2008年6月30日月曜日

宣伝戦 日本対北朝鮮(その1)



 先週は株主総会ラッシュで多忙を極めた方も多いと思います。株主総会と言えば、総会屋による数々の妨害行為その他が毎年の様に報道されていますね。総会に限らず、なんらかの重要イベントの際に不穏当な噂や怪文書が流れるのは良くあることですが、それは外交の場でも同じみたいです。今日は約40年前にあった、北朝鮮による反日宣伝に対する外務省の対応についての記事です。





経緯


 1964年の5月4日、在チェコスロバキア大使より外務大臣へ「在当地北朝鮮大使館の反日宣伝に関する件」との報告書が送付されます。報告によりますと、在チェコスロバキアのスイス大使より、北朝鮮大使館がチェコスロバキアで配布している反日宣伝文書を入手したとのことです。この文書は3月20日付の朝鮮民主法律家協会声明の要旨で、発行責任者の名前はないが、北朝鮮大使館の封筒が使用されていました。内容は日韓会談が、米国の支持の下に日本が再び朝鮮を侵略するための陰謀であると決め付け、同時に1875年からの日本の対韓政策を極めて卑劣な言葉で誹謗し、日韓会談の反対を呼び掛けたものです。当時、日本と韓国の間では国交正常化に向けた日韓交渉が1961年より行われており、この報告の翌年、1965年6月には日韓条約が調印されることになるのですが、北朝鮮の意図はこの日韓会談の妨害にあったものと思われます。


 また、この文書を提供したスイス大使の話によれば、過去にも同種の宣伝文書が北朝鮮大使館からスイス大使館に送られていたとされ、他にも共産諸国・アジア・アフリカ諸国の大使館・公使館、チェコスロバキアの官庁・民間団体に相当数が配布されていると見られました。これを受け、在チェコスロバキア大使館では対抗措置を検討することになります。





対応


 しかしながら、北朝鮮と国交が無い以上、公式に北朝鮮大使館に対して抗議することはできないという問題があります。そこで日本大使館は以下の2つの対応を検討しました。


 ・チェコスロバキア外務省に対し、北朝鮮の反日宣伝は外交特権の濫用だとして、文書の差し止めを要請。


 ・反論文書を作成し、在チェコスロバキアの諸団体に送付する。


 ただ、この2つの策はいくつかの理由で効果がないと見られていました。


 まず前者です。チェコスロバキア当局は、この種の外国人向け文書に対する検閲を行っておらず、外国間の宣伝戦に干渉することはないだろうという推測です。この推測の根拠として、在チェコスロバキアの各国大使館に送られてくる宣伝文書に対し、チェコスロバキア当局が対応措置を取ったことは無いということを挙げています。例外として、1963年に中国人が反ソ連宣伝文書を配布した際、新華社通信の支局をチェコスロバキア当局が閉鎖したこともありますが、これは外国人向けではなく、チェコ人向けの反ソ連宣伝であり、チェコスロバキアの実質的宗主国であるソ連との関係上、当局が干渉を行ったものと見られます。以上のことから、チェコスロバキア当局の干渉は期待できないと見られました。


 次に後者です。この反日文書は様々な誇張や虚偽を含みますが、事実や事実に似通ったこともいくつか述べられていました。嘘の中に若干の事実を混ぜることで嘘に真実味を持たせるのはセオリー通りですが、このような文書に対して一々反論(特に日本の朝鮮統治について)を行うことは、当時進んでいた日韓交渉の絡みもあり、非常に微妙な問題でした。


 この文書はチェコスロバキアのみならず、北朝鮮と外交関係にある国では似たような形式で配布されていると思われるため、日本大使館は外務本省で総合的な対策を検討し、対応策を指示するように外務大臣に要請しました。


(続く)





2008年6月21日土曜日

技術研究本部もシンクライアント導入



 ふと思ったこと。動機、裏付けは特にありませんので話し半分に。


 海上自衛隊が情報流失対策として、保有する3万台のPCを米サン・マイクロシステムズ製のシンクライアントに置き換えるとの報道が2月にありましたが、防衛省技術研究本部でも15台のシンクライアント端末と1台のサーバを導入するそうです。


 シンクライアントについては、供給元のサンのページをご覧いただいた方が確実ですが、ここで簡単に言うと、端末側にストレージ(この場合はハードディスク)を持たず、ネットワークで接続されたサーバ側でデータ・ソフトウェアを一元管理するシステムです。秘密保持の観点からは、盗難・紛失による情報漏洩の心配がなく、データの管理も中央で行いやすいという利点があります。


 技術研究本部で導入されたのもサンの製品(Sun Ray)と思われます。しかしこのシンクライアント、少し前までは全然売れず、タダ同然で販売していたような時期もあったと伝え聞いています。もっとも、サーバの管理費等で長期的に資金を回収できる仕組みにはなっているのですが、それにしても酷かったとか。


 最近になり、PCからの情報流失が問題になると、ようやくシンクライアントにも日の目が当たるようになり、海上自衛隊が3万台導入という最大の実績が生まれようとしています。最近開かれた某展示会でもシンクライアント・疑似シンクライアントは大々的に展示されていましたが、かつては分散が持て囃されていた時期もあったので、この潮流が一時的なものかそうでないかが明らかになるのは今少し時間が必要なようです。


 でも、なんだかんだ言って、情報流出の50%は紙媒体によるもので、そこいらの対策も非常に気になります。民間ではFeliCa等のICカードに対応したドキュメントソリューションが活発に宣伝されていますが、もはや都市伝説と化している「自衛隊コピー代金自腹」(これ、実話ですか?)の息の根を止めることが先決な気もします。もっとも、防諜は最終的には人の問題に行きつきますが。





