパスが筒抜けになってしまいます。

従来、DNSの仕組みでこの攻撃は実効性が低いのではないかと考えられていました。というのも、先に述べた通り、DNSキャッシュサーバは 問い合わせ結果を得ると一定期間リストに保存します。この保存期間を長くすると、次に偽のIPアドレスを吹き込むチャンスが攻撃者に巡ってくるのは大分先 の話になり、攻撃手法としては実用的でないと考えられていました。

ところが、2008年8月にカミンスキーアタックと呼ばれる新たな攻撃手法が発見されました。この手法では、DNSキャッシュサーバの問い 合わせを攻撃者が意図したタイミングで行わせる事ができる為、以前の手法と比べて実用的な攻撃となりました。ここ最近、大手インターネットサービスプロバ イダーに対して、このカミンスキーアタックによると見られるアクセスが増大しており、その為にJPRSは緊急呼びかけを行ったとされていますが、前述の通 り、鈴木氏、前野氏らが発見した欠陥はさらに危険な結果を招くとして、DNSの「仕様、実装、運用をすべて見直す必要がある」とまで警告しています。

今回明らかになったDNSの欠陥はキャッシュの優先順位に関連するもので、上位の信頼できるDNSサーバから応答された情報のキャッシュ を、下位の偽装された情報が優先されて上書きされます。これにより、攻撃対象のDNSキャッシュサーバのco.jp、ne.jpのような”.jp”ドメイ ン、地域ドメインそのものへのキャッシュポイズニングを可能とします。つまり、これまでの攻撃では"www.example.jp"の"example" 部のドメインの偽装に留まっていたものが、".jp"等の地域を示すドメインに対してまで偽装が可能になりました。攻撃が成功したDNSキャッシュサーバ を参照すると、".jp"が付くURLは全て悪意のあるサーバに誘導される可能性が出てくるということです。

先に明らかとなったハートブリードも深刻な問題ですが、脆弱性は既に修正されている為、各Webサービスや機器が適用さえ行えば解決できる ものです。しかし、今回の問題はDNSの仕様そのものに根ざした欠陥で、欠陥の修正やその適用は相当の時間がかかるものと思われます。現状取れる対策等に ついてはサーバ管理者側でないと取れないものばかりですが、参考となる鈴木教授のサイト、Twitter等を下記に示しますので、是非ご覧になって下さい。



【鈴木教授のブログ】

インターノット崩壊論者の独り言「 開いたパンドラの箱 長年放置されてきた DNS の恐るべき欠陥が明らかに」

【鈴木教授のTwitterアカウント】
https://twitter.com/tss_ontap_o

【平易な解説】
Geekなぺーじ「強烈なDNSキャッシュポイズニング手法が公開される」



【関連する本たち】





2014年4月11日金曜日

時代遅れな中国軍認識が蔓延る日本

防衛省の4月9日の発表によれば、昨年度の航空自衛隊の緊急発進(スクランブル)回数は810回と、空自が対領空侵犯措置を開始して以来9番目に多い回数で、この数字は冷戦期に匹敵する頻度です。

平成25年度の緊急発進回数は、前年度と比べて243回の大幅な増加となる810回であり、平成元年以来24年ぶりに800回を超えました。これは、昭和33年に航空自衛隊が対領空侵犯措置を開始して以来56年間で、9番目に多い回数でした。 推定を含みますが、緊急発進回数の対象国・地域別の割合は、中国機約51%、ロシア機約44%、北朝鮮機等その他約5%でした。

緊急発進急増の理由は中国・ロシアの2国が日本周辺での飛行を活発化させている事が原因で、近年急拡大する中国軍と冷戦後は低調だったロシア軍の復活を印象づける出来事です。特に冷戦期を通じても大人しかった中国軍の行動が、この数年で一気に活発化している点は見逃せません。10年、20年前とは行動がまるで異なる中国軍ですが、これに対峙する日本はどう認識しているのでしょうか。

日本周辺を飛行する中国軍の情報収集機(航空自衛隊撮影)


鉄道輸送が時代遅れ?

