2013年6月30日日曜日

書評:広中一成「ニセチャイナ」(社会評論社)

久しぶりに書評をしたい、多くの人に紹介したいと思わせる本でしたよ、「ニセチャイナ」。

広中一成「ニセチャイナ」(社会評論社)

この表紙のイロモノっぷりに騙されてはいけない。

本書は20世紀中国に数多く存在した政権のうち、「親日傀儡政権」のみを特集した一般書という、かなり珍しい本。一般書だけあって、本文ではですます調が徹底され、徹頭徹尾読みやすさに気を払われているのも高ポイント。

「20世紀中国政権総覧」シリーズの第一巻として企画された本書では、満州事変以後に日本が占領地内に擁立した傀儡政権のうち、代表的な6カ国(満州国、蒙古聯合自治政府、冀東防共自治政府、中華民国臨時政府、中華民国維新政府、汪兆銘政権)の成立から崩壊に至るまでの歴史を、当時の写真等の図表を交え振り返ります。

1939年の日本領及び傀儡政権(Wikiより引用

日本の傀儡政権と言えば満州国が有名ですが、本書では前述の通り、満州国含め6カ国を取り上げます。満州国以外はマイナーと言ってもいいのに、それを6カ国も紹介ですよ、6カ国も。でも、日本が敗戦する前に消えた、吸収された傀儡国家も入れれば、もっと多くの傀儡政権が。どんだけ傀儡政権抱えてんだよ、帝国日本。

本書がなんと言っても面白いのは、混迷の渦中にある中国で、傀儡国成立に携わった日中の人間のモザイク模様。どいつもこいつも一癖も二癖もある。

皇帝への復権を諦めていない溥儀、チンギス・ハーンの偉業に憧れ満蒙再興を目指す蒙古人、チベットで権力闘争に負けて中国に逃げてきた活仏、反日よりも日本の近代化に学ぶ方が賢明と考えた中国要人らの意思に、占領地の治安を確立させたい陸軍、対ソ連戦を見据えた石原莞爾ら陸軍参謀、新国家建設を夢見た理想主義者(指揮者小澤征爾のオヤジ達だ)、グローバル人材の成れの果ての様な大陸浪人達。
それらの多種多様な思惑が、絡んで生まれ出た傀儡国家の数々。
まさに混沌としか言い様がない。

出てくる皆が皆、無茶をやらかす。内戦状態の中国は言うに及ばず、政府・軍・関東軍とコンプライアンス不在の日本の状況がそれに拍車をかけていく。
そもそも、

満州を日本のものにしようぜ!
国内外の反発強いから独立国にするべ
ソ連コワイ!  対ソ戦に備えて満州国強化だ!
独ソ不可侵条約! うちも日ソ中立条約だ!
ドイツがフランス負かした! フランス領ベトナムおいしいです^q^
連合国とアメリカ怒ってる
アメリカに宣戦布告だ!

という満州事変以後の流れ。
いつ見ても分裂症気味というか、国家戦略としての統合を欠いていらっしゃるというか、その場凌ぎの泥縄対応だったんでしょうけど、それを一つの流れとして見ると、やはり理解できませんね。
教条主義化したコンプライアンスというのも考えものですが、存在しないとやはり恐ろしいものです。

こんなことで割を食うのはもちろん現地の中国人に、日中戦争で疲弊しきった上にアメリカと戦争までやることになった日本人。
満州国では中国人が田畑から追い出され、その跡を日本人に開拓させてみたものの、太平洋戦争勃発で開拓団の成年男子は徴用された上、ソ連侵攻で残された女子供は決死の逃避行と誰得状態。また、貧弱な傀儡政権の財源確保に阿片の売却益を充てようとしたら、その利益の大半は日本側機関に中抜きされ、市中にはアヘン中毒者が溢れる有様。

こんな破綻国家丸出しの傀儡国家達も、日本の敗戦と共にあっさり消え去ります。
本書では傀儡国家成立の過程を丹念に紹介する反面、解散の記述は至極あっさりしたもので拍子抜けするんですが、きっと本当に多くを記述できる経緯もなく、あっさりと消滅したんでしょう。
個人的には傀儡政権要人のその後が気になりますが、そこらへんは第2巻以降でカバーされているものと期待しております。



個人的に本書を読んでて一番の驚きは、傀儡中国における住民の教化機関、中華民国新民会の元幹部、岡田春生氏のインタビューが収録されていたことです。ご存命だったとことにも驚きましたが、一般書の体裁を取る本書で氏のインタビューがある事により驚きました。
岡田春生氏の著書「新民会外史 黄土に挺身した人達の歴史」は、 新民会の活動を伝える数少ない資料です。書店やアマゾンで手に入るような本でなく、置いてある大学図書館も限られており、読まれた方も少ないと思うのですが、日本の対中宣撫工作活動に興味のある方は、一読をオススメします。

新民会外史は稀少本もいいとこで手に入りにくいですが、最近は日本占領地域・傀儡政権下での宣撫工作機関を扱った本が相次いで出版されておりますので、ここでいくつか参考までにご紹介します。


知られざる県政連絡員―日中戦争での日々
県政連絡員とは、日本占領地域での宣撫工作を担った機関のうち、軍に属していた機関のことで、後に合理化の一貫で新民会に統合された組織です。
新民会との統合を巡っては、新民会と吸収された側の県政連絡員との内部対立が大きかったことが知られていますが、新民会よりもマイナーな県政連絡員の実情を教えてくれる、数少ない本です。

「華中特務工作」秘蔵写真帖: 陸軍曹長 梶野渡の日中戦争
ニセチャイナ著者の広中氏による著書。
こちらは、実際に工作に関わった陸軍担当者への聞き取りと、大量の写真により構成されたビジュアル読本です。
岡田氏へのインタビューもそうですが、近い将来に失われるであろう当事者の記憶を、聞き取り調査で掘り下げ記録する姿勢には頭が下がります。

これらの本と併せてニセチャイナを読むことで、面白みもより深まるものと思います。



ニセチャイナは20世紀中国の日本の傀儡政権を扱った一般書としては、類書が無いものです。
そのテーマも合わせ、混乱期の中国とそれに付け込む日本の有象無象達の動きは読んでいて大変面白いと同時に、その傀儡政権・日本の政策の細部の粗雑さと、全体の非人間性に背筋が寒くなること請け合い。

