2013年8月25日日曜日

自衛隊に海兵隊機能を持たせる前に、そもそも海兵隊ってなんなのさ?<前編>

最近、自衛隊に「海兵隊機能」を持たせる、という報道が相次いでなされています。

朝日新聞デジタル:自衛隊に海兵隊機能 新防衛大綱の中間報告 - 政治

自衛隊に海兵隊機能、無人機も導入へ 防衛大綱中間報告 - MSN産経ニュース

報道では海兵隊機能について、V-22オスプレイや水陸両用車の配備によって、離島奪還のための水陸両用作戦機能を強化することと説明しているようです。ですが、装備などのハードウェア面のみで海兵隊機能と言うのは、些かの違和感があります。

今回は、自衛隊が範としようとしているアメリカ海兵隊から、「海兵隊機能」とは何なのかについて、考えて行きたいと思います。

ドーンブリッツ2013で海兵隊員と打ち合わせを行う自衛隊員(海兵隊サイトより)

第4の軍


まず、アメリカ海兵隊とはどのような組織なのでしょうか。海兵隊は海軍に属する組織だと思われがちですが、海軍からは法的に独立した組織であり(調達など、海軍が行う業務もありますが)、陸海空軍に続く「第4の軍」として機能しています。

現在の海兵隊は陸戦要員となる海兵隊員に加え、戦車、航空機などを自軍で保有しており、海兵隊のみで陸海空軍の機能を備える自己完結性と緊急展開能力がその特徴となっております。しかし、海兵隊が現在に近い形になったのは歴史的に見れば第二次大戦の前後からで、海兵隊は誕生からの長い間、海軍と陸軍の間でその存在意義が問われていた存在でした。

1775年に誕生したアメリカ海兵隊は、海軍艦艇内の規律を保つ警察要員、または上陸時の警護要員としての役割が与えられており、ペリーの浦賀来航時にも200名の海兵隊員が護衛として上陸しています。植民地獲得競争の時代には、植民地における米国人の保護や海賊退治などが主任務で、戦争に海兵隊が大々的に参加するようになったのは第一次大戦になってからです。
第一次大戦でドイツ軍がパリに迫った際、陸軍の補助として参戦していたアメリカ海兵隊が、ベローの森にてドイツ軍の猛攻を防ぎきった事で海兵隊は賞賛されます。しかし、陸上で陸軍と変わらない戦闘をするならば、それを海兵隊がやる必要性はありません。第一次大戦後の軍縮では、海兵隊は大きく削減され、陸軍との予算を巡る争いの中、海兵隊の存続を危ぶむ声が海兵隊内部から出ました。



新たな使命の創造


第一次大戦後、海兵隊は自身の存在意義、新たな任務を見出します。第一次大戦の勝利により、ドイツから南洋諸島を獲得した日本が、太平洋におけるアメリカの新たな脅威となり、将来の日本との戦争に備えたオレンジ計画が準備されます。その策定の中、海兵隊のエリス少佐が、太平洋に点在する日本軍の拠点を順次奪取し、島嶼伝いに直接日本本土を叩く方針を示します。この方針を実現する為の手段として考えられたのが「水陸両用作戦」で、海兵隊がその任を担うものとされました。海兵隊は陸軍にも海軍にも出来ない、水陸両用作戦という新たな任務にその存在意義を見出すことになり、その実効性は第二次大戦における日本との戦闘の中で証明される事となります。

第二次大戦後、海兵隊は水陸両用作戦にとどまらず、新たな任務を見出していきます。朝鮮戦争やベトナム戦争を経験し、船艇による上陸作戦のみならず、ヘリコプターを利用し紛争地に迅速に展開する即応軍として海兵隊は変化していきます。即応性を新たな存在意義とした海兵隊は、「アメリカの911(日本の110番に相当する緊急通報番号)フォース」と呼ばれるまでに至っています。

このように自身の存在意義を問われ続けてきた海兵隊は、自身を絶えず革新することで存在意義を見出していく組織文化を持っており、このことをして「海兵隊は使命を創造する」と評価されています。