ニューズウィーク日本版3月25日号で「中国軍の虚像」という、中国軍の実情をテーマにした特集が組まれていました。テーマがホットなだけに目を通したのですが、稚拙なレベルの事実誤認と都合の良い解釈が全編に渡って貫かれており、あまりの出来にしばし唖然としました。著者が言うには、中国軍は「20世紀の技術さえ習得していない」そうで、その根拠を以下のように挙げていました。

人民解放軍は今も長距離の移動を伴う訓練に際し、戦車や大砲の運搬を貨物列車に頼っている。軍隊の移動は空輸が常識という時代に鉄道輸送とは、いかにも古臭い。ちなみに鉄道が輸送の主力だったのは第一次大戦までである。

この鉄道輸送は時代遅れとする指摘は2つの点で間違っていて、戦車や大砲等の重量物の輸送は現在のアメリカ軍でも普通に行われており、YouTubeでその様子を撮影した映像をいくらでも見ることができます。また、「軍隊の移動が空輸が常識」なんて常識はどの軍隊にも存在せず、軽武装の緊急展開部隊を除けば海上輸送がその主力です。仮に戦車を空輸しようとした場合、アメリカ輸送軍麾下の航空機動軍団が総力を挙げても、1個師団分の戦車を運ぶのがせいぜいです。そして、それを実行した場合の輸送コストは、とんでもない金額になるでしょう。



【動画:鉄道で輸送されるアメリカ軍戦車】

他の記述も頭が痛いですが、続けて見てみましょう。

核ミサイルを担当する精鋭部隊の第2砲兵部隊でさえ、広大な内陸部に展開するミサイル基地の警備には今も騎馬隊を用いている。監視用ヘリコプターがないからだ。

固定翼の軍用機も時代遅れだ。60年も前にソ連で開発された爆撃機ツポレフ16型の改造版は今も現役で、しかも本来の爆撃機としてのみならず、偵察機や空中給油機としても使っている。



まず、警備目的で騎馬を用いるのは欧米諸国の警察で現在も行われており、車両が入れない場所も通れる事や高い視界による監視等、数々の利点が評価されています。そして、アフガニスタンに展開するアメリカ軍でも山岳部に展開する特殊部隊が馬やロバを運用しており、アフガニスタンと環境が似ている僻地に展開する中国軍第2砲兵部隊が、ロジスティックスへの負担が低い騎馬を運用していてもおかしいことではありません。

アフガニスタンの前線基地を視察するシューメーカー陸軍参謀総長(右)とロバ(中央)

また、60年前に開発されたツポレフ16型爆撃機(Tu-16)を時代遅れと言っていますが、Tu-16と同じ1952年に初飛行したB-52爆撃機は未だにアメリカ軍で使用されており、2045年まで運用される予定です。Tu-16の開発時期をして時代遅れと言うのなら、同時期の機体を100年近く運用するアメリカはどうなるのでしょうか。

他にも突っ込みどころがありますが、キリがないのでここいらで止めます。ですが、こんなどうしようもないレベルの話で、中国軍が「20世紀の技術さえ習得していない」とするには、あまりに無茶があります。

もっとも、この記事を書いたライターの不見識を笑う程度で済む話ならば、大した問題は無いのかもしれません。しかし、そうはいかないようです。と言うのも、この記事の執筆者はPROJECT2049研究所というアメリカの民間シンクタンクの研究員で、この研究所の設立には知日派の重鎮リチャード・アーミテージ元国務副長官と関係の深い、ランダル・シュライバー元東アジア太平洋担当国務次官補代理が関わっています。PROJECT2049はアジア・太平洋地域の安全保障問題を専門にしており、日本の安全保障研究者との交流も行われるようになっていますが、このような立場の人間がイチャモンに近い理由で中国軍を侮っている事に驚きと不安を禁じえません。




中国・ロシアの空母は張り子の虎?

