2010年2月1日月曜日

ソフトパワーについて ~日本のソフトパワーがアメリカのハードパワーに拮抗した日~



 近年、既成のメディアに対してインターネットが力を相対的に増していることに異論は無いでしょう。国際関係にもこれと似た事象が起きつつあり、従来国家の力の源泉とされていた軍事力・経済力等のいわゆる「ハードパワー」に対し、「ソフトパワー」と呼ばれる概念が注目されております。本稿ではこのソフトパワーについて触れたいと思います。





■ハードパワーとは




 ハードパワーとは、国家の望む結果を達成する為に軍事力・経済力による懲罰・強制を行える能力のことを指します。19世紀の軍事思想家であるクラウゼビッツの「戦争とは相手にわが意思を強要するための暴力の行使である」という言葉はハードパワーとしての軍事力の性格を端的に表したものと言えます。また、経済制裁により相手に自国の意志を強要は、北朝鮮への経済制裁等、憲法上戦争放棄をした日本でも行っている手段であります。


 しかしながら、このようなハードパワーの行使は国際社会の批判、行使された国と関係の深い国家の反発を招くことは、近年のイラク戦争を見れば明らかです。このようなハードパワーの問題に対する解決策の一つとして、ソフトパワーへ注目が集まっております。





■ソフトパワーとは




 強制力により目的を達成するハードパワーに対し、ソフトパワーとは文化・政策・政治的価値観の魅力により目的を達成する能力のことを指します。このソフトパワーの概念はアメリカの国際政治学者であるジョセフ・ナイによって提唱されたものでしたが、元々は1980年代におけるアメリカ衰退論に対する反論として持ち出されたものでした。しかし、2003年のイラク戦争後のアメリカへの国際社会の反発や頻発するテロに対して、解決の糸口として注目される様になりました。


 ハリウッドに代表されるアメリカ文化は大きな魅力を持っており、アメリカに対する好イメージに繋がります。高度な福祉政策を取る国は低福祉国の国民から羨望されるでしょうし、民主主義という政治的価値観は抑圧された国民にとっては大きな希望ともなります。


 しかしながら、ソフトパワーはハードパワーを代替するものではなく、ハードパワーと比べて定量化が難しい概念です。ナイはハードパワーとソフトパワー双方を駆使することが国際社会での国力に繋がるとしており、アメリカは2つのパワーを兼ね備えた国家であるとしています。ソフトパワーは徐々に存在感を増していますが、それ単体の影響力はまだ限定的なものです。





■ソフトパワーが国際社会に影響を及ぼした事例




 しかしながら、特定の条件化ではソフトパワーは大きな意義を持ちます。ソフトパワーが国際社会に影響を及ぼした事例として、ナイはセルビアにおけるミロシェビッチ失脚を挙げています。1990年代にミロシェビッチは自国のテレビを統制しており、情報をコントロールすることで自身の評判を高めようとしていました。つまりはソフトパワーの源泉としてテレビを統制下に置いていたのです。しかしながら、彼が失脚する2000年にはセルビア人成年の45%がラジオ・フリー・ヨーロッパ(RFE)やヴォイス・オブ・アメリカ(VOA)を聴いており、国家が統制しているラジオ・ベオグラードを聴いていた成人は31%に過ぎませんでした。RFEやVOAはアメリカ議会の出資による報道機関であり、民主的な価値観を広めることを公的に謳っています。RFEやVOAの放送を聴いて民主的価値観にシンパシーを持ったセルビア人が、選挙の不正に怒りデモ行進を行ったことはミロシェビッチ失脚の大きな要因となりました。もちろん、欧米からのハードパワーによる圧力も大きなものでしたが、ソフトパワーが相互補完的に影響を及ぼした事例と言えるでしょう。


 また、1991年の湾岸戦争時にCNNは国際世論に大きな影響を与えていましたが、2001年のアフガニスタン侵攻や2003年のイラク戦争では、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラがアラブ視点の報道を行うことで、それまでのアメリカ視点一辺倒だった報道に大きな転機を持たらし、国際世論に大きな影響を与えたことも記憶に新しいと思います。これもまたソフトパワーの一形態で、CNNを見た人とアルジャジーラを見た人では意見が違うことが指摘されております。


f:id:dragoner:20100202032205j:image:w640【天安門事件における「無名の反逆者」】。この映像がCNNにより放映されたことで、弾圧者としての中国政府と自由を求める民衆という対立軸が鮮明に焼き付けられた。(写真はJeff Widenerによるもの)





■日本におけるソフトパワー




 近年、日本においてもソフトパワーについての論議が活発です。ですが、その議論は政策・政治的価値観よりも文化的側面を重視したものが多いように見受けられます。政策面としては鳩山首相が掲げた二酸化炭素25%削減政策等がありますが、悲しいほどに国外から注目されていません。一方、文化面では日本の伝統文化やマンガ・アニメに代表されるポップカルチャーは海外でも広く受け入れられており、日本の有力なソフトパワーです。政策や政治的価値観は国家が関与する領域ですが、非国家の領域である文化が強いのは喜ぶべきなのか悲しむべきなのかは皆様にお任せします。








 ところで、最近ホットな国際問題として、アメリカが台湾への武器売却を決定したことは皆様御存知のことと思います。まさにアメリカによるハードパワーの行使であります。それを伝える台湾の4大紙の一つ「自由時報」の第一面を見てみましょう。








f:id:dragoner:20100131175031j:image:w640



 日本のソフトパワーがアメリカのハードパワーに拮抗したようです(えー





<参考文献>


 





1 件のコメント:

  1. オチがww
    いつも楽しく読ませてもらってます。

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