また、日中戦争の延長としての太平洋戦争という意味合いを理解する上でも大きな助けになると思います。傀儡政権の建国の為の陰謀から、財源として密輸や麻薬売買を躊躇なく行う日本が、いかに国際社会から信用を失って、戦争に突き進んでいったかが分かる。
自国の愚かな過去を知ることは悪いことじゃない。



ニセチャイナはアマゾンでも在庫なしの状況が続いていますが、本屋で探して買え。必買。あと、楽天ブックスでは在庫無いけど注文は受け付けてます。

ニセチャイナ 中国傀儡政権(20世紀中国政権総覧)

シリーズ出版を計画しても、途中で出版自体がポシャることの多いこのご時世、買って読むんだ。
なによりも、続刊を楽しみにしているオレのために。






2013年6月29日土曜日

防衛省技術研究本部、手投げ式偵察ロボットの軌跡

近年、無人機の研究が世界各国で盛んですが、防衛省技術研究本部でも当然行われています。
いくつかのユニークな研究もあり、 その一つが手投げ式偵察ロボットです。

手投げ式偵察ロボット 歴代の仮作品

手投げ式偵察ロボットは、主に市街地を想定した偵察ロボットで、建物の死角や隙間に投げ込むことによって、敵情を偵察するロボットです。具体的には、地上階からビルの2階に投げ込んで2階を偵察させるなどの運用を想定しています。
そのため、手で投げられる程度の小型化、着地の衝撃に耐える耐衝撃性、安定した操縦と偵察を行うための走行中の姿勢安定の3点についての技術的解決が求められました。

手投げ式偵察ロボット運用構想(外部評価報告書 「携帯型小型情報収集器材の研究」より引用

手投げ式偵察ロボットの研究は平成19年度から平成23年度にかけて行われ、その間に3タイプのロボットが試作されました。順を追って紹介したいと思います。



平成19年度仮作品

2007年度(平成19年度)に最初に製作された偵察ロボットです。

平成19年度仮作品

最初はラグビーボール大の楕円形型でした。重量もあって手投げには向かず、表面もほとんどがプラスチックで耐衝撃性はありませんでした。
しかし、これはコンセプトの妥当性を検証するためのモデルであり、偵察に有効か、安定した映像が送れるか等の実証目的に製作されたため、端から携帯性・耐衝撃性等は考慮されていないのです。
上の写真の状態ではカメラなどの内部部品が見えますが、これは動作時のみに展開されるもので、 普段は収納されております。展開時は中央で分割され、車輪が2つで移動を行います。

下の動画は2008年の防衛技術シンポジウムで公開された一次試作品の動作デモの様子です。




また、この平成19年度仮作の時点では、操縦は市販のゲームパッドを利用しており、映像もノートパソコンに表示されておりました。



平成20年度仮作品

平成20年度仮作品は、平成20年度に製作されたモデルです。
平成20年度仮作品(収納時)
平成19年度仮作品と比べて大幅に小型軽量を達成し、ベースボール大の大きさに重量870グラムと、手投げも可能なレベルになりました。
形状は、収納時は長さ・幅・高さが110mmと完全な球形になり、動作時は下の写真のように展開し、展開された中央部にカメラとマイク、また車輪部は大小2つずつの計4つで構成されることで、走行安定性が改善されました。

平成20年度仮作品(展開時)

また、プラスチックの外装から、ゴム状の柔軟性・耐衝撃性のある材質で表面が覆われ、0.9mの高さからのコンクリート面への落下にも耐える耐衝撃性が得られました。
また、展開時の内部のシールを見ると、製作はNECが担当したようです。

下の動画は2009年の防衛技術シンポジウムでの動作デモの様子です。




動画を見ると、段差を乗り越える能力が向上したことや、多少の落下でも動作に支障がないことが分かります。



平成21年度仮作品


平成21年度の仮作品は、収納時の形状が長120mm・短100mmと若干、楕円形よりになりました。

平成21年度仮作品(収納時)

重量は840グラムと前年度より若干軽量化。
大きな改善点は、耐衝撃性が1.8メートルからの自然落下に耐えるまでに向上し、前年度の0.9メートルから飛躍的に高まりました。

平成21年度仮作品(展開時)と操作端末
また、従来のノートPCを介した操作から、映像受信機と一体化した専用の操作端末も製作され、より実戦に近い運用も可能となりました。


平成21年度仮作品 専用操作端末
操作端末は操作レバーと、カメラの切り替えスイッチ、ライトの点灯スイッチが物理的なスイッチで、その他の操作はモニタのタッチパネルで操作ができます。


赤外線ライト点灯時

赤外線ライトが点灯した際の写真です。
もちろん、肉眼では光って見えません。ある程度の暗所撮影能力も備えているようです。
また、スピーカーもあることから、味方との通信や警告なども発することが出来るようです。

実際に操作してみましたが、簡単なインターフェースですぐに慣れるので、なかなか完成度が高くなったと思います。
実際に操作端末での操作の様子を録画していましたので、ニコ動、YouTubeにアップしてみました。




簡単な操作で軽快に動くことが、映像から分かると思います。



平成23年度仮作品


平成23年度仮作品(右)と操作端末

平成23年度の仮作品は、基本構成は平成21年度仮作品を踏襲しつつ、より小型軽量に、より高性能なものとなりました。実際のデータは、一覧表を見るとその進歩が分かります。


諸元一覧表

平成23年度仮作品は、670gと小型化し、耐衝撃も3メートルにまで向上しました。
操作端末も薄型化しており、より平成21年度品のコンセプトを受け継ぎ、より洗練されたことが窺われます。


また、似たようなコンセプトの偵察装置が海外でも製作されております。
下の映像はBounce Imaging社が2012年に発表した装置で、自走能力はありませんが、ボールに搭載された6つのカメラが投げ込まれた場所を回転しながら撮影し、回転が止まると今まで撮影した写真をパノラマ合成して、送信するものです。



自走型とは違いますが、ボール型カメラとしてのコンセプトは近いものと思います。


日本でも手投げ式偵察ロボットのようなユニークな研究をしておりますが、この分野は日進月歩が激しいもので、すぐに陳腐化が進みます。
この研究も23年度で終了し、装備化が行われるなら開発に進むものと思われるのですが、まだ具体的な装備化の話はありません。