ここまでで挙げたニューズウィーク日本版の記事は、日本版オリジナルとは言え、書いたのは外国人ですのでまだ言い訳が聞きます。しかし、日本の大手マスコミ出身者にも、中国軍を侮る記事を書く人が見られます。朝日新聞の論説委員を努め、現在はジャーナリストとして活動している田岡俊次氏もその1人です。では、田岡氏が中国の空母”遼寧”について、原型となったソ連空母を含めた解説記事での記述を見てみましょう。

搭載する戦闘機Su(スホーイ)33の標準離陸重量(翼下の増加燃料タンクや爆弾などは着けない)は25.7トン、エンジン2基の推力は最大25.6トンだから爆弾、ミサイルを積まず、さらに燃料を減らさないと発進出来ない。飛行甲板の後端から全力で滑走してやっと浮くから、米空母のように甲板上に多数の航空機を並べておき、次々にカタパルトで射出することは不可能で、下の格納甲板から1機ずつエレベーターで上げては発進させるしかない。

この文章中の大きな誤りとして、垂直離陸をしない限り、エンジン推力が機体重量を超える必要は無いことです。田岡氏の言っている事が事実ならば、今も世界を飛んでいる民間・軍用含めたほとんど全ての航空機が離陸出来ない事になります。

B747。最大離陸重量875千ポンドに対し合計最大推力253千ポンドでも飛ぶ

これらの「クズネツォフ」の問題点は基本的に同型の「遼寧」でも全く同じだ。中国が自力で次の空母を建造しても、カタパルトと艦載早期警戒機、あるいはF35Bとオスプレイの早期警戒型(今はないが開発は可能)を米国から輸入しない限り問題は解消しない。

まず、カタパルトが無くても艦載機は発艦可能な上、F-35を導入しなくても中国では現在Su-33を基にしたJ-15艦上戦闘機を開発中で、さらにJ-XX計画として知られる第5世代ジェット戦闘機計画では、艦上機型も想定されているとの憶測も出ており、わざわざ米国からF-35を導入する必要性はありません。

田岡氏の空母を巡る発言で不思議なのは、かねてより日本のひゅうが型護衛艦を空母扱いする一方で、中国やロシアの空母に関しては戦力にならないと過小に評価する点です。田岡氏が中国空母に対して言った事が事実だと仮定したら、中国と同じくカタパルト開発経験もジェット艦載機開発経験も無い日本の空母も張子の虎のはずなんですが、これはどういうことなんでしょうか。

ネット上に流出した、中国が開発中の第5世代ステルス戦闘機J-31。艦載型も噂される


10年、20年前の認識が蔓延る日本

日本の防衛装備品技術に対する研究開発(R&D)投資は年々減少傾向にあるのに対し、中国軍のR&D投資は2007年で日本の4倍に達しており、現在はもっと差が開いているものと見られます。政府の投資に加えて民間でのR&Dも活発で、先にJ-XX計画機の1つであるJ-31は開発企業の瀋陽飛機工業集団の自社開発製品であるとも言われており、研究開発の環境そのものが既に日本とは別次元です。

それにも関わらず、中国軍の能力が低いとする言説が未だに見られます。確かに、R&D投資がすぐに現実の軍備に反映される訳でも無ければ、ソフト面という可視化し難い要素もあるのは事実です。しかしながら、防衛分野でのR&D投資額の逆転は相当以前から起きており、現実の軍備に反映されるには十分な時期が過ぎたと言えます。ソフト面においても中国軍は教育に重点を置いており、中国人民解放軍国防大学を始めとした10の大学機関と、多数の学校が設置されています。国防大学に留学経験のある自衛官によれば、留学生のために単身宿舎から家族帯同アパートメントまで用意され、学生は衣服だけ準備すれば生活に必要な物は全て支給される等の徹底したサービスぶりで、教育機関にも十二分に資金が回っている事が窺えます。少なくとも、何を解決すべきなのか、向こうは理解して投資をしているようです。

ここまで見てきた中で、現実の中国軍の進歩・改善した点は多くあると理解して頂けたと思います。しかし、冷戦期の中国イメージを未だに引きずっているかのような言説が日本ではまかり通っています。10年、20年前の認識ですら現在とは大きく異りますが、更に言えば、2012年から2013年の2年間で中国海軍が建造した戦闘艦は、この20年間で自衛隊が建造した護衛艦の数に匹敵するという事実を見れば、2、3年前の認識ですら時代遅れとなっているのが中国軍の進歩の速さと言えます。

