2013年4月27日土曜日

10式戦車開発者によるトークショー@ニコニコ超会議2

本日、4月27日に行われましたニコニコ超会議2、自衛隊ブースでの「10式戦車開発者によるトークショー」を聞いて来ました。

会場の幕張メッセ内に10式戦車が持ち込まれ、10式戦車開発の主要メーカーである三菱重工業、日本製鋼所の方によるトークショーが行われました。語って頂いたのは以下の方々です。

三菱重工業株式会社 汎用機・特車事業本部
 特殊車両事業部 事業部長 織田 隆夫
 特殊車両技術部 部長 岡崎 隆
 特殊車両営業部 業務課長 門岡 平八

日鋼特機株式会社 広島事業所長 森本 一志
(敬称略) 

ニコニコ生放送でも流れましたが、永久的に映像を残したいと思い、私の方でも動画をアップしました。関係者以外で映っている方のプライバシー等の関係上、画質は落としてありますが(目の前の運営カメラマンが配信するニコニコ生放送でフツーに映ってたけどね……)、登壇者と音声は確認できるクオリティにしております。






ニコ動、YouTubeとも、今回は画質は同じです。

このトークショーについては、動画をご覧頂きたいのですが、特に興味を惹かれたのは、織田特車事業部長による、「あれ(総火演でのスラローム射撃)が変態機動なら、超変態機動ができる」という発言であったり、 この動画の後に行われた質疑応答(プライバシーの問題上カットしました)で、10式戦車に冷暖房があるとの発言が出たということですね。

たまたま昨夜、10式の冷暖房の有無について、自分が以下のようにツイートしたばかりでしたが、それを裏付ける形になったので嬉しいですね。



明日、28日の超会議2日目の自衛隊ブースでも、同様のトークショーが12:30から行われます。ご興味のある方は、自衛隊ブースにお越しいただくか、ニコニコ生放送でご覧になってはいかがでしょうか。

2013年4月26日金曜日

自衛隊における戦闘車両用ガスタービン研究

先日、自衛隊の車両用ガスタービンエンジン研究について呟いたところ、好評でしたのでブログ記事で詳しくまとめてみたいと思います。



「戦車用ガスタービンを考えるのは、頭がどうかしている人」

1955年、日本航空工業会(現・日本航空宇宙工業会)の招きにより、マサチューセッツ工科大学(MIT)ガスタービン研究所のE.S.テイラー教授が来日し、ジェットエンジンについての講演を行いました。この時の講演内容は、「ガスタービンおよびジェットエンジン」と題されて出版され、その巻末には質疑応答も収録されており、その中にこんなやり取りがあります。

質問:戦車用ガスタービンの米国における研究状況をお話し願いたい。
解答:見込みのない話である。――中略――戦車用ガスタービンを考えるのは、          頭がどうかしている人ではないかと思う

なんともまあ、辛辣な内容ですが、MITのガスタービンの権威が「頭がどうかしている」というほど、ガスタービンの戦闘車両への適用には問題が多かったのです。

ガスタービンの歴史を紐解くと、主機として搭載されるようになったのは、まずは航空機からで、次いで船舶と実用化され、現在ではそれぞれの分野で主要な位置を占める機関になりました。 しかし、車両用ガスタービンは現在も普及しておらず、自動車はレシプロかディーゼルエンジンが主流です。

戦闘車両も同様で、ガスタービンを搭載した戦闘車両で量産にこぎつけたのは、スウェーデンのStrv.103、ソ連のT-80、アメリカのM1エイブラムスですが、 Strv.103は通常はディーゼル機関で動き、ガスタービンは緊急時の出力増強用で、T-80はガスタービンのトラブルの多さからディーゼル機関搭載型 も製造され、M1もディーゼルに換装するという話はちょくちょく出てきており、技術的課題の大きさが窺われます。

戦闘車両でガスタービンが普及していないのは、比較的小出力の陸上車両には燃費効率向上に熱交換器が必要になることや、ガスタービンは燃焼に清浄な空気が求められる事が挙げられます。特に熱交換器は、M1戦車に搭載されているAGT1500の場合、エンジン容積の35%を占め、熱交換器によって小型が特徴のガスタービンの利点を損なわれていることが分かります。
 
それでも戦闘車両へのガスタービン搭載への試みが行われているのは、本来的には小型高出力であることや、騒音・振動の少なさ、使える燃料の種類が多い(ただし、これは最近のディーゼルでもできます) などの様々な利点があるからです。



自衛隊における研究


さて、我が国における戦闘車両ガスタービンの研究開発は、防衛庁技術研究本部第4研究所(現・陸上装備研究所)にて行われてきました。1969年には、川崎重工業(1967年にT53のライセンス生産権を取得)の協力を受け、M4A3戦車にUH-1ヘリ用のT53型ガスタービンエンジンを搭載した研究車両が作られました。M4シャーマンは派生車両がとにかく多い戦車ですが、ガスタービンエンジン搭載車両は世界的にも珍しいかもしれません。

この研究車両による試験の結果、熱交換器の耐久性向上が課題とされました。ガスタービンに求められる清浄な空気については、エアフィルターの有効性が確認され、その後の車両用ガスタービン研究の基礎的なデータが得られました。
これらの基礎的なデータ取得の後、1973年から1997年もの長期間に渡って車両用ガスタービンの研究が行われ、その間に製作された装軌実験車(MRV)では、アクティブ・サスペンションなどの新技術の実験車両として製作されましたが、ガスタービンエンジンも搭載されて試験が行われました。


装軌実験車(MRV) 技術研究本部50年史より


このように自衛隊でも長い間研究されている車両用ガスタービンですが、まだ装備化されたものはありません。先日の「10式戦車の試作車と量産車の違い、及び装甲カバーの中身について(後編)」で少々触れましたが、10式戦車には補助動力装置(APU)として単気筒ディーゼルが搭載されております。10式の開発時、APUにマイクロガスタービンが搭載されるのではないか? という憶測もありましたが、最終的にはディーゼルエンジンに落ち着いたようです。

ですが、自衛隊で今後ガスタービン搭載車両が出てくる可能性はまだ十二分にあると考えられます。近年、研究が活発に行われている電気駆動型戦闘車両では、電力源としてガスタービンは有力な選択肢だからです。