この手のロボットは、運用面での研究も大事なので、コストもそんな大きなものではないのですから、早めに取得して部隊の運用ノウハウを積んだほうがよいと思うのですが……。


【参考】
外部評価報告書「携帯型小型情報収集器材の研究」





2013年6月25日火曜日

ヴォイニッチ手稿と暗号解読

最近、話題になったニュースだそうですが、どうもヴォイニッチ手稿(写本)が、デタラメでなくて意味のある事が書かれているんじゃないか、という話をツイッターで小耳に挟みました。

で、そのヴォイニッチ手稿ってなんぞや? という方のために、困ったときのWikipediaから引用してみましょう。

14世紀から16世紀頃に作られたと考えられている古文書。全230ページからなり、未知の言語で書かれた文章と生物を思わせる様々な彩色された挿絵から構成されている。文章に使用されている言語は、単なるデタラメではなく言語学的解析に照らし合わせ、何らかの言語として成立機能している傍証が得られているため、一種の暗号であると考えられているが内容は不明。

このヴォイニッチ手稿に意味あるらしいよ、というBBC報道があったという話が、ツイッターでRTされてきたのですが、後から気になって元記事その他(下記リンク)を確認したら、「依然としてデタラメの可能性もあるよ」という記事で、意味があると断定した、という訳でもありませんでした。がっくし。

In Deep: 「ヴォイニッチ手稿は真実のメッセージを持つ」という英国 BBC の報道

で、ここから本題。
最近、ツイッターで暗号について呟いたら、少なからぬ反響頂きました。下はその時のツイートのまとめです。ツイッターやられてない方はどうぞ。

戦前・戦中の日本とポーランドの軍事協力と暗号 - Togetter

で、ヴォイニッチ手稿が今日まで論議を読んでいるのは、未知の文字で書かれた手稿が未だに分かっていない、つまり、未だ解明されていない暗号だからです。
今回は、ヴォイニッチ手稿と暗号について、その関係について書いてみたいと思います。



戦争の片手間でヴォイニッチ手稿解読

Wikipediaにも載っていますが、日本海軍のパープル暗号を解読したことでも知られるアメリカの暗号学者のウィリアム・フリードマン。彼がヴォイニッチ手稿の解読に挑んだが、結局解読できなかった、という話があります。

このフリードマン、暗号の歴史の中で必ず出てくる重要人物で、1922年に米国陸軍で採用されたM-94暗号機や、第二次大戦で米国陸海軍と国務省で使われた暗号もフリードマンにより開発されたものです。また、暗号解読の分野においても、彼のチームは1940年に日本の外務相暗号(パープル暗号)を解読するなどの成果をあげ、1952年に設立された国家安全保障局(NSA)でチーフ暗号解読者を務めました。

そんな暗号界で華々しい活躍をしたフリードマンですが、ヴォイニッチ手稿の解読に約30年を費やしています。 
彼は1920年代にヴォイニッチ手稿を発見したヴォイニッチの夫人から、ヴォイニッチ手稿の写しを得て、解読に取り組み始めます。ヴォイニッチ手稿が発見されたのが1912年ですから、かなり早い段階からフリードマンが手稿に興味を抱いていたことが分かります。

このフリードマン、というかアメリカが凄いのは、第二次大戦中にフリードマンを中心とした陸軍の暗号解読者らによって、「ヴォイニッチ手稿研究会」という、勤務時間外での非公式クラブを立ちあげた事です。戦争の真っ最中に、勤務時間内は敵の暗号解読し、定時になったらヴォイニッチ手稿の解読クラブという余裕がいかにもアメリカです。

このクラブは、1944年から1946年まで活発に活動していたことが分かっているそうですが、戦争の終結によって、暗号解読者が復員したために解散し、その記録は所在不明になっているそうです。

このように早くからヴォイニッチ手稿の解読に取り組んできたフリードマンですが、1950年代中盤から健康を害したために暗号解読を辞め、ヴォイニッチ手稿を解読すること無く、1969年に亡くなりました。



国語の使用頻度

このフリードマンの仕事の一つに、一般的な英文1万字中の各文字の使用頻度を調査したものがあります。アルファベットは26文字ですから、1万字の文中に均等に使われていた場合、統計学的には1字につき385±58の範囲での使用に収まるとされます。

ところが、フリードマンの調査では、この範囲に収まった文字は"j"と"l"の2文字だけで、 文字によって使用頻度に偏りがありました。これはどんな英文を選んでも再現性があることが確認されています。

これは現在でも簡単に再現できます。
試しに、本日6月25日のJapan Timesの記事を適当に選んで、その冒頭200文字(アルファベットのみ。数字・記号は除外)から各文字の使用頻度を数えてみました。下が実際に数えてみた記事とその該当文です。

①Qualcomm completes ¥10.89 billion investment in Sharp | The Japan Times
Sharp Corp. on Monday received the second half of Qualcomm Inc.’s ¥10.89 billion investment and completed procedures for forming a capital alliance on developing new display panels, the struggling electronics maker said. The investme turned the U.S.
②Japan, South Korea let more currency swaps expire | The Japan Times
Japan and South Korea agreed to end part of their currency swap contract next month as scheduled, reducing its overall size to $10 billion from $13 billion, the Finance Ministry said Monday.
The two countries “have reached the conclusion that they wil
上記の文にそれぞれ①、②と番号を振り、その使用頻度を集計したグラフがこちら。

①の文の使用頻度

②の文の使用頻度
フリードマンが調べた1万字に遥かに及ばない200文字の集計結果ですが、①と②で使われている文字の傾向がよく似ている事が分かります。

このように言語には、文字それぞれに使用頻度に特徴があり、ヴォイニッチ手稿がデタラメではなく、なんらかの意味を持っているのではないかと考えられている理由の一つも、これではないかと思います(ヴォイニッチ手稿を見たこと無いので当てずっぽうです。間違ってたらすみません)。

言語にこのような特徴があると、字を置き換えるだけの換字式暗号ではすぐに解読が可能ということも分かると思います。暗号は、いかに原文にある偏りを無くすよう変換するかが重要となってくるのです。

ヴォイニッチ手稿は15世紀頃に作られたと推測されていますから、それほど高度な暗号化はなされていないと考えられます。書かれてある文字が、言語学的な統計で意味があるようだと分かっていると言う事も、それを裏付けるものと思います。