<続くよ>


【関連書籍】





2013年8月24日土曜日

2013年度総火演の予行に行ってきました

取り急ぎ動画をアップしました。





【悲惨なことになっている動画】




【トラブルその2】


2013年8月19日月曜日

Yahoo!ニュース個人に参加しました。

ツイッターでは既に告知しましたが、縁あってYahoo!ニュース個人に参加することになりました。


dragonerの記事一覧 - 個人 - Yahoo!ニュース


第一弾の記事は、以前ブログに書いた宮崎駿の「世界の艦船」投稿話です。


軍事オタク宮崎駿の少年時代(dragoner) - 個人 - Yahoo!ニュース


Yahoo!ニュース読者向けに分かりやすい表現(そしてお上品に)にリライトしておりますが、基本同じモノです。

軍事系ブロガーとしては、週刊オブイェクトのJSF氏に続く2人目となりますが(小泉氏や黒井氏が国際関係枠でいらっしゃいますが)、軍事以外でも狩猟などの分野でも書いてみたいと思っています。日本最大級のアクセス数を持つポータルサイトの軒先を貸して頂けることに、少々ビクつきつつも、気を引き締めて記事を提供していきたいと思います。 

今後の方針としては、Yahoo!ニュース個人には時事性の高い話題、ライトな話題を提供し、こちらではコアな話題について書くように差別化を考えております。同じ記事の軍事ビギナー向けリライトもあります。

今後共、当ブログとYahoo!ニュース個人の方も、併せてよろしくお願い致します。












ところで、自分で言うのもなんですが、この脈絡のない混成一個旅団はなんなんだ。


2013年8月6日火曜日

22DDH改めDDH183"いずも"進水!

本日2013年8月6日、ジャパンマリンユナイテッド磯子工場にて、建造されていた22DDHの進水式、命名式が行われ、「いずも」と命名され進水しました。

ドックから出る様子を撮影し、YouTubeとニコ動にアップしたのでご覧下さい。





2013年8月4日日曜日

まもなく進水する平成22年度護衛艦のおさらい

艦名バラしのトラブルがあった平成22年度ヘリコプター搭載護衛艦こと22DDHですが、まもなく進水式ですね。

今回は、進水式を迎えるのを前に、22DDHについて軽くおさらいをしてみたいと思います。

※2013/8/6追記。進水の様子を撮影し、YouTubeとニコニコ動画にアップしました!




22DDHイメージ 「我が国の防衛と予算」平成22年度より

■海上自衛隊史上最大の護衛艦

22DDHが注目される理由は、空母型の全通甲板を採用したことと、海上自衛隊史上最大の護衛艦になることが挙げられます。
全通甲板はこれまでも、おおすみ型、ひゅうが型で採用されてきており、22DDHはひゅうが型の拡大改良版とも言える存在ではありますが、基準排水量がひゅうが型の13,950トンから19,500トンと5,000トン以上も増加し、全長は51メートル長い248メートル、最大幅も5メートル長い38メートルと、これまでに無い大型化を果たしています。

22DDH、ひゅうが型、おおすみ型の比較図。@Gachar1203氏作成
22DDHはしらね型護衛艦を更新するものです。
しらね型護衛艦は、はるな型護衛艦(全艦退役済)の拡大改良型ですが、はるな型の基準排水量4,700トンに対し、しらね型5,200トンと、500トンの増加に過ぎなかった事を考えると、ひゅうが型と22DDHの規模の違いが異様であることが分かると思います。

そして、ひゅうが型と22DDHの違いは、船体の規模にだけに留まらず、武装、ひいては運用面でも相当な違いがあると考えられます。



■22DDHとひゅうが型の相違点

現時点で判明している、22DDHとひゅうが型、さらには更新されるしらね型の違いを表にまとめました。


ここで22DDHとひゅうが型を比べると、船体の規模だけでなく、武装も大きく違います。ひゅうが型がMK.41 VLSを備え、対空・対潜能力を備えているのに対し、22DDHは対空ミサイルは対艦ミサイル防護用のSeeRAMだけを備え、対潜水艦攻撃能力は艦自体には備わっていません。
武装面では、22DDHは個艦装備が大幅に防御専門装備に変更されています。

他方、22DDHはヘリの搭載容量がひゅうが型より3機増加した14機に。ひゅうが型には無かった輸送・補給能力が付与されており、艦の性格がひゅうが型とは随分違うことも分かります。

では、22DDHはどのような意図を持って、ひゅうが型と大きく性格の異なる艦になったのでしょうか。



■有事は対潜作戦、平時は輸送?