現実に相当の差をつけられようとしていますが、相手に立ち向かうには正しい理解と認識が必要です。頭に蔓延る既成概念を取っ払い、現実を直視する事がまず必要なのではないでしょうか。



【参考になる本】

トシ・ヨシハラ「太平洋の赤い星」

以前も何度か触れた中国海軍戦略についての本。2010年に書かれたこの本の内容ですら、既に遅れてしまっている所が中国軍の進歩の速さの怖い所。

茅原郁生「21世紀の中国 軍事外交篇 軍事大国化する中国の現状と戦略 (朝日選書)」

中国軍の第一人者、茅原先生が書かれた本の中で直近の物。茅原先生の著書はハードカバーのガチ研究書が多い中、これは選書スタイルをとっており、読みやすさ、入手容易性、価格ともにお勧めです。


【参考にならない本】

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2014年 3/25号 [中国軍の虚像]

全く参考になりませんが、写真は面白くて安い点は評価しても良い。


2014年4月5日土曜日

日本に設置されるF-35の”整備拠点”と武器輸出三原則見直し

航空自衛隊に導入が決まっているF-35戦闘機の整備拠点が、日本国内にも設置される事が報じられています。

 防衛省は3日、武器輸出を事実上禁じてきた武器輸出三原則に代わる「防衛装備移転三原則」の閣議決定を踏まえ、防衛生産・技術基盤の強化戦略の骨子案を自民党国防部会に示した。日本企業が共同生産に参加している自衛隊の次期戦闘機F35について、アジア太平洋地域の整備拠点を国内に設置することを検討していることを明らかにした。
毎日新聞:<次期戦闘機F35>整備拠点国内設置を検討 防衛省骨子案

この報道に対し、日本が導入するのだから、整備拠点が日本にあるのは当然じゃないかと疑問を呈される方もいるかもしれません。ところが、日本に設置されるのと同様の整備拠点は、世界にイタリアとアメリカにしか無いもので、その設置には武器輸出三原則の見直しが大きく関係しているのです。


F-35戦闘機


F-35の開発計画とFACO

F-35はアメリカが主導して開発が進められている次世代のステルス戦闘機で、ステルス機能に加え、様々な任務を1機種でこなせる多用途性を特徴としており、競争の結果ロッキード・マーティン社のF-35に決まるまでは、JSF(Joint Strike Fighter:統合打撃戦闘機)計画として知られていました。

F-35の開発にあたり、JSFコンソーシアムと呼ばれる、JSF計画に参加する国家による団体が作られました。JSFコンソーシアム内では、アメリカ以外のJSF計画参加国が、計画への出資・貢献の程度によって階層(Tier)付けされており、上位の階層ほど計画に与える発言権が大きいといった特徴があります。

JSFコンソーシアムメンバー国と階層

最上位のTier1はイギリスのみで、20億ドルの出資によりF-35の設計に対する決定的な発言権と、開発・生産における自国企業への下請けが保証されています。その他、Tier2、Tier3と階層が下がるごとに出資額が下がる分、計画に与える影響は少なくなります。

これまでも戦闘機の国際共同開発は主にヨーロッパで行われていましたが、JSF計画におけるコンソーシアム方式が従来のものと異なるのは、参加国全てに作業分担が保証されず、設計への影響力、もしくは下請け選定時の優先権しか与えられていない点です。従来のヨーロッパにおける国際共同開発では、出資額に応じた作業分担が保証されていましたが、この方法では技術力に劣る企業にまで作業分担がなされる恐れがありました。コンソーシアム方式ではTier3参加国の企業に優先権はあるものの、技術的・コスト的に優れる場合は非コンソーシアム国の企業に作業分担される事になっており、コンソーシアム国企業の利益よりも機体の完成度を高める事を優先しています。