逆に言えば、ヴォイニッチ手稿に言語による偏りの存在が残っているくらい暗号としての程度が低いのならば、なぜ著名な暗号学者達が100年近く挑んでも解読できないのか、という疑問が浮かびます。
これこそが、ヴォイニッチ手稿が本当に未知の言語で書かれたものか、あるいは頭の良いヤツが考えぬいたイタズラなのか、未だに議論に決着が着いていない理由なのでしょう。



【参考文献とか面白い本】



「基礎暗号学」は2巻構成の本で、1巻が暗号理論、2巻が暗号解読と暗号強度の話になります。
著者の加藤正隆は、本名を釜賀一夫といい、日本陸軍の暗号将校でした。1944年にパープル暗号の脆弱性に気付き、陸海軍・外務省・大東亜省の暗号担当者の会合の席で、パープル暗号を解読して警告したと言われるほどの暗号のエキスパートで、戦後も自衛隊で暗号解読に従事しました。
その釜賀が退官後に「数理科学」誌に連載したものに、現在でもネットワーク暗号で使われるDESや公開鍵暗号等の解説を加えたもので、暗号理論の概説としては良書であると思います。



「暗号を盗んだ男たち」は、日本陸軍における暗号開発・解読のドキュメンタリーで、「大逆転」シリーズでも知られる作家の檜山氏の読ませ方も上手く、読み物としても優れています。
価格も手頃なので、入門書としては最高だと思います。


Jim Reeds "William F. Friedman’s Transcription of the Voynich Manuscript"

ベル研究所研究員による、フリードマンとヴォイニッチ手稿の話で、今回の元ネタの一つ。
英語読み違えてたらごめんなさい。

以上

2013年6月21日金曜日

国際演習ドーンブリッツ2013 映像まとめ

最近、自衛隊関連で一番ニュースになっていることとは、アメリカ西海岸で行われている、多国籍演習のドーンブリッツですね。
Dawn Blitz(夜明けの電撃)って名前、今はBlitzは英語圏でも使われるとは言え、英語とドイツ語混じりの中二センス溢れるのがええですね。STEINS;GATEみたいで。

さて、6月10日から始まって26日に終了ですから、もう演習も終盤です。
今回は離島奪還演習なども含まれる注目度の高い演習であると同時に、海外での演習であることから、非常に映像が豊富なのも特徴です。
今日はドーンブリッツの映像を紹介してみたいと思います。



オスプレイ・ひゅうが関連




話題になった、しもきたとひゅうが甲板へのオスプレイの着艦動画。
前半がしもきた、後半がひゅうがです。
このアカウント、US Militeryって名前だけど、非公式のアカウント。でも、アメリカの公務員が業務上作成した映像は、パブリックドメインとして著作権が無いので、こういう転載が多くあります。
日本もパブドメにしちゃった方がええのにね。




ひゅうがへのオスプレイ着艦を艦側から撮影。さらには、艦内に収容される様子も分かります。






ひゅうが艦上でのインタビューの様子1と2。日米両者の会見が聴けます。
中国が演習にナーバスになっていることも質問されています。




ひゅうが艦内・艦上に米軍関係者を案内。


http://bcove.me/dnrugvd1
http://bcove.me/upztzp0i

この2つは演習地であるサンディエゴの地方紙、U-T San Diegoのによる取材映像です。ひゅうが内部での取材の様子が分かります。
最初はプレイヤー表示にしていたんですが、再生ボタンを押さずとも自動で再生が始まってしまったので、リンクのみにしておきます。



演習全般




第一海兵遠征旅団(自衛隊の公式リリースだと「第一海兵機動展開部隊」という訳。英略は1stMEB)のYouTubeチャンネルの映像。
あたごの入港、ひゅうがの接岸と記念式典の模様が映っています。




同じく1stMEBによる、しもきたから発艦したLCACの上陸と、輸送されたトラックの積み下ろし、LCACの帰投までの様子です。
映像から切り出した画像ですが、LCACのデカさが分かりますね。





こちらもLCACの上陸の様子。




トラックから木箱に入った弾薬を搬出します。
アメリカ海兵隊と共同で運んでいますね。




演習に参加している西部方面普通科連隊の様子。
最初が120ミリ迫撃砲の設置で、それ以降は測候・パトロール演習の様な感じです。終盤、隊員が坂道でバテています。
日本国内の演習だったら、ここまで接近して長時間の動画撮影はあまりないと思います。




海兵隊との協同作戦です。地図で互いに状況を確認しあい、オスプレイや自衛隊のCH-47、AH-64D、LCACからの部隊が続々と到着します。
これは17日に行われた演習で、オスプレイに搭乗した海兵隊員による滑走路の制圧後、CH-47Jで運ばれてきた陸上自衛隊員が滑走路の確保を引き継ぎ、続けて揚陸艦から発進したLCACによる部隊揚陸というシナリオだそうです。

この日の演習については、読売新聞でシナリオの説明があります。
敵から離島奪還の想定…自衛隊・米軍が共同訓練 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)




自衛隊はでませんが、ドーンブリッツ参加国のカナダ・ニュージーランド軍と米海兵隊の演習。戦車を交えた市街戦訓練のようです。



ざっとドーンブリッツ関連の動画をまとめてみましたが、結構ありますね。
アメリカ側の映像は、先にも書いたとおりパブリックドメインになっている可能性が高いので、たくさん動画が転載されていて、本当の配信先が見つからなかったりしましたが……。

日本国内の演習でも、このくらいオープンに行われると面白いんですがどうでしょうか。



おまけ

Marines land Osprey on Japanese ship, a first Page 1 of 3 | UTSanDiego.com より
ひゅうがに着艦するCH-47Jチヌークの吹き下ろしを喰らうカメラマン達。
おなかがすごい。

2013年6月18日火曜日

耳をすませば ~レーダーのドップラー音~

ジブリ新作映画「風立ちぬ」公開を記念して、7月5日に金曜ロードショーで「耳をすませば」やるらしいですね。今回の放映で、果たして何人が絶望してあの世に旅立つんでしょうか……。

耳をすませば放送後の視聴者(アンサイクロペディアより)

さて本題。
レーダーというと、現在は軍だけでなく、航空管制や海洋航行、天気予報にも欠かせない電子機材ですが、陸上物体を探知するレーダーも空や海のものと比べて認知度は低いものの存在します。