22DDHについての公式説明資料では、概ね下記の点が強調されています。
  • 国際平和協力活動
  • 大規模災害派遣
  • 対潜戦
このうち、国際平和協力活動や大規模災害派遣においては、輸送・補給能力が大きな役割を果たすのは言うまでもありません。22DDHの建造にあたるジャパンマリンユナイテッドの親会社、IHIのサイト内では、乗員数が便乗者含め約970名と記載されており、防衛省側が公表している乗員数約470名より500名多いです。このことから、乗員以外にも500名近い隊員を収容・宿泊できる能力が備わっていると考えられます。

また、対潜作戦の強化も謳われています。対魚雷防護用の装備の他、哨戒ヘリを7機搭載しており、これはひゅうが型の倍以上の数です。 個艦の攻撃手段が無いことから、護衛隊群の対潜作戦の中核として機能すると考えられ、僚艦防空能力のあるあきづき型護衛艦などとセットでの運用になるでしょう。

この搭載ヘリによる対潜能力の強化は、広範囲の浅い海域が広がる東シナ海での運用を念頭に置いたものと思われます。従来、自衛隊のASW(対潜作戦)は旧ソ連潜水艦を想定した、水深の深い海域や狭い海峡での活動に重点が置かれていましたが、近年は離島防衛や領土問題での対応が求められるようになったことからも、広範囲を捜索するためのヘリ運用能力の強化がなされたと考えられます。



■空母になるの?

22DDHを巡っては、規模の大きさから空母になるのではないか? とする意見が根強くあります。実際、海自が空母艦載機になるF-35B型を導入するという報道もありましたが、これは防衛大臣に否定されております。

FNNニュース:日本政府、艦載機として新たに「F-35B」導入を検討

軍事速報: 防衛相、F-35B導入検討を否定

しかし、現在防衛省では自衛隊の海兵隊化、水陸両用部隊の保有を検討しており、そのための手段としてオスプレイとは限定していませんが、ティルト・ローター機研究を始めていることを防衛大臣は述べています。

Q:中間報告では海兵隊的機能の充実という内容が盛り込まれていると思うのですけれども、今後米海兵隊が持っているオスプレイを日本の自衛隊に導入するというようなお考えはあるのでしょうか。
A:まず、水陸両用の機能を持つ部隊のことでありますが、これは日本の海洋権益は世界で6番目の広い面積を持っております。そしてそこには約 6,800の島があります。こういう島の防衛に関しては当然水陸両用の機能というのが今後必要だということで、今その整備については今回の中間報告の中で も触れて頂いているのだと思っております。当初から、オスプレイという名前ではなくて、いわゆるティルトローター機の研究については予算はつけておりま す。今後、その導入については、能力評価が出た段階で考えていくことになるのだと思っています。まだ決まっているわけではありません。


これを裏付けるように、先月アメリカで行われたドーンブリッツ演習において、オスプレイがひゅうがに耐熱版無しに着艦する様子が確認されており、22DDHも同様にオスプレイが着艦可能と考えられます。


ヘリコプター護衛艦「ひゅうが」の飛行甲板は耐熱処理済みか(JSF) - 個人 - Yahoo!ニュース


22DDHへの固定翼艦載機搭載による空母化の可否は、これまでの情報からは海のものとも山のものともつかないです。しかし、オスプレイなどのティルト・ローター機を配備する事は考慮に入れていると考えられます。このことは、500名の乗員以外の宿泊能力があることからも、22DDHが陸自隊員を載せ、ヘリやティルト・ローターなどでの強襲作戦で使うことを想定しているのではないでしょうか。

結論から言えば、空母化は戦闘機は分からない。しかし、ティルト・ローター機の運用は実現度が高いのではないかと思います。ただし、ひゅうが型と比して、エレベーターが大型化し、1基は外舷エレベータとなっていうることからも、ひゅうが型が運用できる機体よりもずっと大きな機体を運用できることは確かです。

22DDHは8月6日の進水式の後、艤装が施され、2014年度末に就役する見込みです。当面はヘリのみの搭載になりますが、今後はどうなるのでしょうか。



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