イギリスに次ぐ出資国であるイタリアには、最終組立・検査(FACO:Final Assembly and Check Out)施設がカーメリ空軍基地内に設置されることになりました。このカーメリFACOの運用は、イタリアの航空機メーカーのフィンメッカニカ・アレーニア・アエラマッキに任されており、ヨーロッパ・地中海沿岸諸国が配備する全てのF-35は、このカーメリFACOで機体の最終組立やステルス性能を与えるための塗装と検査が行われます。特にステルス性能を左右する塗装とその検査施設は機密度が高く、世界で同様の設備があるのはアメリカのフォートワースにあるロッキード・マーティンの工場と、今後設置が予定される日本のFACOに限られています。FACOはF-35の製造・メンテナンスの重要施設であり、その地域におけるF-35運用の要となります。イタリアのFACOがヨーロッパ・地中海沿岸地域をカバーするのに対し、日本のFACOはアジア・太平洋沿岸地域のF-35運用国のハブとして機能する事になるでしょう。


イタリア、カーメリ空軍基地内のFACO

FACO設置と武器輸出三原則見直し

さて、このFACOが日本にも設置される事が決まったというのは前述の通りですが、このFACOの設置がどのように武器輸出三原則見直しと関連しているのでしょうか。それは、FACOやF-35に関わる国際的な管理・運用システムに原因があります。

アメリカのフォートワース工場とイタリア・日本のFACOはオンラインで結ばれており、いずれかの施設で製造プロセスの改善が行われた場合、ただちにその手法が共有される仕組みになっています。F-35製造についての知識と経験が、国を超えて共有される事になるのです。

また、F-35のメンテナンスにあたっては、ALGS(Autonomic Logistics Global Sustainment)と呼ばれる国際的な後方支援システムが存在します。このALGSでは、全てのF-35運用国が互いに部品を融通しあう事になっており、どこ製の部品が使われるかといった事は区別されません。つまり、場合によっては日本製部品が海外のF-35に使われる事になり、武器輸出三原則に抵触する恐れがあるのです。F-35の部品はグローバルなサプライ・チェーンに基いて供給されており、一国だけ特別という扱いはまず無理で、F-35導入にあたってはF-35を武器輸出三原則の例外とする措置が取られました。


ALGSのイメージ(防衛白書より)


しかしながら、FACOの設置が日本にとって良い事かと言えば、必ずしもそうとは限りません。日本は前述したJSFコンソーシアムのメンバー国ではなく、あくまで製造に関与する下請けという位置付けにあります。日本に設置されるFACOはイタリアと同様のものとされていますが、Tier2メンバーのイタリア並にFACOの運用に関われるかは不透明です。そのメンバー国のイタリアですら、重要な部分はアメリカのロッキード・マーティン社が行っていると不満を述べています。日本はこれまで、アメリカの戦闘機をライセンス生産することで技術力を付けてきましたが、FACOでF-35生産に携わる事が出来ても、従来のような恩恵を日本企業が得る事は少ないだろうと見られます。

日本がJSFコンソーシアムに加わらなかった原因に、かつての武器輸出三原則があったとする意見もあります。しかし、現在の装備開発では開発費の高騰が問題になっており、開発費を分担しあう国際共同開発の流れが今後主流となるのは確実です。日本が装備開発競争に乗り遅れる事のないよう、国際共同開発への参加する事は安全保障上の重大な課題となります。そのためには、F-35のように武器輸出三原則の例外化だけでなく、抜本的な改正が重要になってきます。今回の改正により、国際共同開発への参加が大幅に条件が緩和される事になり、今後の装備品の国際共同開発に繋がる事になると思われます。

F-35の製造やメンテナンスに日本がどのレベルにまで関われる事になるか、まだFACOも設置されていない状態では未知数ですが、楽観できない状況にあると思われます。今後は日本が国際的な潮流に乗り遅れる事のないよう、日本にとっての平和と利益に資するような政策が取れることに期待したいです。