今回は認知度の低い陸上レーダーの、更に認知度の低い探知法についてご紹介しようと思います。



レーダーの表示法


レーダーは電波を発振し、物体に反射して返って来た電波を測定することで、物体の方位や距離を計測する装置です。レーダーの種類は様々あれど、これは共通しています。

そして、目標がどこにあるかについて、表示する方法もいくつかあります。
有名なのが、レーダーと聞いて思い浮かべるのが多い方が多いであろうPPIスコープ方式です。

PPIスコープ(Wikipediaより)

上図のように、円形の表示器に回転する走査線のイメージが、映画などでよく知られていると思います。これはPlan position indicator(平面位置表示器:PPI)スコープ方式と呼ばれるもので、目標への方位・距離が一目で分かる優れた方式です。

また、走査線が360度回転して走査するPPI方式の他に、走査線がx,y軸を走査するラスタースキャン方式も存在します。

これらの一目で目標の方位・距離が分かる表示方式になるまでは、Aスコープと呼ばれる方式が使われていました。これは、心電図と同じようなオシロスコープの表示で、X軸は反射波が帰ってくる時間、Y軸は反射波の強さを表し、Y軸の強さから目標の方位を、X軸の時間で目標との距離を測っていました。

このAスコープについては、日本海軍の電測兵として徴用されていた方が、個人サイトで図表含め、詳しく書かれていおりますのでぜひご覧ください。(リンク:暗天南

さてこのAスコープ、波形を見て目標を探すわけですから、直感的に位置が分かるPPIと比べてかなり面倒ですね。第二次世界大戦中でも、PPI方式のレーダーは米英が先行して開発しており、日本では実戦配備されることはありませんでした。



表示せずに“聴く”レーダー


ここまでレーダーの表示法をかいつまんで説明しましたが、敵の位置を表示しないレーダーも存在します。
82式地上レーダー装置(自衛隊福岡地方協力本部サイトより)

陸上自衛隊で配備されている82式地上レーダー装置JPPS-P10(“地上レーダー装置2号”に改名)がそれです。

対空・対水上レーダーや航空機搭載の地上レーダーと異なり、地上設置型の地上レーダーは戦場監視的な意味合いが強く、ミサイルを照準・誘導することもないので高い精度は要求されません。

敵のおおよその位置と移動速度が判明すればいいので、PPI等の2次元表示装置も無く、デジタル表示で目標の方位角、距離が表示されます。最大探知距離は、大型車両は10キロ、中小型車輌が8キロ、人員が5キロとされています。

82式地上レーダー装置は、数値による表示の他にも探知手段があります。
それは音です。

82式地上レーダー装置は、パルス・ドップラー・レーダーです。
パルス・ドップラー・レーダーとは、反射波の波長の変化を測定して、目標の位置だけでなく速度も測定でき、航空レーダーや気象レーダーに使われるレーダー方式です。

反射波の波長の変化と言うとややこしいですが、道路沿いを歩いている時に緊急車両が通った時を思い浮かべて頂ければわかりやすいと思います。
近づいてくる救急車のサイレン音は甲高く聴こえ、遠ざかる時のサイレン音は低く聴こえる現象(ドップラー効果)を、音ではなく電波で利用したのがドップラーレーダーです。
気象用ドップラーレーダー(気象庁サイトより)

上の画像は気象用ドップラーレーダーの仕組みですが、地上レーダーと仕組みは同じです。
近づく物体、遠ざかる物体の反射波から、その物体の移動速度を割り出しています。

このドップラー波を可聴域の音に変換したものを、82式地上レーダー装置では観測に利用しています。相手の距離や方位は表示で分かりますが、速度は音から判断します。
そのドップラー音の例を、映像としてニコ動、YouTubeにアップしてみました。





非常に録音状態がよくないですが、移動する物体や速度によって、音が全然違うのがわかると思います。
レーダー表示部の距離・方位角と合わせ、この音を聴いて補完すること、目標の動きを探るわけです。

この82式地上レーダー装置ですが、現在は地上レーダー装置2号改JPPS-P24が後継として更新されつつあります。
新型は表示・制御部がノートパソコンになっており、最大20目標の自動追尾が可能になりました。
82式地上レーダー装置は単目標の探知しか出来なかったので、音による探知が出来たのですが、新型では廃されているようです。

かつては空も聴音機で探していた時代がありましたが、レーダーの普及とともに廃れていきました。

聴音機と昭和天皇

地上用レーダーは空・海と比べて歴史が浅く、クラッターなどの制約も多いので、空・海と比べれば機能的には遅れたところがあるのですが、あともう少しで音を頼りにするのも終わりになりそうです。

【関連書籍】


2013年6月10日月曜日

平成25年度調達予定品目を読む

防衛省装備施設本部のサイトにて、調達予定品目(中央調達分)が公開されました。

調達予定品目(中央調達分) | 装備施設本部調達情報(装備)|装備品に関する情報|防衛省装備施設本部

とどのつまり、平成25年度に調達する予定の装備品リストのことで、海外製品の輸入など、今まで知られていなかった装備がリストアップされていたりします。
めぼしいとこを見て行きましょうか。

リモートウェポンステーション(機動戦闘車用)

開発中の機動戦闘車に搭載するリモートウェポンシステム(RWS)だそうです。
機動戦闘車に標準で付属するのか、オプション扱いなのかは不明ですが、気になるところです。
輸入調達課品目でないので、国産又はライセンス生産でしょうか。

潜水艦魚雷防御システム発射装置

これ、新しいものかどうかは自身が無いんですが、去年の調達を探しても見当たりませんでした。
あきづき型から搭載されている投射型ジャマーは、「投射型静止式ジャマー1型」という名称ですので、それとは違うようですが、研究開発されていた魚雷防御システムは、水上艦・潜水艦共用技術でしたので、「投射型静止式ジャマー」の潜水艦搭載型なのかもしれません。

新除染セット(地域等除染ユニット)

平成23年度から開発が始まった新除染セットの試作品ですね。
433 新除染セット - 防衛省

この装備は、これまでの除染車や除染装置の後継装備で、人員から機材、地域の除染をユニット式に構成した装備のようです。除染対象に応じて、共通ユニットに各ユニットを組み合わせて使うとされています。

装輪155mmりゅう弾砲(その1)