駆動にガスタービンの軸出力を用いる場合、ガスタービンは絶えず負荷の変動に晒され効率が低下します。しかし、電気駆動の場合は、ガスタービンは負荷変動の少ない発電機と直結できれば、小型化と高効率が期待できます。

研究が開始された60年代と変わって、今は日本のガスタービン技術も高度なものとなり、T53のライセンス生産から始まった川崎重工業のガスタービン製造も、自社で産業用から航空機用まで設計できるまでになりました。自衛隊の戦闘車両にもガスタービン搭載車が出るのも、遠い未来のことではなさそうです。

以上

2013年4月24日水曜日

権限パスワードがかかったPDFファイルのロックを、Macで外す方法

最近、論文のPDF化とOCR処理で、必要な論文を何処でもすぐに見つけられるようにしているのですが、インターネットで拾ったPDFファイルは、その結構な数が権限パスワードでロックされており、閲覧はできるけどOCR処理ができないので悩んでいました。

ググっても中々回答が得られなかったので、自己流で様々な方法で試したところ、 Macのプレビューで書き出す方法が、最も効率良く、複数のPDFファイルの権限パスワードを解除できました。

Macが必須となってしまう点では問題がありますが、最近はMacのシェアも上がっていますし、特にPDFを頻繁に集めるだろう学生のMac率は高いので、簡単に方法を記述したいと思います。


1. PDFファイルの確認権限パスを解除したいPDFファイルについて、権限を確認(画面はWindows)。


 

2. Mac上でパス解除したいPDFを同一フォルダに集め、"command + A"又はマウスドラッグで全選択し、プレビューで開く。





3.プレビューをサムネイル表示にし、左サムネイルで"command + A"で全選択し、クリックで「別名で書き出す」を選択。





4.書き出し設定では、フォーマットは「PDF」、フィルタは必要な場合除き不要、暗号化チェックボックスは外した状態で、出力フォルダを選択し、「保存」。



5.選択したPDFが再書き出しされます。

以上です。

書き出しにかかる時間は、1MB以下のPDFファイルを40ファイルを書きだした場合、30秒かかりませんでしたので、かなり効率的にパス解除ができました。

Windows上でPDFプリンタを使用するなどの方法を試しましたが、劣化やファイルサイズ増大、手間、処理速度に問題がありましたが、Macで標準で付いてくるプレビューを使用することで、劣化も抑えられた状態でファイルサイズも小さく、処理速度も早いというチート級の出来でした。権限パスで悩んでいる人は、試してみる価値があると思います。


2013年4月23日火曜日

『「自衛隊をウォッチする市民の会」をウォッチしてみた』を動画にしてみた

今週末のニコニコ超会議に日本共産党が出展するのを記念して、「自衛隊をウォッチする市民の会をウォッチしてみた」の動画版を作って、ニコ動とYouTubeにアップしてみるテスト。

動画はニコ動、YouTubeとも同じ内容ですが、例によってYouTubeの方が画質はいいはず。

ニコニコ超会議の日本共産党、何出展するんすかね……(震え声)。




2013年4月21日日曜日

総火演の動画を色々と

ものっそい遅れた感ありますが、ビデオファイル整理してたら大量の動画を発掘したので、ぼちぼちニコ動やYouTubeに上げていきます。同じの上げていたりしますが、YouTubeのが画質は綺麗です。






IED(即席爆発装置)のお話(後編)

前編からの続き


自己鍛造弾型IEDの登場


さて、前編で紹介したIEDですが、その当初は、人員や車両などの装甲を施されていないか軽装甲の車両を標的としておりました。しかし、米軍などでMRAP等のIED対策を意識した人員輸送用の装甲車の配備が進んでくると、今度は装甲貫徹能力と長い射程距離が備わったIEDが出始めました。

その一つが下の写真です。

自己鍛造弾型IED(Wikipediaより


このIEDは自己鍛造弾と呼ばれる仕組みを利用しています。自己鍛造弾とは、ゆるい逆円錐形の金属ライナーの後方で爆発が起こると、金属ライナーが弾丸状になって秒速3000メートルほどのスピードで飛翔する成形炸薬弾の一種で、成形炸薬弾としては長距離である数十メートルの有効射程を持っています。


自己鍛造弾の金属変形過程(Wikipediaより

この自己鍛造型IEDの厄介なところは、装甲車の装甲を貫徹する能力があるだけでなく、金属製鍋を金属ライナーに流用できる点が挙げられます。鍋は生活必需品であり、武器弾薬と違って規制や流通の阻止が難しいことです。




IEDの無力化対策


IED対策については、乗員の防護性を上げること、IEDを誤作動させること、IEDを無力化することなどが考えられています。

このうち、乗員の防護については、先に上げたMRAP等のIEDに特化した兵員輸送車両や、戦車・IFV等の重装甲が施された車両による防護か考えられます。しかしながら、この対策には非常にコストがかかると共に、先に上げた自己鍛造弾型IEDに対しては、効果が保証できない問題があります。


MRAP(Wikipediaより

自己鍛造弾型IEDについては、車両前方に熱板を取り付け、熱板にIEDが反応して誤作動させる手段があります。この手法では爆発は起きますが、自己鍛造弾は車両前方の熱板に命中しますので、車両への被害は抑えられるという利点があります。しかし、武装勢力側も熱板を考慮して、IEDの作動を遅らせたり、熱板の後方を狙うようにIEDを調整するなどの対策をとっており、イタチごっこの様相を見せています。

IEDの無力化についての研究で、現在最も盛んに行われているのは。マイクロ波を用いるものです。
マイクロ波によりIEDの爆破指令電波を妨害する、あるいはIEDに使われる電子回路を焼損又は論理的に混乱させることで、IEDを無力化するなどの手法が取られており、米海軍では味方システムの電子回路への影響が考えられ、マイクロ波の出力や人体への影響などの問題も存在しており、決定的な無力化手段はまだ生まれていないのが現状です。



外傷性脳損傷(TBI)


IEDの特徴的な点として、攻撃を受けた多くの兵士に外傷性脳損傷(TBI:Traumatic brain injury)と呼ばれる脳障害が見られることが挙げられます。TBIとは、外部からの衝撃によって脳全体に損傷が生じ、記憶障害、コミュニケーション能力の低下や四肢の麻痺が生じる障害のことです。日本でも交通事故被害者に見られますが、認知度が低いために気づいていない患者が多いとされています。