【参考となる資料】

森本敏「武器輸出三原則はどうして見直されたのか?」

森本敏元防衛大臣による、武器輸出三原則がなぜ見直されたのかについての解説書。防衛問題に詳しい識者による覆面座談会形式をとっており、武器輸出三原則とF-35の関係性に多くを割かれている。FACOやALGSとその問題点(とどのつまり、米国が技術を外国に出さない仕組み)も指摘しており、非常に勉強になります。






2014年4月1日火曜日

「Yahoo!ニュース個人」における、ネタ記事削除要請について

本日0時過ぎに「Yahoo!ニュース個人」にアップしました「神奈川県、町田市を編入。神奈川県町田市へ」ですが、Yahoo!ニュース個人編集からの削除要請、及び編集判断の非表示処理により、現在閲覧できない状態にあります。ほぼ同じものは、当ブログ内でも収録されておりますので、ご覧になりたい方はそちらをご参照ください。タイトルを読めば分かるように、クリミア編入問題に絡めたエイプリルフールネタです。

(追記:エイプリルフールのネタの経緯としては、こちらのTwitter上のまとめをご参照下さい。「Yahoo!ニュース個人における「ネタ記事」の扱い」

ここで、本件についてお話する前に「Yahoo!ニュース個人」について簡単に説明したいと思います。Yahoo!ニュース個人は、2012年9月にYahoo!ニュースが始めたコーナー(サービス)で、個人で活動しているジャーナリストやブロガーなどがオーサー(執筆者)としてYahoo!ニュース内の「個人」というカテゴリに記事を出稿し、記事のPVに応じた広告収入を報酬として受け取るというものです。
 ヤフーは9月26日、「Yahoo!ニュース」の新コーナーとして、ジャーナリストやブロガーなど個人が直接記事を入稿し、Yahoo!ニュース読者に届けられる「Yahoo!ニュース 個人」をオープンした。まずは政治、経済、ITなど各ジャンルの書き手約50人が参加。ページビュー(PV)に応じて広告収益をシェアするなど、「個人の活動を支援する場を作る」としている。


Yahoo!ニュース個人の狙いを端的に言うと、価値観の多様化等で個人ブログへの注目が高まっている中で、それまで個人のブログに集まっていたPVをYahoo!ニュースが取り込むと共に、そこで得られた広告収入をオーサーへ還元する事で両者Win-Winの関係(なんとも死語だ!)を築こうというものです。これまでブログサービスに逃げていたPVをYahoo!内に取り込め、オーサーも報酬を貰えてニッコリ……と一見両者良いことづくめに見えるサービスで、始まった当初はネット上でも企業による新しい取り組みとして、それなりに注目されていたと思います。

当初は著名ジャーナリストや学識経験者、有名ブロガーらオーサー50名で始まったYahoo!ニュース個人でしたが、将来的にオーサーを1000名規模まで拡大する事が計画されていました。ひょんな事で零細ブロガーの私にもお声がけ頂き、2013年8月よりオーサーの末席を汚させて頂いております。私の加入以後もオーサーは順調に増え、現在は多種多様な書き手が集っております。

さて、Yahoo!ニュース個人の説明はここまでにして、本題の記事削除要請について戻りましょう。

ここで編集が提起したのは、Yahoo!ニュースという場にネタを載せる事は好ましくない、という判断です。自分でネタを上げておいてなんですが、これは全く同感です。ニュースという場にネタは相応しくない。これは程度問題こそあれ、多くの方が共通認識として同意できるものだと思います。

そんなネタ記事を許さないYahoo!ニュース編集の方針は完全に正しいでしょう。では、そのYahoo!ニュース個人でのアクセスランキング上位記事を含む、エイプリルフール以外の日に掲載された記事を見てみましょう。