技術研究本部に納入される一次試作品でしょうか。これは武器と弾火薬調達に確認できるので、砲システムから弾まで試験用に調達するようですね。

多機能レーダOPY-1

これは興味深いです。OPY-1。恐らく、平成25年度計画護衛艦に搭載される対空・対水上共用の多機能レーダーです。FCS-3の発展形と見られ、「FCS-3なんちゃら」という型式が付くんじゃないかと言われていましたが、OPY-1になったようです。

新特殊小銃用亜音速弾

ファッ!?
新特殊小銃で亜音速弾なんて、完全に消音銃臭いですね。
亜音速弾が標準である特殊用途の銃って、ロシアのVSSシリーズくらいしか知らないんですが、欧米にもあるんでしょうか。もし、ロシア製購入だったらすごい。


とりあえず、気になった調達予定品目の簡単にご紹介をしてみました。
気になるものを見つけたら、 逐次ご報告します。

※追加

新艦対艦誘導弾(その1)

見落としてました。新地対艦誘導弾です。12式地対艦誘導弾の艦載型で、コンポーネントを共通化しつつ、射程の延伸、目標情報の更新などの新機能を付加したものです。
試作の第一弾のようですね。

2013年6月6日木曜日

「人間対戦車 シリア内戦解説動画」での使用動画について

ニコ動とYouTubeにシリア戦動画第2弾をアップしました。


これに合わせ、ブログの方でも、動画に引用した動画をご紹介したいと思います。


RPGの後方噴射をモロに食わうカメラマンその1。



RPG-29を室内でぶっ放すマン。
前半部はRPGの組み立てと装填などを行うので、興味深い。
なお、55秒以降に引用した発射シーンがあるが、それ以後の編集はドリフ並におもろい。多分、この部分はヤラセ。


RPGの後方噴射を超至近距離で頭に食らった人の動画。
悲惨としか言い様がないが、無事だろうか。


RPG命中させたて大喜びで叫んだら、砲身がこっち向いたタマヒュン動画。
前にも紹介しましたが、これこわい。


掃除のオッチャンがRPGを撃つ、ある意味内戦を象徴する衝撃的な動画。

シリア政府軍戦車兵へのインタビュー動画。
YouTubeで見ると、ロシア語字幕が既に入力されており、それをグーグル翻訳で日本語字幕表示できるのでおすすめ。3割ほど意味は通じる。


RPG-29の装填から発射までのシークエンスが分かる。
しかし、長いよなあ。



前半はGoPro動画、後半はT-72の改造部分を詳細に映してくれる。細かいディテールを見るならこれ。




上と同じく、T-72改造のディテールがよく分かる動画。



戦車と目と目が合う動画。好きだとは気づかない。しかも何度も撃ってくる。こわい。




自由シリア軍側の歩兵と市街戦(住宅地)、塹壕陣地の様子が分かります。3分20秒あたりから、戦車がぬめっとコンニチワする恐怖。




ちょっとアンタ頭おかしいんじゃないですか!?と言いたくなる動画。
T-72に至近距離から小銃(G3くさい)を打ち込んで、機銃弾倉を破壊する。
これ、戦車が無視しているのか、気づいていないのか、ヤラセなのか、それとも後にビデオだけ回収されたのか不明。


http://www.liveleak.com/view?i=9bd_1366890561

以前ツイッターで話題になった動画。閲覧注意な上、直リンできないのでリンクのみ。




戦車と歩兵の共同の一端が分かります。3分20秒あたりから、負傷者と見られる人を装甲車に乗せています。


しかし、ろくな動画がありませんね。捕虜虐待の動画も普通に上がっているし、これが2年も続くドロドロ内戦なんだなと感じさせます。
ユーゴ紛争の頃にYouTubeがあったなら、紛争の悲惨さがもっと早く伝わったのかもしれませんが、これほどYouTubeにシリアの惨状が腐るほどアップロードされてても、 特に気にもされていないのを見ると、変わらなかったかもなと陰鬱な予感しかしません。

2013年6月2日日曜日

近年の自衛隊誘致運動をした自治体事例をまとめてみた

ツイッターでは告知したんですが、このブログとは別に、軍事関連ニュースのまとめサイトを作ってみまちた。

んで、 そこで先日取り上げたニュース2件。

室蘭市、自衛隊施設誘致を要望
室蘭港防災拠点目指し自衛隊施設誘致をきょう中央要望 室蘭民報ニュース
 室蘭港の防災輸送拠点化を目指す室蘭地域自衛隊施設等誘致期成会(栗林和徳会長)はきょう30日、自民党国会議員への要望活動を行う。市と市議会、期成会の連名で要望書を提出し、災害時の輸送力強化を訴える。

奄美大島南端、瀬戸内町で自衛隊誘致運動
奄美・瀬戸内町が自衛隊誘致 島嶼防衛強化方針受け - MSN産経ニュース

鹿児島県の奄美大島南端に位置する瀬戸内町の房克臣(ふさ・かつおみ)町長らは31日、防衛省で佐藤正久防衛政務官と会談し、同町への陸上自衛隊誘致と、既存の海上自衛隊奄美基地分遣隊の拡充を要請した。
北海道の室蘭市、鹿児島の瀬戸内町と立て続けに自衛隊誘致要請が防衛省に行われました。
ここのところ、自衛隊の誘致を目指す自治体が多いようですが、その数や内容いまいち把握できてなかったので、2000年以降にあった地方自治体の自衛隊誘致運動をまとめてみました。



6市町村が誘致合戦した普通科連隊駐屯地

2000年前後以降に自衛隊誘致活動を行った自治体事例(与那国除く)


まず、近年で一番大きな誘致運動が繰り広げられたのは、四国における第14旅団編成時の誘致運動が挙げられます。これは、それまで四国に配置さ れていた陸上自衛隊第2混成団が、第14旅団として改編されるのに伴うもので、駐屯地の新設も含めた大規模な公共事業と、計2000名の駐留が想定されてい たために、四国の各自治体がこぞって誘致合戦を繰り広げました。

誘致合戦の結果として、普通科連隊は高知県香我美町(現・香南市)、また施設部隊の駐屯先は徳島県那賀川町(現・阿南市)に決定し、それぞれ高知駐屯地(香我美町にあった旧高知駐屯地から移設・拡張)、徳島駐屯地が新設されることとなりました。

しかし、この駐屯地誘致は、あくまで防衛庁(当時)・自衛隊の方針として、既に自衛隊の再編が決まっている中での誘致でした。
中には、防衛省・自衛隊の意向とは関係なしに、地元側から自衛隊に誘致を働きかけている例が見受けられます。



