2013年6月18日火曜日

耳をすませば ~レーダーのドップラー音~

ジブリ新作映画「風立ちぬ」公開を記念して、7月5日に金曜ロードショーで「耳をすませば」やるらしいですね。今回の放映で、果たして何人が絶望してあの世に旅立つんでしょうか……。

耳をすませば放送後の視聴者(アンサイクロペディアより)

さて本題。
レーダーというと、現在は軍だけでなく、航空管制や海洋航行、天気予報にも欠かせない電子機材ですが、陸上物体を探知するレーダーも空や海のものと比べて認知度は低いものの存在します。

今回は認知度の低い陸上レーダーの、更に認知度の低い探知法についてご紹介しようと思います。



レーダーの表示法


レーダーは電波を発振し、物体に反射して返って来た電波を測定することで、物体の方位や距離を計測する装置です。レーダーの種類は様々あれど、これは共通しています。

そして、目標がどこにあるかについて、表示する方法もいくつかあります。
有名なのが、レーダーと聞いて思い浮かべるのが多い方が多いであろうPPIスコープ方式です。

PPIスコープ(Wikipediaより)

上図のように、円形の表示器に回転する走査線のイメージが、映画などでよく知られていると思います。これはPlan position indicator(平面位置表示器:PPI)スコープ方式と呼ばれるもので、目標への方位・距離が一目で分かる優れた方式です。

また、走査線が360度回転して走査するPPI方式の他に、走査線がx,y軸を走査するラスタースキャン方式も存在します。

これらの一目で目標の方位・距離が分かる表示方式になるまでは、Aスコープと呼ばれる方式が使われていました。これは、心電図と同じようなオシロスコープの表示で、X軸は反射波が帰ってくる時間、Y軸は反射波の強さを表し、Y軸の強さから目標の方位を、X軸の時間で目標との距離を測っていました。

このAスコープについては、日本海軍の電測兵として徴用されていた方が、個人サイトで図表含め、詳しく書かれていおりますのでぜひご覧ください。(リンク:暗天南

さてこのAスコープ、波形を見て目標を探すわけですから、直感的に位置が分かるPPIと比べてかなり面倒ですね。第二次世界大戦中でも、PPI方式のレーダーは米英が先行して開発しており、日本では実戦配備されることはありませんでした。



表示せずに“聴く”レーダー


ここまでレーダーの表示法をかいつまんで説明しましたが、敵の位置を表示しないレーダーも存在します。
82式地上レーダー装置(自衛隊福岡地方協力本部サイトより)

陸上自衛隊で配備されている82式地上レーダー装置JPPS-P10(“地上レーダー装置2号”に改名)がそれです。

対空・対水上レーダーや航空機搭載の地上レーダーと異なり、地上設置型の地上レーダーは戦場監視的な意味合いが強く、ミサイルを照準・誘導することもないので高い精度は要求されません。

敵のおおよその位置と移動速度が判明すればいいので、PPI等の2次元表示装置も無く、デジタル表示で目標の方位角、距離が表示されます。最大探知距離は、大型車両は10キロ、中小型車輌が8キロ、人員が5キロとされています。

82式地上レーダー装置は、数値による表示の他にも探知手段があります。
それは音です。

82式地上レーダー装置は、パルス・ドップラー・レーダーです。
パルス・ドップラー・レーダーとは、反射波の波長の変化を測定して、目標の位置だけでなく速度も測定でき、航空レーダーや気象レーダーに使われるレーダー方式です。

反射波の波長の変化と言うとややこしいですが、道路沿いを歩いている時に緊急車両が通った時を思い浮かべて頂ければわかりやすいと思います。
近づいてくる救急車のサイレン音は甲高く聴こえ、遠ざかる時のサイレン音は低く聴こえる現象(ドップラー効果)を、音ではなく電波で利用したのがドップラーレーダーです。
気象用ドップラーレーダー(気象庁サイトより)

上の画像は気象用ドップラーレーダーの仕組みですが、地上レーダーと仕組みは同じです。
近づく物体、遠ざかる物体の反射波から、その物体の移動速度を割り出しています。

このドップラー波を可聴域の音に変換したものを、82式地上レーダー装置では観測に利用しています。相手の距離や方位は表示で分かりますが、速度は音から判断します。
そのドップラー音の例を、映像としてニコ動、YouTubeにアップしてみました。





非常に録音状態がよくないですが、移動する物体や速度によって、音が全然違うのがわかると思います。
レーダー表示部の距離・方位角と合わせ、この音を聴いて補完すること、目標の動きを探るわけです。

この82式地上レーダー装置ですが、現在は地上レーダー装置2号改JPPS-P24が後継として更新されつつあります。
新型は表示・制御部がノートパソコンになっており、最大20目標の自動追尾が可能になりました。
82式地上レーダー装置は単目標の探知しか出来なかったので、音による探知が出来たのですが、新型では廃されているようです。

かつては空も聴音機で探していた時代がありましたが、レーダーの普及とともに廃れていきました。

聴音機と昭和天皇

地上用レーダーは空・海と比べて歴史が浅く、クラッターなどの制約も多いので、空・海と比べれば機能的には遅れたところがあるのですが、あともう少しで音を頼りにするのも終わりになりそうです。

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