TBIの恐ろしいところは、装甲車両や防護服で破片などから守られても、車両横転や爆破の衝撃によって脳に損傷を受けるケースなどが存在することです。この場合、目立った外傷は無く、意識の混濁などが見られないこともあるために障害が見過ごされるケースが多いのです。
IEDが使われる以前の主要な脅威であった地雷は、手足の損傷が主だった被害でしたので障害の判別は容易でしたが、TBIは外見的に異常が見られない上、MRIでも診断が難しく、障害が見過ごされる事が多くあります。歩行困難のみならず、コミュニケーション能力の低下によって、患者の社会生活が困難になるなどの問題も生じています。

アフガニスタン・イラクでの米軍におけるTBIの患者は、2001年から2010年にかけて14万人に達しており、両戦争に派遣された米軍兵士の7%に相当するとされております。

この状況を受け、米軍では以下の方針を定めました。
  1. 爆発などで破壊された車両に乗っていた
  2. 爆発から50メートル以内にいた
  3. 頭部に直接的な衝撃を受けた
以上に該当する兵士に対しては、爆発後24時間は安静と新たな任務に入らないように義務付け、早期発見の為の問診を受けるなどの対策をとるようになりました。


IEDの恐ろしい点は、爆発威力が大きいために周囲の民間人への被害も大きい点です。ありあわせの材料で作れてしまうため、根本的な解決策として、不安定地域の一刻も早い秩序回復が求められます。

以上

2013年4月20日土曜日

IED(即席爆発装置)のお話(前編)

ボストンでの爆弾事件、なんだかややこしい展開を迎えていますね。
なんだか圧力鍋製の爆弾が使われてたようですが、この手のハンドメイド爆弾によるテロというのは、イラク戦争以後の戦争においても大きな問題となっており、即席爆発装置(IED:Improvised Explosive Device)と呼ばれ、かなりの問題になっております。
今回はこのIEDについて、概要から近代の戦争における意味までを考えてみたいと思います。



最も人を殺傷した兵器って何?

さて、 戦争で最も人を殺傷した兵器ってなんでしょうか? 敵をなぎ払う機関銃? 敵を蹂躙する戦車? なにもかも吹っ飛ばす航空機の爆弾? 
少なくとも、20世紀の戦争では火砲(大砲)による死傷者が圧倒的でした。例として、米軍の原因別戦死傷者の割合について見てみましょう。


米軍の原因別戦死傷者の推移を見ると、19世紀の南北戦争はほとんど小火器による死傷であったのに対し、1次対戦から朝鮮戦争にかけては7割近くが火砲による死傷でした。以前、ジェレミー・ブラック英エクスター大学教授の講演の中で(リンク:私による講演要旨ツイートまとめ)、「大砲は最も過小評価されている兵器」という言葉がありましたが、現実の数字はそれを裏付けています。戦車も航空機も、それ自身の戦果ではなく、他の兵科に機会を与える役目が大きかったのです。

ところが、20世紀でもベトナム戦争になると事情が変わってきます。小火器と地雷による死傷者が9割以上を占めるようになって来ました。 ベトナム戦争では、大規模な戦闘が少なかった反面、ジャングルでの小規模な銃撃戦が散発すると同時に、米軍の侵攻路への地雷の埋設による被害が大きかったのです。




実は有効な対策がある地雷

ベトナム戦争で大きな猛威を振るった地雷ですが、実は地雷に対する確実な対策がありまして、道路を舗装してしまえば、輸送路の地雷の脅威は一気に減少してしまいます。

ベトナムでインフラ工事を行う韓国軍模型

 上の写真は韓国の戦争記念館の展示模型なんですが、ベトナム戦争に参戦していた韓国軍が、現地住民の宣撫を兼ねて実施していたインフラ工事の様子です。道路の舗装化は、輸送効率の向上や現地住民の支持獲得といった面でも効果がありますが、地雷予防に対しても大変有用という、実に費用対効果に優れた事業です。自衛隊でもPKOなどで海外に行くと、だいたい道路工事事業が多いのもこういう理由かもしれません。



IEDの登場


ところが21世紀になってから、地雷や小火器に代わり、多くの死傷者数を出すことになる兵器が登場しました。それがIEDです。IEDは手っ取り早くWikipedia英語版で確認してみると、2003年から2011年におけるイラクでの有志連合軍の死者の64%がIEDによるものです。Wikipedia英語版におけるIEDの項目の充実から見ても、いかにIEDが米英で脅威と見られているかが分かります。

では、IEDってなんでしょうか。 一般的な意味では”即席”という名前が示す通り、ハンドメイドの簡単な爆弾、といった所が妥当だと思います。

防衛省技術研究本部製作のIEDレプリカ

上の写真は防衛省技術研究本部が展示用に作成したIEDレプリカですが、砲弾に簡単な電子基板と無線機又は携帯電話を取り付け、遠隔操作で起爆させます。イラクでは、旧イラク軍の武器弾薬が散逸したため、砲弾から製作したIEDがよく見られますが、手製の爆薬もあったりとその種類は様々です。




IEDの猛威については、YouTubeで検索すると大量に出てきます。通常、路肩に仕掛けられたIEDが、目標の車両が通ると、遠隔・または自律的に作動して爆発し、車両や人員を殺傷します。地雷と異なり、路肩や道路上に置かれるために舗装の意味がありません。対人地雷とは比較にならないほど爆発の威力が強いので、少々道路から離れておいても効果があり、うまく偽装すれば車上からは見つけにくいという点も特徴です。

また、路肩に置くIEDの他にも、自動車自体に爆薬をしかけた自動車爆弾型のIED(VBIED)もあり、遠隔操作による爆破から、自爆要員に運転させての自爆攻撃など様々な形態がありますが、共通しているのは普通の自動車なのか爆弾なのか、非常に判別が難しいという点にあると思います。

(後編に続く)