ヤンデレ的自衛隊誘致

少子化と雇用難の時代、地方はどこも厳しいのか、自衛隊誘致の話がどんどん増えてます。

沖縄県伊良部町での下地島空港は、元々民航パイロットの訓練用だったのですが、コストカットなどの要因からその用途に使われなくなった空港で、自衛隊や在日米軍利用の話が浮かんでは消える空港です。
今現在、伊良部町は宮古島市に合併されましたが、伊良部町は自衛隊誘致で宮古島市への吸収を回避しようとしていたり、普天間移設での候補に上がったりと、政治の舞台になることが多いです。

また、財政破綻した夕張市では、夕張商議所が自衛隊訓練施設を誘致しようとしていましたが、これも自衛隊の意向は抜きで、とにかく現地振興策になるように手当たり次第提言していた感があります。

秋田県男鹿市では振興策としての基地誘致の意志が顕著で、誘致を報じた新聞記事にはこんあこと書いてあります。

「海自誘致、仕事を」男鹿の住民ら署名活動、市議も大半賛同 街の活性化期待/秋田県

 (前略)船川港は、ジャパンエナジーの旧船川製油所が97年に原油処理を停止し、貨物取扱量が激減。頼みの公共事業も減るばかり。男鹿に呼べるものと考え、海上自衛隊の基地しか思いつかなかった。
 さっそく、各町内会長や知人を訪ね歩き、署名集めを始めた。男鹿市だけでなく、潟上市、秋田市など、4年かけて集めた署名は2千人を超えた。
 高橋さんは父親を、戦争で失っている。京谷さんも、秋田市の土崎空襲で焼夷弾が燃え上がるのを防空壕から見たのを覚えている。
 でも、「自衛隊を呼ぶほか思いつかない」と口をそろえる。具体的な基地像があるわけではないが、港の浚渫(しゅんせつ)工事や官舎の建設をはじめ、隊員や家族分の人口増や消費拡大に期待を寄せる。(中略)
 しかし、防衛省は朝日新聞の取材に「現在、船川港に海自基地を新設する計画は有していない」。国も財政状況が厳しく、基地の統廃合、縮小が求められる状況で、基地の新設は厳しい。日本海側では、青森・大湊、京都・舞鶴、長崎・佐世保に基地があり、新設の必要性が低い、という。
 佐藤一誠市長は「市としても情報収集はした。皆さんが男鹿を思う気持ちで動いてくださっているのだと思うが、計画が無いのでどうしようもない」と話す。
 おこし会では「計画は無くても、男鹿には基地が必要だ。運動を続けていく」(後略)。
朝日新聞 2008年5月6日 朝刊(秋田版)

気の毒だけど、これはアカン。絶対来るわけ無いやろ。

突然、目の前に、魅力に欠ける異性が現れて一方的に求婚してきても、逃げるっしょ? コワイっしょ? ヤンデレやん。 
一方的な愛が重い。

こんな感じで、市長が思いつきで言っただけだろ的な誘致や、この表に記載してないけど一市議が訴えているだけのものまで、かなり多く見られます。自衛隊を金蔓としか見做してねー。ありがた迷惑。

一方、長崎県佐世保市は長らく自衛隊や米軍との付き合いもあるせいか、自衛隊の事情を見る目があるようです。自衛隊の潜水艦増勢の方針を見越して、潜水艦拠点として米軍LCAC駐機場跡地を利用できないかとアピールかけてます。自衛隊側はまだなんとも言ってないようですが、ひょっとしたら、誘致が実現するかもしれません。

佐世保市を見習って、自衛隊誘致したい自治体はマーケティングきちんとした方がええですよ、マジで。



沖縄復帰時点から自衛隊誘致してた与那国島

さて、最近「迷惑料10億円」騒動でも話題になった与那国島です。

この与那国島、昨今の急激な過疎により自衛隊誘致をする、みたいな報道がなされていますが、実は1973年の沖縄の日本復帰の年に、自衛隊誘致を町議会で決議していて、誘致は最近始まったことじゃないのです。

時勢もあり、誘致から40年を経て自衛隊も腰を上げることになりましたが、2015年までに配備を終えたいようですが、島内の対立や用地交渉等で当面揉めそうで、これからも一波乱ありそうです。

それと、「迷惑料」は撤回しましたが、さすがに40年前から誘致しといて迷惑料要求すんのって、いくら財政が苦しいからってどうなんでしょうね。
与那国が揉めたら、他の島が手を上げそうだけど、どうなるやら。



実は昔からあった自衛隊誘致

さて、少子化や雇用難で自衛隊誘致したい自治体が増えていると書きましたが、実は結構昔から自衛隊誘致運動を行った自治体は多く、実現した駐屯地も存在します。

富山県砺波市にある富山駐屯地は、地元の誘致活動の末に実現した例の一つです。

いまでこそ砺波市は富山県でも有数の自治体ですが、1950年代には特に産業もなく、冬季は雪に閉ざされる地域があるような辺鄙な場所でした。
砺波市は地域振興のため、1955年から誘致活動を始め、中央での陳情と日本海側の防衛の不備を中央で説いてまわったことが実り、1961年に施設部隊駐屯が決まりました。

当初あった反対の声も、記録的な積雪となった1963年の三八豪雪において、施設部隊が除雪活動に尽力したことによって少なくなったそうです。
また、2004年まで施設部隊が地域の工事事業に協力するなどの活動もあり、その後の地域発展に貢献するなど、自治体による自衛隊誘致の成功例と言えるでしょう。

富山県が自衛隊配備の空白地域だったこと、ソ連の侵攻予想地点の一つだった日本海側だったこと、砺波市が富山市などの市街地に近い位置だった点などから、自衛隊も駐屯を決めたのだと思いますが、この点を理解して中央に陳情し続けた砺波市側の誘致活動が秀逸だったと言えるでしょう。

ちなみに、誘致活動を行った市企画室職員(後に市長)は、旧日本軍で工兵だったそうで、そういった点でも施設部隊誘致が地域に利することを理解していたのだと思います。


先ほど挙げた佐世保市の事例もそうですが、自衛隊誘致を考えている自治体は、一方的に自衛隊に病んだラブコール送るより、自衛隊が何を考えているかを理解して、自衛隊が魅力的に思う点を訴えていかないと来るわけねえべさ。 