2008年6月14日土曜日

自衛隊の地道仕事 高空における放射能塵の測定



 2006年10月9日に北朝鮮が地下核実験を行ったと発表したことは記憶に新しいと思います。この発表を受け、内閣官房の放射能対策連絡会議(旧内閣放射能対策本部)は放射性物質のモニタリングの強化を防衛庁(当時)、文部科学省、環境省に要請しました。本稿ではこの際行われた自衛隊機による放射能塵の測定と通常任務について述べたいと思います。





自衛隊の臨時活動


 要請を受け、防衛庁では航空自衛隊機による高空での放射能塵の測定活動を開始します。


 航空自衛隊による放射能塵の測定は内閣放射能対策本部の環境汚染調査の一環として、1961年より毎月1回行われていましたが、今回はより詳細なデータを求める必要があったため、10月9日から11月10日まで毎日臨時の収集が行われました。


 防衛庁による放射能塵収集にはT-4練習機が使用され、集塵ポッドを搭載したT-4の姿が大きく報道されたことを覚えている方も多いでしょう。この集塵ポッドは正式には機上集塵器(2型)と呼ばれるもので、内部に高空塵採取用のエレクトレットフィルタ(静電気により集塵効果を高めたフィルタ)、放射性ガス捕集用の繊維状活性炭布を組み合わせた直径28センチのフィルタが装着されています。この機上集塵器(2型)を搭載したT-4は日本上空の3空域(西部・中部・北部空域、高度3km及び10km)で測定活動を行い(下図)、そこで採取された試料は財団法人日本分析センターにて分析が行われました。


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*文部科学省 『北朝鮮の核実験実施発表に対する放射能影響の観測結果について』より引用


 この分析の結果は各省庁の分析結果と併せ、文部科学省により公表されました。結果はどの省庁による観測活動でも人工放射性核種は検出されず、10月24日に内閣放射能対策連絡会議の決定に基づき、同日以降は他省庁の観測活動は通常業務に戻りましたが、防衛庁は引き続き25日から11月10日、11月20日から24日にかけても測定を行い、試料は技術研究本部で分析を行いましたが、これらの結果も以前と同様に人工放射性核種は検出されませんでした。現在、これらの分析結果により、北朝鮮による核実験は失敗か部分的成功に過ぎなかったのではと言われています。





普段の活動


 前述しましたが、自衛隊による高空での放射能塵の測定自体は1961年より実施されており、その分析は長らく技術研究本部第1研究所(現・先進技術推進センター)で行われています。通常は毎月1回なのですが、1964年の中国による核実験や1986年のチェルノブイリ原発事故の際にも今回と同じように臨時の測定活動も行われています。


 測定活動が始まった1961年当初、その収集方法は現在の集塵ポッドによるものではなく、ガムードペーパ方式と呼ばれるものでした。ガムードペーパ方式とは、航空機の主翼前面に17.5cm×33.5cmの両面シートを30枚貼り付けて飛行を行い、シートに放射能塵を付着させるというものです。この方式はとても簡便で安上がりなのですが、測定の差が大きいため1971年以降は特別調査以外には使用されていません。現在は前述した集塵ポッドを使用したフィルタ収集が行われています。


 さて、このように半世紀近く実施されてきた、自衛隊による高空での放射能塵の測定のデータは非常に貴重なものです。このデータを用いれば、放射能の高空での挙動が予測できるため、核実験や原発災害による放射能汚染の被害対策に貢献できます。このため、2004年に観測結果の概要部分が電子データベース化され、現在もデータベース化が継続されています。


 装備にばかり目が向けられがちですが、このような長年にわたる地道な活動は国民・国防にとり重要なものです。こういう活動にこそ、もうちょっと陽の目を当てても良いと思うのですがどうでしょうか?





参考文献


荻野久美子,佐藤 美穂子 『高空における放射能塵の調査研究(全β放射能濃度の長期的推移に関する考察)』 防衛省技術研究本部技報 2005年8月 


清水俊彦,内田信,岡田匡史 『高空における放射能塵の測定(特別調査) 』 防衛省技術研究本部技報 2007年5月


文部科学省 「北朝鮮の核実験実施発表に対する放射能影響の観測結果について


財団法人日本分析センター


放射能対策連絡会議 「北朝鮮による地下核実験実施発表に伴う当面の対応措置について


防衛省 モニタリング強化への協力について


資源環境技術総合研究所 NIREニュース 「エレクトレットフィルター





2008年6月6日金曜日

ちょっとだけ



 諸般の事情(いつもこれだ)で、いろいろと遅れ気味です。とりあえず、手に付けられることをやろうと思い、ニコニコ動画にupした動画を手直し。


 説明不足から誤解を招いてしまったらしいシーンに投稿者コメ付けただけですけどね……。赤文字の下固定が私です(違う人のもありますが…)。


 「88式地対艦誘導弾(SSM-1)試験映像 FULL」は一番多い8点で説明コメを入れました。90式試験映像は、間違えて一般コメで投稿してしまいすみません……。



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 それと、最近youtubeにTK-Xのドリフト映像がupされたようですが、私が以前upした試作車両用エンジンの画像が載っていて笑いました。あれは編集する時間が無かったものだから、Pixiaで慌てて背景切り抜いたり、ノイズ取ったりしたもんだから見苦しいものですが、資料にして頂けて嬉しいです。





 今後、掲載を予定している記事について。


 1.自動車産業と防衛 戦前編


 2.試作兵器水子供養 陸自編


 3.自衛隊の地道仕事 空自編


 掲載日程は未定です。