関連書籍

2013年4月16日火曜日

撮り鉄騒動から趣味人のマナー共有について考える

鉄道ファンと軍事オタ

周回遅れの話題もいいとこですが、撮り鉄のマナー問題、相変わらず続いてますね。





自分も自衛隊写真を撮っている身なので、こういったマナーは他人事ではないのですが、自分が経験した自衛隊イベントでの集団罵声は、雨の日の総合火力演習で前方が傘を差していた時くらいのものでした。これは純然たる座席有りのショーみたいなものですので、明らかにショーの邪魔となるマナー違反に対する罵声はまあ分かるのです(異論は認める)。傘閉じたらすぐ収まったし。

もっとも、自分は軍事オタク寄りの人間なので、軍オタに甘い事を言っているのかもしれない。ただ、過去に明らかに撮影に邪魔が入っても、現場に居合わせた軍オタは黙っていた例に出くわしているし、その様子を捉えた映像もあるのだ。



上の動画の45秒付近から、撮影に割り込んでくるオバチャン(軍オタではないだろう)が出てくるのだが、このオバチャンに邪魔された自分含む10名近くの軍オタは、不満を押し殺して黙って撮影している様子が映っている。これをもって軍オタはマナーが良いと主張するつもりはないが、それでもやっぱり撮影趣味者の中でも、撮り鉄のマナーの悪さは際立っていると思う。

しかし、趣味者界隈全般から見れば、ミリタリーと鉄道はかなり親和性が高いというか、似ているジャンルだろう。趣味界隈の書籍に強い書泉グランデにおいて、ミリタリーと鉄道本コーナーは長い間6階に集約されていた(最近、6階は鉄道のみになり、ミリタリーは5階に配置換えになったが……)。また、多くの書籍チェーン店でも、だいたいミリタリーと鉄道コーナーは隣か近い場所にあるのが普通だ。ミリタリーも鉄道も、写真撮影者が多いことでも共通している。そんな似た者同士であるはずの軍オタと鉄道ファンで、どうしてこんなに違うんだろうか。

 ここで、ジャンルごとのオタクの気質とかそういったものでなくて、客観的・数値的なデータから、趣味人のマナーや組織について考えていこう。

(補足だけど、Wikipediaを見ると、どうも「鉄オタ」という呼び方は「卑称・蔑称のうち最も卑下・軽蔑の意図がこもった呼称」らしいので、鉄道ファンとここでは書く。軍オタは自称でもさらりと使うのに)


趣味界の巨人。鉄道

カメラ撮影を含む趣味ジャンルの中で、最大勢力はどこだろうか。趣味コミュニティの規模を探るため、手っ取り早くmixiのコミュニティ数を検索してみた。
その結果がこの通り。






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軍事鉄道飛行機
.
mixi内関連コミュニティ数571274209


なにこれ怖い。

「鉄道」だけでは「銀河鉄道999」等のノイズが多いので、参考に「飛行機」を入れたんですが、文字通り桁違いの多さを誇ります。「自動車」は1666ありますが、半ば生活必需品であることを考えると、「鉄道」の多さが飛び抜けています。そして、Wikipediaの「鉄道雑誌の一覧」見ると、日本のみならず、21カ国の鉄道雑誌と更に国際誌がリストアップされていて圧巻ですよ。Wikipediaの「軍事関連の雑誌」カテゴリーは寂しい限りなのに!
前述の書泉グランデの6階は、鉄道ジャンル専用階になってますし、趣味界における鉄道ファンの多さを物語ります。

でも一つ気になることが。 こんなに大所帯なのに、この人達組織化されてないのん?



組織化されていない趣味

鉄道ファンがたくさんいる事分かったけど、この人達のコミュニティはどうなってんでしょう。先に挙げたmixiのコミュニティにしても、あまりに細分化されていて、統一的コミュニティが存在しているとも思えない。2chの趣味カテゴリ板では、鉄道総合、鉄道路線・車両、鉄道懐かし、鉄道(海外)、鉄道模型と鉄道関連だけで5つも掲示板が開設されており、趣味カテゴリー最大の勢力だが、同時に分裂しているとも言える。
鉄道関連の趣味団体には、1953年創設の鉄道友の会があるが、会員数は3300人ほどしかいない。鉄道ファン人口を考えると実に寂しい。
逆に目につくのが、高校・大学の鉄道サークルの多さだ。 ほとんどの高校・大学に鉄道研究会はあるし、ここが恐らくは多くの鉄道ファンが育っていくコミュニティだと思うんだけど、学内サークルは内輪の小規模団体でしかない。サークル内でのマナーやしきたりについての文化継承も、サークルにより大きく違ってくるだろう。この辺に問題の根がある気がしてならんのです。

ところで、カメラ撮影で鉄道に匹敵するか、それ以上の規模を持っている趣味ジャンルがあります。そのジャンルは、人の生活圏でもパチパチ写真を撮り、しかも決まった所にしかいない鉄道ファンと違い、何時どこに現れるのか分からない神出鬼没でありながら、悪質な問題行為の話は聞きません。カメラメーカーも鉄道ファンよりも、その趣味ジャンルを意識してマーケティングしています。
それは、野鳥観察趣味です。


日本最強の趣味団体

野鳥観察趣味というのは、日本の趣味界隈においてもかなり特殊です。商業発行されている雑誌はBILDER1誌のみ。雑誌がたった1誌無いので趣味者人口は少ないと思いきや、野鳥愛好者による日本野鳥の会は、90の支部と4万人の正会員、1万人のサポーターを抱える、日本の趣味団体でも大所帯です。
野鳥趣味の特殊性は、独自のネットワークを閉じられたサークルで構築してきた点です。いつどこに現れるか分からない希少な野鳥の発見情報を、インターネットが普及する前から迅速に伝達・共有するネットワークを築きあげてきました。これらの情報は信頼できる人間間でやりとりされており、軽はずみに不特定多数が閲覧できるネット上で、鳥がどこそこにいると書いた場合、その人には情報が来なくなることがあるそうです。
いつどこに来るのか、あらかじめ決っている鉄道趣味とは、かなり文化の異なる趣味領域です。

ここで野鳥趣味者の情報ネットワークについての実例を一つ。
ある日、長野に滞在していた時、野鳥の会会員の知人から八ヶ岳の滝にコマドリがいるという電話をもらいました。私はあまり野鳥趣味無いんですが、面白そうなので行ってみました。