2013年6月1日土曜日

今更「自衛隊はサリンを製造していた」とか“スクープ”しちゃう、週刊金曜日の情弱っぷり

なんか、起きてツイッターのTL確認したら、こんな記事の話題があったんすよ。


元自衛官が「内部文書」元に証言、「私は自衛隊で毒ガスサリンの製造に関わっていた」(1/5) (週刊金曜日) - Yahoo!ニュース
 世界を揺るがした地下鉄サリン事件より数十年も前から、陸上自衛隊がサリンの製造をしていたことが複数の資料と証言で明らかになった。サリンだけではない。VX、タブンといった猛毒の殺人ガスも……。非核三原則と同様、日本政府は毒ガスについても「持たず、作らず、持ち込ませず」などと表明していたが、自衛隊によるサリン製造が事実なら、毒ガスをめぐる戦後の歴史が塗り替えられる可能性がある。陸自・化学学校に所属していたという元自衛官の証言から連載を始める。(本誌編集部/片岡伸行、5月17日号)


わぁい週刊金曜日。どらごな週刊金曜日大好き(電波浴的意味で)。

なんというか、週刊金曜日もよほどネタ切れなのか、こんな賞味期限が10年以上過ぎたネタをスクープとして持ってきてるあたり、末期的状況を自分から吐露しているみたいなもんですが、まあそれはさておいて、「戦後の歴史が塗り替えられる」ほどの話なんでしょうか。

記事にはこんなことも書かれています。


しかし、陸上自衛隊もこのサリンを開発・製造していた(いる)と報じたメディアは当時なかった。当時のみならず現在もなお、自衛隊がサリンなどの毒ガスを製造していることは知られていない。化学学校の活動自体が闇に包まれている。


えー?
自衛隊が過去に研究用にサリン製造していたことを報じたメディア一覧を、鼻くそほじりながらPCの前から一歩も動かずに30分ほどでまとめてみました。


自衛隊のサリン製造を過去報じていたマスコミ報道一覧


毎日新聞 1995年3月29日

 山梨県上九一色(かみくいしき)村にあるオウム真理教の施設を捜索している搜査当局は二十八日までに、押収した薬品を使って、サリン製造実験を近く行うことを決めた。施設内の薬品だけでサリン生成が可能であることを立証し、殺人予備の容疑を固めたいとしている。実験は、科学警察研究所を主体に、自衛隊化学学校の応援を得て行われる見通し。
オウムがサリン作ったことを実証するために、押収した薬物からサリン製造実験。


毎日新聞 1995年3月31日

 防衛庁によると、自衛隊は化学兵器による攻撃への対処策として、化学防護を研究し、装備も開発している。特に隊員が装備するガスマスクや化学防護服の研究開発のため、実験室レベルでサリンなどの神経ガスを年間数十グラム単位でつくり、マスクや防護服の耐久テストに使用してきた。しかし、化学兵器としての大量・高純度のサリンなどガス製造の経験やノウハウは保有していない。

週刊誌FOCUS 1995年7月5日

初公開された「陸上自衛隊化学学校」 サリン、ソマンも作っていた組織の素顔 ※オウム騒動で、表舞台に登場。第101化学防護隊と化学学校が初公開
別に化学学校も闇に包まれていなかった。


読売新聞 2005年6月6日 夕刊

 その約30年前の1964年から、陸自が研究用にサリンを製造していた事実は、あまり知られていない。
 “自衛隊アレルギー”が強かった時代。「自衛隊と毒ガス」の関係は国会で追及された。列国の軍が開発を競った猛毒の実物を使った毒ガスマスクの国産化などの研究は、世間の批判を恐れ、秘密にされた。
 「国会を騒がせる化学職種なんかつぶしてしまえ」。陸上幕僚長の一声で、陸幕化学課は70年代、化学班に格下げされた。その後、化学室になったが、陸自に14あった職種の中で、化学は約400人の最小職種に据え置かれた。
 山里さんが警察庁幹部に頼まれ、水面下で捜査協力したのは松本サリン事件が起きた94年夏。現場で検出した試料のデータを実物と比べ、サリンと断定できたのは化学学校だけだった。
 95年1月には警察から山梨県上九一色村の教団施設の空撮写真をこっそり見せられ、「これが製造現場」と助言した建物は、後にサリン工場と判明。施設の一斉捜索では、警察の機動隊が踏み込む前に、陸自の専門家2人が安全確認した。
 あれから10年。化学職種は約1000人に増員された。「虫けらみたいな存在だった化学職種が、サリン事件で国民の役に立てた」。山里さんはそう思う。
普通に1964年からサリン製造していたことが書いてあった。週刊金曜日は「そのサリンを、地下鉄サリン事件より二〇年以上も前に陸上自衛隊で製造していたという」と書いていたが、正しくは30年以上前だったという。


読売新聞 2010年6月7日 夕刊

 4月中旬、さいたま市の陸上自衛隊中央特殊武器防護隊の訓練に参加した。強毒のサリンや炭疽(たんそ)菌など化学・生物兵器を使った無差別テロの被害から市民を守るのが任務だが、15年前、地下鉄サリン事件が起きるまで、部隊の名前も任務も知られることはなかった。
 「それどころか、国会では化学兵器製造する恐ろしい部隊のようにも言われ、その度に悔しい思いをしてきた」と、部隊幹部の菱沼和則2佐(51)は振り返る。

やー。いっぱい出て来ましたね。安楽椅子探偵で30分調べただけですよ。
こんなネットで分かることだけで、「毒ガスをめぐる戦後の歴史が塗り替えられる可能性がある」とか書いちゃう週刊金曜日さん、パネエ。

で、読売新聞の比較的新しい方の記事にも書いてありますが、シミュレーション技術も未発達の時代に、毒物の実物無しにどうやって防護性能を担保した装備開発や運用研究ができるんでしょうか。こういう研究があったからこそ、地下鉄サリン事件や東日本大震災の原発対応もできたはずなんですが。

しかし、こんな私みたいなトーシロが30分調べただけで違うと分かる程度のクオリティの低いスクープ記事出して週刊金曜日も何がしたいんでしょうか。
こんな記事書いた情弱ライターはとっとと首斬るのがよろしいかと思われますが、あ、これ書いた片岡伸行って副編集長だった……(哀れみの目)。

結論:廃刊されたほうがよろしいかと。