2010年3月5日金曜日

自衛隊の海賊対処活動とその実情 前編

 アデン湾・ソマリア沖の海賊問題について、当ブログでも派遣前からも何度か触れていましたが、早いもので2009年3月14日の派遣からもうすぐ1年です。派遣水上部隊も現在は4次隊にまで引き継がれ、護衛回数も100を超えました。今回は3月2日に防衛省南関東防衛局が行った防衛セミナーでの講演内容も踏まえ、派遣された海賊対処活動の実情にフォーカスを当てたいと思います。



■海上自衛隊初の船団護衛活動

アデン湾・ソマリア沖での海賊が国際問題となる中、2009年1月28日に浜田防衛大臣(当時)によりアデン湾・ソマリア沖への派遣準備指示が発令されました。これを受けて海上自衛隊では派遣に向けた準備を開始しますが、前例の無い船団護衛任務であり、準備から任務開始までの期間がまだ未定の状態でした(実際に派遣されるのは3月14日で準備期間は2ヶ月無かった)。第一次派遣海賊対処水上部隊指揮官に任ぜられた五島浩司一佐は準備指示に対して、まずは「護衛任務のイメージ作り」から始め、大まかに以下の3つを行うことにしたそうです。
1.「護衛任務の具体化」
  • 護衛要領の作成
  • 特別警戒配備
2.「人・物の補強」
  • 人事課との調整
  • 装備の補強
  • 隊員への教育
3.「ガイドライン作成」
  • 国土交通省・日本船主協会との調整
    以上のうち、「護衛任務の具体化」は実際の護衛活動の内容について「策定→検証→修正→策定→……」のプロセスを繰り返し、護衛要領が完成したのは出発の3日前だったそうです。「人・物の補強」については、海賊対処に必要とされる人員や装備を検討し、海賊対処という新しい任務について隊員への教育を行い、「ガイドライン作成」では護衛対象となる船舶用のガイドラインを国交省・日本船主協会との調整のもと作成しました。



    ■準備活動とその内容

    では、具体的な準備の内容はどのようなものだったのでしょうか?
    まず、今回の派遣にあたって新規・追加で艦艇に装備されたものは以下の6つです。

    新規装備
    1.防弾板:各所に配置。
    2.LRAD :艦は片舷に1基ずつ、計2基装備。
          哨戒ヘリにも小型のものを1基装備。
    3.特別機動船(RHIB):各艦2隻ずつ装備。

    追加装備
    4.インマルサット(衛星通信装置):通信の増大等に備え追加。
    5.哨戒ヘリ:砂塵・高熱対策の為、第一次派遣部隊のみ各艦2機。
           通常は1機。
    6.12.7mm機関銃:片舷1丁ずつ追加。
    以上の装備についての検証から行われます。数キロ先に大音響を伝えるLRADや防弾板等の能力を実際に使ったり、射撃を行うことで使用に耐えるものか検証します。次に個々の装備の訓練を実施し、最後に実際の場面を想定した総合的な訓練を行う、といった段階を踏んだ検証・訓練を行ったとのことです。訓練に当たっては想定状況がありますが、考えられる最悪の想定を3つ設定し訓練が行われました。余談ですが、この「最悪の想定」は五島一佐が夜な夜な見る悪夢を参考にして設定されたとのことでした。

    また、装備の他にも医療・救護体制についても強化を行い、隊員の負傷・護衛対象船の船員の負傷・海賊の負傷という3パターンについての検証・訓練も行われました。

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    【2009年2月20日に行われた海上保安庁との合同訓練。右側が海上保安官】(引用:朝雲新聞サイトより)
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    2009年3月2日~3日にかけて行われた、海賊対処に係る図上演習の様子(引用:統合幕僚監部サイトより)