ホントにいたよ。八ヶ岳の山ん中の滝に。野鳥趣味者でも滅多にお目にかかれない(らしい)コマドリ。おまけに三脚抱えた野鳥趣味者に3人もあったよ。山ん中で。

鉄道ファンと同じく撮影が重要なポジションにある野鳥趣味ですが、このようにいつどこに現れるか分からない野鳥を相手にしているので、鳥を逃がさないで撮影するようにかなりマナーに煩いとされており、情報の共有の可否にも気を配っています。雑誌が1誌しか無いのも、マナー等のプロトコール共有には有効なのだと思います。

野鳥趣味者の団体である日本野鳥の会は、1934年に中西悟堂、北原白秋らの文化人によって設立され、現在では国の環境政策にもコミットするまでの力ある団体です。現在の「原則可猟」を「原則禁猟」への転換を訴えているので、狩猟趣味者からは蛇蝎のごとく嫌われていますが、それだけ影響力のある団体なのは事実です。


趣味者のコミュニティ構築が大事なんでねえの? という話

前述のように、野鳥趣味者はどこでも撮影に出没しながらも、問題回避の術を趣味コミュニティが強いることで、撮り鉄のような悪質な問題は顕在化していません。
コミュニティによる規範の構築と加入趣味者への伝達という点で、野鳥趣味は先んじており、頭数は多いが各学校の鉄道サークルに分かれている鉄道趣味は、趣味人の統制という点で、非常にアナーキーな状況になってんじゃねえのかと思うのです。

じゃあ、解決手段はなによ、と言われるとキッツイのですが、鉄道ファンで問題意識を持っているのなら、普遍的な規範の確立と、それをベテランから新参に伝えるためのコミュニティ構築が大事なんじゃねえのか、という話だと思うのですよ。個人の規範なんてブレあるんだから(趣味者はなおさら)、趣味ジャンルで社会とどう折り合うのかの線引決めるべきなんじゃないかと。

軍事界隈でも統一されたコミュニティは無く、割とアナーキーなとこがあります。比較的情報源が限られているので、そこそこ規範的なものは共有されていると思うのですが、軍オタでも非常識な人を見かけるのもまた事実なので、そろそろ考えるべきなんじゃねえの、とも思うんですがいかがでしょうか。

以上

2013年4月15日月曜日

自衛隊を告発した「自衛隊をウォッチする市民の会」をウォッチしてみた

先週、軍事趣味者界隈で話題になったことですが、「自衛隊をウォッチする市民の会」を名乗る団体が、自衛隊の催しで銃器を市民に触れさせるのは銃刀法違反だと主張し、防衛大臣と自衛隊幹部を検察庁に告発した話がありました。

  東京都内の陸上自衛隊練馬駐屯地で昨年四月にあった駐屯地記念行事で、自衛官が市民に銃を扱わせた行為が銃刀法違反にあたるとして、都内の市民団体「自 衛隊をウォッチする市民の会」(代表、種田和敏弁護士)が十日、当時の田中直紀防衛相と陸自幹部ら四人を東京地検に刑事告発する。同様の行為は、各地にあ る自衛隊駐屯地や駐屯地外のイベントで行われているが、違法性が問われるのは初めてで、自衛隊内に戸惑いが広がっている。(東京新聞)

 「うわー、この手で来たか―」というのが正直な感想なんですが、自衛隊イベントにしょっちゅう参加する身としては、この手の自衛隊側を萎縮させる要素は大変よろしくない。
実際、先週末に行われた自衛隊行事にも既に影響が出ています。私も行った技術研究本部陸上装備研究所の一般公開では、地雷探知装置を来場者に操作してもらう出し物が、告発を受けて隊員による実演に変更。また、滝ヶ原駐屯地などでも銃に触れることは出来なくなるなど、告発の行方次第では、今後も自衛隊イベントに影響を及ぼしそうです。



そもそも、どこに告発の要素があったのか?

で、この「自衛隊をウォッチする市民の会」が何を根拠に告発したのか? クッソ怠惰な団体のようで、告発報道から5日経過した4月15日現在でも、団体公式サイトには声明文の一つも載っておりません。しょうがないので、赤旗の報道内容を頼りに根拠を集約してみると、下記の2点にまとめられると思います。

  1. 「市民が銃を自由にできる状態」にすることの銃刀法違反
  2.  子どもを武器や軍事訓練に慣れさせるという行為はジュネーブ条約や子ども権利条約の趣旨に反する

この中で、1の銃刀法違反云々は、微妙な問題も孕んでいるのも事実なのです。鉄砲の所持は公安委員会の許可が必要となるわけですが、法律上の鉄砲の「所持」概念は『物に対する事実上の支配。保管、携帯、運搬等』とかなり厳しく、他人に預けたり、家族に持ち運びさせただけでも違法に問われます。
「自衛隊をウォッチする市民の会」が告発にあたって用いた証拠写真とやらが、実銃じゃなくてエアガン並べただけに過ぎないという実にアイタタな話もありますが、現実に実銃を触れさせる事は多くの駐屯地で行われているので、告発そのものの意味はまだ生きているでしょう。
しかし、現実には自衛隊イベントにおいて、実銃は下の写真のようにスチールケーブルで固定されている状態で展示されます。この状態では「物に対する事実上の支配」は認められず、違法性はかなり低くなります。


自衛隊の装備展示 ケーブルで固定されている


ウォッチする会の記者会見での写真。展示品はエアガンなので固定されていない(NHKニュースより)

「ウォッチする会」が悪質なのは、恐らく展示品がエアガンだと分かっていながら、敢えて固定されていない銃が展示されているかのイメージを植え付けようとしている点です。

 続いて2の点。これも実に嫌らしい。主張は『子どもを武器や軍事訓練に慣れさせるという行為はジュネーブ条約や子ども権利条約の趣旨に反する』としていますが、具体的に条約の何条に違反していると言わず、「趣旨に反する」としている点が、実に弁護士らしい嫌らしさを醸しだしております。
この中でジュネーブ条約の趣旨に反する、という件は軍人と文民の区別の点でケチつけたいんでしょうが、じゃあジュネーブ条約を批准している他の国ではどうでしょうか。少なくとも私は、米軍とオーストラリア軍の銃器を弄らせてもらった経験があります。軍が後方の一環として展示する銃に、市民が触れることでジュネーブ条約違反になるんなら、これどうなんでしょうね。

米軍基地内で触った銃(これは訓練用だけど基本実銃です)

 子どもの権利条約云々に関しては言いがかりもいいところで、「キッザニアが児童労働推進施設!」と告発するようなもんです。アホらし。



そもそも、「ウォッチする会」って何なのさ?