ウクライナ・南部クリミア半島の空港などに突入した米海軍特殊部隊が、ロシア正規軍と交戦、全滅した(板垣 英憲) - 個人 - Yahoo!ニュース

世界の「人類削減計画派」が中国の習近平国家主席の「国防予算増大」を餌食に「第3次世界大戦」を策謀する(板垣 英憲) - 個人 - Yahoo!ニュース

北朝鮮「暗殺隊」が、私利私欲の徒・金正男と息子、張成沢・国防副委員長の手下約3万人の粛清に向かう(板垣 英憲) - Y!ニュース

日本発イノヴェーションが「トリチウム汚染水」の呪縛を解く(原田武夫) - 個人 - Yahoo!ニュース

はい、凄い「ニュース」ばかりですね。アクセスが発生してオーサーに金が入るのが嫌なので、記事にリンクはしません。

1番目については、現在は「全滅した」が「失敗した」と若干マイルドな表現になっておりますが、世界のどこを見ても報道した所はYahoo!ニュースのみです。ロシア語を読めない私が見逃しているクリミア情勢の裏ニュースがあるのかもしれません。そこでこの「全滅」記事について、クリミア情勢で連日テレビやラジオに出演されており、Yahoo!ニュース個人でオーサーもされているロシア軍事情に詳しい小泉悠氏の感想を御覧下さい。



2番目、3番目については言及を省きますが、4番目の記事も曰く付きです。この記事は元外務官僚が執筆者ですが、福島第一原発のトリチウム水問題を「原子転換」により解決するという内容の記事で、この「原子転換」は典型的なエセ科学と看做される分野です。これと全く同じ記事が東洋経済オンラインで掲載されると多方面から批判を浴び、東洋経済社は謝罪し掲載を取りやめましたが、Yahoo!ニュース個人では掲載から3ヶ月経とうという今でも閲覧可能です。

このように、今のYahoo!ニュース個人はネタ記事が大手を振って掲載され、それらがランキング上位に張り付き、真摯な記事は日の目を見ないという惨状です。当初の志の高さはどこに行ったのでしょうか。

話を記事削除要請に戻しましょう。私が「町田市編入」記事を出稿したのは、エイプリルフールだからネタをやりたいという気持ちが半分、完全に嘘だと分かりきっているネタ記事についてYahoo!ニュース編集がどう考えているのかを明らかにする狙いが半分でした。そこで明らかになったのは、Yahoo!ニュース編集部はネタ記事を許容しないという姿勢です。ですが、現実はご覧のとおりです。

そこで私は、自分のエイプリルフールネタ記事の自らによる削除を拒否する旨とその理由をYahoo!ニュース編集に送りました。以下に引用します。

いつもお世話になっております。dragonerです。

さて、メールでご依頼頂いた記事削除の件ですが、
下記の点から承服致しかねます。
  • Yahoo!ニュース「個人」において、虚偽と断定し得るニュース、あるいは似非科学に基づく記事が恒常的に見られ、それらは放置されている。
  • 多くのオーサーが真摯に記事を執筆している中、前述の虚偽・似非科学に基づく記事がランキング上位を占め、かつ執筆権限外のカテゴリランキングを汚染している。(クリミア問題が「国内」?)
  • 上述したニュースの信頼性に関わる事が放置されており、その点を懸念するオーサー、並びに外部識者は大勢いるが、一向に改善は見られない。
  • そのような現状であるにも関わらず、エイプリルフールという広く認知された日に、直近伝えられた国際ニュースを基であると誰しも理解し得るジョークが許容されない、というのは納得がいかない。
以上になります。

なお、上記点は本記事削除要請を承服しかねる理由に限らず、Yahoo!ニュース「個人」の根源的問題であると認識しています。Yahoo!ニュース「個人」の書き手であるジャーナリスト、学者、ライターにとって、信用は重要な要素であると理解していますが、Yahoo!ニュース個人の現状はニュースとしての信頼性を欠くものがまかり通り、それらが真摯な書き手に対する信用の毀損にも繋がりかねないと懸念しております。悪貨が良貨を駆逐すると言ってもよいでしょう。

今回の記事執筆も、エイプリルフールのネタ半分、もう半分は貴社編集姿勢についてのリトマス試験紙として意図しております。

もし、現在のYahoo!ニュース「個人」の上記状況を改善して頂けるのでしたら、喜んで記事を自ら削除致します。

このメールに対し、「エイプリルフールネタは他のオーサーにも遠慮頂いており、非表示にさせて頂きました」という返答がYahoo!ニュース編集より来ました。それでは、ネタ記事が本当に非表示にされているか、御覧下さい。

ネタ記事(右)
「ディビット・ロックフェラーがリーマンショック前に皇居を訪問し、天皇陛下に窮状を訴えていた」「ディビッド・ロックフェラーは、米英中心に多国籍軍を編成して世界戦争を策動する「世界新秩序派」の頂点に立ち、「第3次世界大戦」を勃発させようとした。」ってネタ記事が、未だに非表示にされていないんですけど、なんでなんですかね?