    このような準備の後、2009年3月13日に海上警備行動が発令され、翌14日に第一次派遣海賊対処水上部隊は出航しました。しかしながら、現地への航行中も訓練は引き続き行われ、射撃訓練や立入検査訓練、LRADで流す各国語の警告メッセージの録音等が行われました。護衛開始三日前になって、五島一佐は初めて隊員が休暇を取っていないことに気づき、艦内放送で全員に謝罪した後、一日だけ休みを取らせる事ができたそうです。それほどの多忙な訓練であったと推測されます。



    ■船団護衛活動の実際
    船団の護衛は2009年3月30日より開始されます。護衛対象となる船舶は5隻で、海賊対処法案が可決される前の海上警備行動に基づく活動でしたので全て日本関連船舶でした。

    船団はアデン湾・ソマリア沖に展開しているアメリカ軍を中心とする有志連合軍が設定した「安全回廊」を航行します。安全回廊はイエメン沖30~40マイルに設定された長さ900キロの海域で、有志連合軍やEU軍が重点的に警備を行っています。しかしながら、それでも海賊は安全回廊にも出没する為、海上自衛隊による船団の直接護衛方式が取られました。なお、同様の直接護衛方式は中国、ロシア、インド、韓国等も行っております。

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    安全回廊

    上図の様にA点からB点、B点からA点間を航行する船団の護衛が派遣部隊の任務になります。

    今回の派遣にあたっては、ソマリア沖というキーワードから無政府状態のソマリアから海賊が来ているものと思われがちですが、実際は対岸のイエメン人の海賊も多く、昨今のイエメンの治安悪化も相まって混迷を極めています。この地域の海賊の特徴として、伝統的なダウ船を母船にし、そこからスキフと言われる小舟で船舶を襲撃するのが手段が挙げられます。問題はダウ船にしてもスキフにしても、この地域の漁民等が使っているものと船自体は全く同じであり、識別が困難です。しかしながら、怪しい船は船に積んでいるものから以下の様に特徴付けられます。


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    海賊が襲撃に使うスキフの特徴(筆者作成)

    上図のように、ハシゴの搭載、エンジンの数、乗員数やポリタンク等から怪しい船が見分けられます。ただし、あくまで「怪しい」としか言えず、この船が海賊行為に及ぶか、臨検して武器が発見されなければ海賊船と断定することはできません。この地域の海賊は漁民が多いと言われており、同じ船を使って、ある時は漁民、ある時は海賊、ある時は麻薬輸送と様々な合法・違法行為をしていると考えられ、このような事情が海賊の識別をより一層困難なものにしています。このような場所ですから、商船は小さい船を見かける度に海賊船と思ってしまう為、派遣部隊は1日に10件以上のSOSを受信することも少なくありません。

    では、船団護衛自体はどのように行われているのでしょうか。言葉で説明するよりも、絵で説明した方が理解しやすいので、以下の図をご覧下さい。

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    船団護衛内容(筆者作成)

    基本的に単縦列・複縦列を基本とした船団を組み、船団の前方と後方を護衛艦で固め、哨戒ヘリで近辺を警戒する形になります。ここで注目すべきは、護衛対象の船団をハイリスク船とローリスク船に分けているところです。先程のスキフの写真を見て頂ければ分かると思いますが、襲撃に使われるスキフは小型な為、乾舷が高い船に乗り込むことは困難です。また、高速船はスキフを振り切ることが可能で、これらの船は比較的襲撃されるリスクが少ないです。逆に乾舷が低い船や低速船は襲撃を受けやすいため、ハイリスクな船となります。

    船団ではハイリスク船とローリスク船に分け、ローリスク船を前方に、ハイリスク船を後方に配置します。不審船が前方から接近してきた場合、最も早く船団に近づく為に対処時間が短く危険です。その場合、前方の護衛艦が船団と海賊船の間に割って入り不審船の進路を塞ぎ、ローリスク船は高速を生かして海賊船とは反対方向へ退避します。速度の遅いハイリスク船は後方の護衛艦の近くを航行し護衛を受けるといった陣形を組むことにより、船団護衛は行われます。

    後編へ続く―

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