じゃあ、この告発を行った「自衛隊をウォッチする市民の会」ってどんな団体なんでしょ? 平和団体ウォッチをちょこちょこ続けていた自分も初耳の団体でしたので、やる気の無い公式サイトで確認すると、2012年の10月に誕生したばかりの団体で、代表の種田和敏弁護士も2011年に弁護士登録したばかりのルーキー。じゃあ、新しい団体? かと思いきや、そうはいかない。その手慣れた自衛隊攻撃手法は、脈々と受け継がれてきたものです。
代表の種田弁護士ですが、氏の所属する城北法律事務所のメンバーや訴訟案件確認すると、労働・平和・社会問題系が多く、かなりイデオロギッシュなものを感じさせる事務所です。で、ここの先輩弁護士がツイッターで宣伝を行なっております。


で、この田村弁護士に会見時の写真(並ぶエアガン写真)の誤りについて問い合わせている人がいます。4月15日20時時点で返答はありませんが、ツイートは続けています。どうやら写真のことは黙殺のようです。

話を「ウォッチする会」と種田弁護士に戻しましょう。「ウォッチする会」のドメインである"competo.vis.ne.jp"は見慣れないものですが、このドメインを使っているサイトがもう一つあります。日本平和委員会の地域組織、東京平和委員会です。種田弁護士は東京平和委員会にも籍を置いており、事実上「ウォッチする会」は東京平和委員会の関連団体のようです。
また、今回の告発について、一番詳細に記述しているのが、他でもないしんぶん赤旗であり、告発に先立つ4月8日にも子ども 兵士体験 陸自武器展示 市民グループが懸念」と仕込み記事を書いています。
今回の告発においては、その当初から東京平和委員会、日本平和委員会、そして日本共産党の影がチラついています。



とっても愉快な日本平和委員会

じゃあ、日本平和委員会ってなんでしょうね。公式サイトを見ますと、1949年に誕生した平和団体とのことですが、ぶっちゃけ日本共産党の関連組織です。過去、この団体は色々と愉快なことをしております。1958年10月23日の読売新聞を見てみましょう。


読売新聞 1958年10月23日夕刊

あら奥様。警察の手入れを受けてますわよ! しかも闇ドル事件ですって!
はい、日本平和委員会と中原淳吉常任理事は、1958年に日本に闇ドルを流通させた容疑で警察にパクられており、このドルの出所はソ連による対日工作資金でした。この頃、ソ連から日本共産党への直接の資金の流れの監視が厳しくなっており、日本平和委員会や原水協などの共産党系平和団体を通じて工作資金が流れるようになっておりました。1957年だけでソ連・中国・北朝鮮から3億円(現在の貨幣価値で15億円以上)もの工作資金が、これらの団体を通じて日本共産党などに流れていました。

この中原理事、公判を前にした1959年8月3日に失踪してしまいます。公判から逃げるためとも、日本共産党で多額の資金を扱っていた中原理事がヤバイ問題を起こしたなどとも言われていますが、詳細は不明です。
同月19日には服毒自殺未遂を起こした所を発見されて保護されるのですが、情けないことに発見されても自分は中原でないと通し続け、記者団にも無言とステキ過ぎます。



由緒正しく古臭い日本の平和団体「自衛隊をウォッチする市民の会」とこれから

話を「自衛隊をウォッチする会」に戻そう。
ウォッチする会も元を辿れば手垢にまみれた古臭い日本共産党系の平和団体でした。東京平和委員会のあるオフィスを間借りしているようですが、ここはレンタルオフィスで1人用の椅子と机しか置いていない、事実上の名義貸しオフィスです。六本木ヒルズとかに置かれている同様のオフィスが怪しい企業の巣窟になっていることは知られていますが、こちらも怪しいことこの上ない。

ウォッチする会事務所のあるビル

しかし、なんで今になって、こんな外見だけ新しく取り繕った平和団体が立ち上がったんでしょうか。その契機が、先の震災にあると自分は考えています。震災における自衛隊活動への評価により、国民の自衛隊支持がかつてないほど高まりつつある今、従来の自衛隊の存在そのものを否定するタイプの平和活動はその存続が危ぶまれています。
そんな中、「自衛隊を監視」すると称した団体を立ち上げることで、正面切った自衛隊否定を回避しつつ、反自衛隊活動を行おうとしている、ってところじゃないでしょうか。自衛隊否定がやり難くなった現在、今後もこの手の団体は増えるものと思います。

しかし、「自衛隊をウォッチする市民の会」というネーミング自体が、ものっそい古臭い代々木臭を醸しだしております。 「在日特権を許さない市民の会」が出来てからというもの、「市民の会」という単語の胡散臭さが一気に増したというのに、それにも気づかないで「市民の会」を名乗るセンスの無さが流石としか。

新しい革袋に古い酒を入れても、腐臭は消えないのにね。

以上

2013年4月14日日曜日

NBC偵察車@陸上装備研究所一般公開(後編)

前編の続き。

さて、化学グローブを外に出す事によって、試料採取活動を行うNBC偵察車ですが、どのように採取・分析が行われるのでしょうか。


温度計測


まず、後部で目立つ先端が白い2本の棒(上写真)から説明したいと思います。この棒の先端部は温度計で、気温の測定に使われます。1本は地面に近い温度、もう1本は人間の背の高さほどの位置の温度を計測します。これは両者の温度差から、周囲の空気がどの程度対流しているのかを計測するものです。対流が激しい場合、化学剤や生物剤は拡散し効果が薄れますが、対流が起きていない場合は周囲に高濃度で漂います。このように対流の具合を計測することで、周囲がどの程度危険かを察知することができます。

 続いて化学グローブやサンプル採取器具が収納されてあるボックスです。


ボックス


 ボックスは車体後部右にあり、化学グローブや各種サンプル採取用器具を収納しております。


ボックス内 各種用具


ボックスの 中は左から採土器、アーム、サンプル容器、化学剤センサとなっていました。採土器は地面に突き刺して付着した土を採取し、アームは対象サンプルを回収する為に用いられます。また、化学剤センサは化学剤付近に近づけて、気化した化学剤を判別するのに使われますが、対象の気化が不十分な場合、先端部を230度にまで加熱することで対象を気化させて測定することもできます。
これらの器具を、車内からガラス窓を覗きこみ、車外に突き出た化学グローブを用いて操作します。