皆様もご存知の通り、Yahoo!ニュースは日本最大のポータルサイトであるYahoo!内のニュースサイトで、日本で最も影響力の大きいネット媒体です。その影響力の大きさについては、コラムニストの小田嶋隆氏がPV至上主義の問題と共に語っています。

一方、新聞記者に会って話を聞くと、最近は記事を書く際にYahoo!ニュースのトップに掲載されることを目標にし始めているというんです。これは圧倒的にPVが多いからなのですが、PVを稼ぐために記事を作るという圧力が、記者の中にも働きつつある。これは非常に不健康なことだと思うんですね。


紙媒体の部数至上主義は昔から言われていましたが、現在のネット媒体でもマスメディア記者がPV至上主義に陥っている事を指摘し、その姿勢を問題視しています。このようにYahoo!ニュースはマスメディア記者が意識するほど影響力高い媒体でありながら、あからさまな嘘、陰謀論、エセ科学に基づく記事を掲載し、それらネタ記事にYahoo!ニュースという看板・信頼を与えている事について、どのような見解を持っているのでしょうか。

Yahoo!ニュース編集部におかれましては、今後も高い影響力維持したいのであれば、よりニュースの信頼性を高めるべきあると思いますが、こんな現状を良しとしているのでしょうか? メールにも書いたように、これら恒常的に出稿される「ネタ記事」に対し、断固たるご対応頂ければ、喜んで私のネタ記事をYahoo!ニュース個人のCMSからも消す次第です。

Yahoo!ニュースから、Yahoo!ニュース編集部の方針に従い、ネタ記事が一掃される事を信じて疑いません。

神奈川県、町田市を編入。神奈川県町田市へ

神奈川県の黒石知事は1日、東京都南部の町田市の神奈川県編入を決定し、町田市との編入条例に調印した。これにより、既に対神奈川県制裁を発動している東京都が猛反発するのは必至で、双方の対立は決定的になった。

黒石知事は、神奈川県議会で県会議員を前に演説し、編入条例の承認を議会に要請。その場で、町田市の岩阪市長相らと町田市の編入条例に調印した。神奈川県による町田市掌握後に実施された市民投票では、神奈川県への編入賛成は96.7%に上った。黒石知事は演説の中で、投票結果を引き合いに出し、「町田の要請に応じなければ裏切りになる」と述べ、編入は住民の意志を受けたものである事を強調した。また、町田の歴史をひも解き、「町田は神奈川県にとって不可分の県土」と編入の正当性を力説した。


神奈川県に編入される町田市(黄色部)

神奈川県による町田市編入に対し、住民投票そのものを違法・無効と見做す東京都は、黒石知事とその側近等、神奈川県要人が都内に持つ資産の凍結、上京の禁止等の制裁を発動している。これら都の制裁にも関わらず、神奈川県は編入を強行しており、都は更なる追加制裁を検討している。東京都は関東各県にも神奈川県への制裁を呼びかけており、町田市を緊張は更に続くとみられる。


※町田市の帰属問題

神奈川県に食い込むように存在する町田市は、かつては神奈川県に属していた歴史的経緯がある。また、元横浜市職員の現市長に代表されるように、住民の大多数は神奈川系で占められており、神奈川県への編入を求める住民の声は以前より見られた。町田市の経済は極端な東京依存であり、ほとんどの住民は東京都へ日々出稼ぎに赴いている。このため、今後の東京都の制裁によっては、町田市はより経済的困窮に立たされると懸念される。


神奈川県庁のツイート(2枚目下から)

町田市編入決定時