採取されたサンプルは、サンプル回収管(写真中央)を通じて回収されます。


サンプル回収管(写真中央のパイプ)

サンプル回収管は縦に収容されていますが、回収時には横に倒れ、化学グローブでサンプルをこの中に入れます。その後、管を縦に戻すとサンプルが下に落ち、収容口に届く仕組みになっています。

化学グローブなどを用いない収集手段もあります。車体後部ドア下部には、空気採取用の小窓が設置されております。


空気採取用窓 ドア下部

 
この窓を通じてサンプルの空気がチューブに採取されます。空気はチューブに封入されており、車内でも取り扱うことが出来ます。

車体後部左には洗浄用の水タンクが設置されています。


洗浄用水タンク


この水は車内での器具洗浄等にも使われる他、タイヤを洗浄するのにも用いられており、各タイヤの前には洗浄用ノズルが備わっています。


タイヤ洗浄ノズル

この車両の配備先である自衛隊の中央特殊武器防護隊は、前身の第101化学防護隊の時代から武器地下鉄サリン事件、福島第一原発事故でも派遣されている部隊です。NBC偵察車はNBC全ての分析に対応したことで従来より効率が増しており、今後もNBCテロや原子力災害などでの活動が期待されます。

以上

2013年4月13日土曜日

NBC偵察車@陸上装備研究所一般公開(前編)

本日4月13日は、防衛省技術研究本部陸上装備研究所の一般公開でしたので行ってみたところ、まだ珍しいNBC偵察車が展示されておりましたので、これについて隊員の方に詳しく聞いてみました。

NBC偵察車
NBC偵察車は82式指揮通信車ベースの化学防護車と、トラック型車両の生物偵察車の2車種を一本化した後継装備で、2010年に配備が調達が開始されました。従来の化学防護車が核兵器(Nuclear)・化学兵器(Chemical)環境下での調査・分析活動を、生物偵察車が生物兵器(Biological)環境下での調査・分析活動と任務が分かれていたのに対し、NBC偵察車は1両で核・化学・生物兵器環境下における調査・分析できる車両として開発されました。
従来の化学防護車が6輪の車両であったのに対し、NBC偵察車は8輪と大型化しており、内部容積の拡大によって居住性・分析能力の向上が図られています。8輪に大型化してはいるものの、6輪の化学防護車と同程度の旋回半径を維持しているのも特徴です。

各車両比較

次に各機能を見て行きましょう。まず、車体前部に取り付けられた化学剤検知器です。

化学剤検知器 AP2C-V

この化学剤検知器はフランスのPROENGIN社製のAP2C-Vで、自衛隊や警察でも携帯型検知器として導入されているAP2Cの車載版です。化学剤汚染検知し、アラートを出したりするために使われます。

生物兵器検知 大気収集口

車体上部には生物兵器を検知するため、大気を収集する管が2本設置されています。左の管は大気中の微粒子を収集し、生物兵器に使われる大きさの微粒子を検知します。生物兵器が大気に撒かれる場合、菌が付着する粒子は大きすぎても小さすぎても効果が下がるため、一定の大きさの粒子が使われることを利用したシステムです。右の管は大気中のサンプルを集め、車内での分析に供せられます。

続いて車体後部を見てみましょう。
NBC偵察車 車体後部
NBC偵察車の後部には、試料採取の為の装置があります。ここでは、NBC偵察車の特徴でもある、人力による試料採取を紹介しましょう。

化学防護車 マニピュレーター
従来装備の化学防護車では、試料をマニピュレーターを車内から操作して採取していました。しかしながら、この手法は操作に時間がかかる、マニピュレーターが故障したら採取ができなくなる等の問題がありました。
このような問題に対し、NBC偵察車は実にアナログな方法で解決しました。

人力操作による試料採取
 上記の写真のように、車外に化学グローブを出して、人力で試料採取を行う方法です。これにより、マニピュレーターよりも迅速な試料採取を行うと共に、故障知らずの信頼性を手に入れております。
発想的には、外気と遮断した環境で作業を行う装置であるグローブボックスと同じで、対象が中にあるか外にあるかが逆転しただけです。


NASAで使われているグローブボックス

次回はどうやって採取し、分析するかについて紹介したいと思います。

2013年4月12日金曜日

10式戦車の試作車と量産車の違い、及び装甲カバーの中身について(後編)

補助動力装置

10式戦車は多くの電子機器を搭載しており、そこで消費される電力は相当なものです。90式などの従来型戦車の電気系の電圧は48Vと24Vであったのに対し、10式は96Vと家庭用に近い電圧にまで上がっており、90式と比較しても多くの電力が必要となります。エンジンが休止・故障している際も、電力を供給しなければならないシチュエーションも多くあるでしょう。
その為に、10式戦車はエンジンとは別に、補助動力装置(APU)をオプションとして導入できます。 10式の車体後部左には、補助動力装置用の吸排気口らしきものがあります。


10式戦車試作車 補助動力装置

 この補助動力装置は単気筒ディーゼル発電機で、エンジン休止時にも車内の電子機器に対して単独で電力を供給することが可能です。単気筒のディーゼルですから、発熱・騒音も少ないので車両の秘匿性を高め、エンジンを切っておけるので燃料の節約にもつながります。


10式戦車試作車 補助動力装置上部

この補助動力装置は前述の通りオプションで、装着するかどうかは選択できるようです。上の写真を見ると判りますが、上の蓋を外して容易に取り外しができるようになっております。このため故障時の換装や、将来に補助動力装置の能力向上が必要になった時にも対応できるものと考えられます。


10式戦車量産車 補助動力装置カバー?(写真左)
 エンジン側の排気を吸わないようにするためか、量産車ではカバーが着けられています。小さな点ですが、試作車両には見られなかった点です。

 

側面付加装甲の細部の違い


続いて、側面の付加装甲の違いを見てみましょう。
試作車両 装甲カバー

量産車両 装甲カバー
上の写真を見て分かるように、偽装網取り付け用のフックがある点で共通しているものの、量産車の付加装甲には試作車には無い可動部があります。

10式戦車量産車 砲塔側面付加装甲カバー拡大

拡大すると、蝶番の存在が分かります。つまり、これ、フランス戦車のルクレールと同じように、収納箱の役割があるわけです。
今回、それを裏付ける決定的シーンを映像で捉えましたの。ニコニコ動画、YouTube双方にアップロードしましたので御覧下さい。





図らずしも、カバー説がこれで立証できたと思います。

2013年4月10日水曜日

10式戦車の試作車と量産車の違い、及び装甲カバーの中身について(前編)

さて、先週は10式戦車の装甲についてgdgdと書いてみた訳ですが、たまたま日曜日の駒門駐屯地創立記念行事で、先週書いたことを補強する材料を色々と発見できました。
今回は発見した事と併せて、10式戦車の試作車と量産車の違いについて考え、そして装甲カバーの中はどうなってるのかについて見ていきましょう。



車体前面下部カメラの有無


 試作車と量産車の違いについてですが、実は量産車を近くでマジマジと眺めたのは先日の駒門が初めてでした。総火演は混むし、去年の駒門も雨だったので「10式戦車? もう腐るほど見たからいーや」と早々に帰っていたせいなんですが、じっくり見ると細かい違いがたくさんあって、自分の迂闊さを呪いますね。

では写真で較べてみましょう。まず、車体前面下部にカメラが追加されていました。



【写真1】10式戦車 試作2号車


【写真2】10式戦車 量産6号車

量産6号車の車体前面下部にガラス面があり、内部にカメラが設置されているのが分かります(桜マークの下です)。操縦手用の前方下部確認用カメラと見られ、試作2号車では確認できなかったものですが、これが量産車に追加された仕様なのか、単に試作車の装甲カバーが見えないだけだったのかは不明です。

また、これらの写真から試作車・量産車共に、車体の上に金属製カバーをボルト留めして車体表面を隠している事が分かります。ライトの部分も網がかかってよく見えない徹底ぶりです。90式の車体前面は下の写真の様にスッキリしているのに、10式に至ってはボルトだらけです。



【写真3】90式戦車車体前面



光学系装置の配置


前方下部カメラの他に、正面から目に付く点として、光学系の配置が異なります。
下の量産車の写真で、砲身右の機関銃孔上には特に光学系はありません。


 【写真4】10式戦車(量産車)


 が、試作車両にはかなり大きいレンズが見えます。砲身の軸線に近いところに配置され、向きは固定されているので照準関連の装置と推測されます。





【写真5】10式戦車(試作車)
じゃあ、この無くなったのがどこ行ったかというと、


【写真6】 10式戦車、試作/量産車砲盾部比較

 上の比較写真のように、砲盾部の前面に移動したものと考えられます。

 次回は装甲カバーの違いと、その役割について。多分、解説動画も一緒にやります(・ω・)ノシ

2013年4月9日火曜日

74式戦車改の実物って、まだあったのねという話

先日の駒門で初めて知ったんですが、74式戦車改(G型)の実物ってまだあったんですね。


74式戦車改は、制式名は74式戦車(G)とされており、74式戦車のバリエーションの一つです。90式戦車登場後の1992年から開発が行われ、熱線暗視装置(下写真の砲塔左部の箱です)、レーザー照射検知器とそれに連動した煙幕発射機、サイドスカートの取り付け可能になるなどの大幅な改良が図られておりましたが、改修されたのは4両に留まり、74式戦車の全数が改修されることはありませんでした。


特に、上の写真にある熱線暗視装置は、仕様を確認すると90式戦車と同じ物が使われているようで、夜間戦闘力は格段に向上したのではないかと思われます。 主に予算の都合で全数改修は行われなかったのは残念ですね。

私はだいぶ昔、なにかの雑誌で「改に改修された74式は、その後E型に戻された」と読んだ記憶があり、ずっとそうだと思い込んでいたんですが、駒門駐屯地で展示されているのを見かけて現物がまだあるんだと驚きました。隊員の方に聞いてみると、G型に限りなく近い形で4両が現存しており、教育隊に配備されているそうです。知識アップデートの重要性を思い知らされました。
また、Wikipediaでは「富士教導団戦車教導隊で運用」されているとありますが、教導団ではなく、駒門駐屯地の第一機甲教育隊所属が正しいのだそうです。



今回の写真、設定ミスで白飛び黒潰れが酷かったんですが、LightRoom4の修正でかなり改善できました。いや、助かった。

2013年4月7日日曜日

11式装軌車回収車について

さて、写真と動画に続いて、11式装軌車回収車についてまとめてみました。今回初公開された11式装軌車回収車は、78式戦車回収車の更新機材として、10式戦車の車体を流用して作られた、装軌車両の回収車です。
90式戦車回収車がTKR又はTR,"Tank Recovery"と呼ばれているのに対し、11式装軌車回収車はCVR,"Crawler Vehicle Recovery"と呼ばれております。90式戦車回収車が戦車回収車なのに対し、装軌車回収車と名乗っているのは、50トンの重量がある90式戦車を40トン級の10式戦車ベースの11式で回収するのは困難な為、または既に配備が進んでいる重装輪回収車との命名の整合性を保つ為と考えられます。

基本的なレイアウトは下の比較の通り、90式戦車回収車を踏襲しておりますが、車体部は10式流用、またアンテナは10式戦車と同じJAT-F30使用しており、10式との共通性が随所に見られます。

11式装軌車回収車



90式戦車回収車(Wikipediaより引用)


 車体左側面には乗降扉があり、ハッチはあるものの普段はこちらから出入りすることが多いというお話でした。展示説明時に使う立看板をこの乗降扉から取り出すなど、ハッチよりは利便性があり、かつ車内容積の余裕を感じられました。



 また、備品を詳しく見てみると、概ね三菱重工で制作されていますが、ドイツのRotzler社のウィンチが後方に装着されてました。最大500kN(約50トン)まで牽引可能なようで、セルフリカバリーなどを兼ねたウィンチのようでした。
 このような装備は、正面装備と比べると地味で目立ちませんが、平時から有事に至るまでの戦車の活動を支える重要な装備であり、今後も10式譲りの無断階変速機による高トルクを活かして活躍するものと見られます。